第32話:スキルの覚醒

「ちょっとっ。わたしまで一緒に突き飛ばすことないでしょ!?」

「きゃあぁぁ、ブレンダ後ろっ」


 ライザの悲鳴が聞こえた。

 四人の後ろから迫って来ていたモンスターが、追いついたのだ。

 ルイックがルナを突き飛ばし、それに巻き込まれたブレンダはよりモンスターに近い場所で尻もちをついていた。

 だから真っ先に狙われたのは彼女。


「いやああぁぁぁーっ」


 モンスターの長い舌が彼女の足を捉え、一瞬にして引き寄せた。


「ルイック、助けてルイック。バーリィ、ライザ、助けてお願い!」


 悲鳴と共に聞こえたのは、肉を断ち、骨が砕ける音。


「いああああぁぁぁぁぁっ」


 ブレンダの悲鳴が響く中、ルイックたちはじりじりと後ずさりしてすぐに俺の方へと駆けてきた。


「また見捨てるのかよ!」

「うるせぇロイド! だったらてめぇーが助けてやれよ、ブレンダをよぉ!!」

「もう手遅れだけどなっ」


 二人はそう言って駆けだした。ライザだけが青ざめた顔をして、一度だけ振り返った。


「あああぁぁぁ、いだいいだいいだいいだい助けて助けて助けてえぇ」


 こんなの……俺は嫌だ!

 俺はあいつらのようにはなりたくない!


「"プチ・ファイア"──"プチ・サンダー"」


 単発の魔法スキルを連射する。

 そこへにゃびの影が飛び出して行って、ブレンダを引きずってルナたちのところへ。

 だが同時にルイックたちを追っていたモンスターに追いつかれてしまい、完全に俺と分断されてしまった。


「ルナアァァッ」


 彼女たちの背後にも、もうモンスターは迫ってきているはずだ。

 もたもたしていたら、飲みこまれてしまう。

 プチ・ファイアストームで一掃できれば──だけどみんなを巻き込んでしまうっ。


「くそっ。なんで魔法スキルって、敵味方の区別を付けられないんだ! 魔法操作で操れるなら、それも出来たっていいだろ!」

「にゃあぁ、魔法はそこまで万能じゃにゃいにゃっ。とにかく一匹ずつでも減らしていくにゃよ!」

「それじゃあ間に合わないんだっ。今すぐ、あいつらを一掃出来るスキルじゃないとっ」


 そう叫びつつ、俺はプチ・ファイアを連続して叩き込む。

 一体二体倒したところで、奥からどんどんやってきているのだから焼け石に水状態だ。


「くそっ。"プチ・ファイア"!」


 モンスターの焦げつくニオイがする。


「ロイド、ありがとう」


 そんな声が聞こえた。

 ルナだ。

 俺とにゃび、そして彼女らの間のモンスターが増え、ルナの姿は全く見えない。

 唸り声の向こうで、確かにルナは話掛けてきた。


「チャンスをくれて、ありがとう。でももういいの。にゃびを連れて逃げて」

「な、何を言ってるんだルナ!」

「そうにゃ! おいにゃはロイドだけじゃにゃく、ルナだって死なせたくにゃいにゃ!」

「逃げろロイドくん。君に救われた命、ここで恩を返すっ。俺たちが時間を稼ぐから、君は安全地帯へ!」

「ジ、ジンさん!? そんなのダメに決まってるでしょうっ」


 何もしないでただ逃げるなんて、そんなの……冒険者になった意味がないじゃないか!

 幼かったあの日の、村が壊滅したあの日の俺と、何も変わってないじゃないか。


 ダメだ。絶対にダメだ!


「絶対に助けるんだ!!」


 叫んだ時、腹の底から何か力のようなものが溢れた。

 そしてブゥンッと音がいて、突然浮かび上がるステータスボード。

 そこには【『魔法操作・味方認識』を習得しました】という文字があった。


 味方認識!?

 それってもしかして──もしかするのか!?


 調べている暇も、検証している暇もない。


「みんな、俺を信じてくれ!」


 俺はステータスボードを信じる!


「"プチ・ファイアストーム"!」


 目の前で炎が渦巻く。その渦は轟音を響かせて前進し、ルナたちのいた場所へと到達した。


「うわあぁぁぁっ」

「きゃあぁぁーっ」


 ダメなのか!?

 いや、ルナが──ルナがこっちを見て笑っている。


 炎の渦の隙間から、ルナの姿が見えた。

 彼女は弓を構え、矢を番えて──放つ。

 近矢によってモンスターが倒れ、ジンの盾で数匹が吹き飛んだ。


 更に追加のプチ・ファイアストームを撃つ。

 その時にも女の子の悲鳴が聞こえた。


「ルナ! みんな! 大丈夫かっ」

「びっくりしただろう! 火葬されるのかと思ったぞ」

「私たち、確かに炎の中にいたのよ? でも熱くなかったわ。どうして?」

「説明はあとだ。"プチ・ファイアストーム"!」


 後ろのモンスターにも炎の渦をお見舞いする。

 だが数が多すぎて、実際て前の奴らしか仕留められていない。


「安全地帯へっ」

「この女は俺が抱えて連れて行く。いいんだよな?」

「ジンさん、頼みますっ」


 ステータスボードを急いで呼び出し、コポロのおかげで知ることのできた魔法を取った。

 石を飛ばして攻撃するロック。これをレベル10にして、発生した『プチ・ロックウォール』だ。

 急いでいたからレベルをいくつまで上げたのかよく確認していないけど、そんなのどうだっていい!


「"プチ・ロックウォール"」


 ウォール。つまり壁だ。

 岩の壁で敵からの攻撃を防ぐ魔法スキル、それをまずは後ろに展開した。

 続いてルイックたちがやってきた右側の通路だ。


「にゃび、来い!」


 にゃびと影が引き止めてくれたおかげで、みんなが逃げる時間を稼げた。

 そこへプチ・ロックウォールを展開。

 岩の壁が地面からせり上がる中、奥の方にひと際デカいモンスターの姿が見えた。

 この壁、どのくらい持つんだろうか?


 いや、こうしている間にもミシミシいってるぞ。


「急いで走れ!」

「安全地帯はこっちだ。三つめの角を曲がれば目の前に扉が見えるからな」

「"インパクトアロー"! 安全地帯までモンスターだらけみたいよっ」

「"プチ・ファイアストーム"! 立ち止まるな!」


 攻撃は俺とルナ、影にゃび、それにリアックがやる。

 先に行ったはずのルイックたちは、こんな大量のモンスターの中をどうやって走り抜けた──いや、逃げ切れなかったんだ。


 角を曲がる直前、ルナのインパクトアローで吹き飛んだモンスターの足元に、肉の塊が落ちていた。

 誰の、どの部分なのかも分からなくなってしまったもの。

 ただそこにライザの杖とバーリィの短剣、そしてルイックのマントが落ちているのだけは分かった。


 肉塊を横目に俺たちは全力で走った。

 安全地帯を目前にすると扉が内側から開かれ、数人の冒険者が躍り出る。


「急げ! こっちだっ」

「"スピードアップ"! さぁ、走ってっ」


 急に体が軽くなり、走る速度が上がった。

 バフをくれたのか。


 全員が安全地帯に滑り込むと、すぐさま扉は閉じられた。


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