第31話:もみもみ

「やぁぁぁ~、癒されるぅ」


 恍惚とした表情で、神官のミーナさんが言う。

 にゃびが彼女の手を取ってもみもみと揉み解していた。


 肉球もみもみのレベルを3にして、急いでマッサージを開始。

 魔力の回復に効果があるのかは分からないが、何もしないよりはいい。


 にゃびのマッサージが行われている間に、残りのメンバーで安全地帯まで走る準備をする。


「空間収納袋か、そんなレアアイテムを持ってるなんて、凄いな」

「これは完全に運だけどね。本当に俺を信じてくれるのか?」

「あぁ。わざわざ駆けつけて助けてくれるような冒険者を、どうして疑えるんだ」


 彼らの荷物を俺の袋の中に入れる。

 重い荷物を持ったまま走れば、体力の消耗も激しくなるからな。

 荷物を入れる──その気になれば持ち逃げだって出来る状況だ。

 そうはならいあ、と、彼らは俺を信じてくれた。


「次はリアックよ。あぁ、でももっとぷにぷにして欲しかった」

「それで、魔力はどうなんだ?」

「少し回復したみたい、大丈夫よ兄さん」


 重傷だった戦士と神官は兄妹だったのか。

 それはともかく、もみもみで魔力の回復も促されたようだ。


 今のうちにスキルボードを弄っておこう。

 コポトからの贈り物。スキルの発生条件がどうとか書かれていたけど。


 階段の隅に寄って、荷物の整理をする振りをしてステータスボードを呼び出す。


 コポトの贈り物……それっぽいものはどこにも見えない。

 職業を見習い魔術師にして、スキル一覧を確認してみよう。何かヒントが──あった!

 ステータスボードの文字は白色なのに、いくつか灰色の文字で書かれたスキル名がある。


 触れると説明が出て来て、そこにスキルの獲得条件があるじゃないか!?

 おぉ、範囲魔法スキルがある!


「もみもみ終わったにゃ」

「ロイドくん、こっちの準備は終わったぞ」

「あ、はいっ。じゃあ──」


 急いでステータスボードを弄って、プチ・カッターのレベルを10に、灰色から白に変わった『プチ・ファイアストーム』のスキルを5にしておいた。


「ミーナさん。まだ魔力は全快じゃないだろうし、温存してください。俺もプチ・ブレッシング使えるんで、サポートは俺がします」

「ロイドくんも神官、なの? でも剣を使っていたみたいだし」

「俺、器用貧乏なんですよ」


 全員にプチ・ブレッシングを施し、俺とにゃびが先頭に立って走り出す。最後尾は重傷だった向こうのリーダーのジンだ。

 

「ロイド、前方右側の角」

「了解。にゃび、頼む」

「うにゃ」


 耳のいいルナは俺たちのすぐ後ろだ。

 にゃぎの影が先行して、ルナが言った右側の角へと突っ込む。

 すぐにモンスターの悲鳴が聞こえたが、無視して真っ直ぐ駆け抜ける。

 十字路を過ぎる際にプチ・ファイアを右側に投げ込んだ。


「魔術師のスキルまで? 器用貧乏の域を超えてんじゃないか?」


 そんな声が後ろから掛けられた。もうひとりの戦士キリクだ。


「あはは……俺、職業適性なしなんで」

「適正──あっ、最近噂になってる適正なしって、君のことだったのか」

「モンスターハウスからの生存者!? なんだか希望が見えてきましたね」


 リアックの、少し弾んだような声が聞こえてきた。

 安易に期待されるのも困るけど、今は落ち込まれるよりはいい。

 記憶を頼りに通路を走るが、スタンピード化しつつあることを実感した。

 どんどん地面から壁からモンスターが生み出されている。

 どこかで誰かがモンスターを倒しまくっているにしても、復活ペースが速すぎるだろっ。


「くそ、キリがないなっ」

「道を塞ぐ奴だけ倒して、あとは無視しようっ。殲滅速度より復活速度のほうが早くなってきてる!」

「トレインはクソだが、そんなことも言ってられないか」


 暫く走ると別の冒険者パーティーがモンスターに囲まれている場面に遭遇した。


「"プチ・サンダー"! 安全地帯まで走れっ」

「な、仲間が怪我を」

「任せてください。"サークル・ヒール"!」


 凄い。ミーナの治癒スキルは、ヒールの範囲版じゃないか。

 見習いでもあれ、覚えられるかな。


「"インパクトアロー"! 吹き飛ばすから、今のうちにっ」


 ルナが正面奥の通路から迫って来るモンスターを吹き飛ばす。

 右側通路に駆けていって、群がるモンスターに向かってバースト・ブレイクをお見舞いしてこちらも吹き飛ばした。

 横からにゃびが躍り出て、仕留めそこなった奴の止めを刺す。更に後方から魔法の援護射撃が飛んで来た。


「"プチ・ブレッシング"。とにかく走れっ。安全地帯はこの近くのはずだっ」

「道を覚えていないのか? なら任せろ。この先の二つ目の角をまず右だ」

「知ってるのか? 助かるっ。にゃび、影を」

「先行にゃ~」


 移動速度の速さは、敏捷度にも依存している。

 低いから極端に襲い訳じゃないが、高いとその分早く走れる。

 だからといって他の人を置いて行く訳にも行かないから、にゃびと、それから俺、ルナも加減して走っていた。

 

 角のたびににゃびの影に先行させて、その先のモンスターの注意を引き付ける。

 俺とにゃび、それからルナが追い付いたらインパクトアローでふっ飛ばし、更に群がっているモンスターがいればバースト・ブレイク。

 にゃびが素早く個別に止めを刺して行った。

 数が多い時には、追いついたリアックが援護射撃をしてくれる。


 二つ目の角を曲がって、さっき合流したパーティーが次の道を叫ぶ。


「まっすぐ突き当りを左! 途中に脇道がいくつかあるから気を付けろっ」

「了解っ」


 突き当りの壁は、モンスターに阻まれて見えない。そこへルナの矢が飛んで、モンスターを吹き飛ばす。


「"プチ・ファイアストーム"!」


 人がいないから安心してぶっ放せる。

 渦巻く炎が、待ち構えるモンスターの群れの中心に現れた。

 飛ばすタイプじゃなく、任意の場所に炎の竜巻を出現させる魔法スキルか。


 モンスターを巻き込んで炎が渦巻き、次第に収束していく。

 レベルを5までしかとらなかったせいもあるのか、即死させることは出来なかった。

 だがほとんどが瀕死状態だ。


「すげっ。なんでお前は神官スキルと魔術師スキルが使えるんだよ」

「あー、説明は安全な所に行ってからで。止めは刺さずに走り抜けようっ。俺とにゃびが先行する」


 あの魔法があれば、少し先行して先に燃やしておく方が安全かもしれない。

 にゃびを連れて行くのは保険だ。魔法スキルの範囲外にいて、元気に突っ込んでこられたときには彼に仕留めて貰う。


「突き当りを左だぞ、にゃび」

「オッケーにゃ」


 左──角を曲がる時、右側から走って来る人影が見えた。

 その人影は、


「ルイック!?」

「ロイド!?」

「いっぱいいるにゃよロイド!」 


 左に曲がった先に、数十体のモンスターがいた。

 駆けてくるルイックたちの背後にもモンスターはいた。

 そして俺を後ろを追ってくるルナたちの背後にも。


「"プチ・ファイアストーム"!!」


 左側の通路に向かってスキルを放つ。

 後ろにもう一発──でもこのタイミングだと、ルナたちを巻き込んでしまう!


「あんたたち!」


 ルナの声がしてすぐに振り向くと、ルイックが彼女を──


「邪魔なんだよ、どけ!」


 ルナは突き飛ばされ、彼女はその場に倒れ込んだ。


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