第28話:親子

「査定お願いします」


 ダンジョンに三日篭ったら地上で一日休息をする。

 それを何度か繰り返して、にゃびの武器製造依頼をして一カ月が経った。

 宿に泊まる回数が減った分、お金も溜まってきた。


 宿泊代と食費代を大雑把に計算し、それに少しプラスした金額を共通のお金にすることにした。

 残りを三人で分配──


「おいにゃ、お金いにゃにゃいにゃよ」

「でもにゃび、お前だって装備とか必要なものがいるだろ?」

「にゃー」


 にゃびはそう言ってくるりと回ってみせる。


「それ一着じゃなく……」

「にゃびはなんて?」

「あー、うん。お金はいらないって。装備とか必要だろって言ったらこれだ」

「にゃび……んー、じゃあにゃびの分はロイドが管理したら? そもそもあんたの従魔なんだし」


 従魔か。そっか、にゃびって従魔だった。なんだかそんな感じがしない。モンスターって感じもだ。

 見た目は猫。ただそれだけで、他は俺たちと何も変わらない。

 まぁ、猫らしく風呂は嫌いみたいだけど。


「お待たせしました。買取価格は金貨二枚と銀貨三十四枚になります」

「すみません。こっちも合わせて金貨に両替して貰ってもいいですか?」

「分かりました。ロイドさん、本当にお強くなりましたね」

「そ、そうですかね?」

「えぇ。冒険者の実力は、一度の買取金額に比例しますもの。金貨を超えるようになれば、立派な冒険者ですわ」


 確かに、日に日にアイテムの売却金額は上がっている。

 冒険者としての実力が、お金に比例するっていうなら……もっともっと強くなればルナの故郷だって──。


「あぁ、ロイドさん。ギルドマスターから言伝がありまして。猫さんの玩具が明日にも完成しそうだって。ロイドさん、にゃびちゃんの玩具を注文なさっていたんですか?」

「え、あ……えぇ、まぁ」


 玩具ってのはモルダンさんに依頼していた武器のことだな。

  

「にゃび、間に合ってよかったわね」

「うにゃ~ん」

「じゃあ明日の昼過ぎに取りに受け取りに行こうか」


 その足で森の中の新ダンジョンへ向かおう。

 宿に戻ってまずは風呂。三日ぶりだから念入りにゴシゴシ洗う。


「にぎゃあぁぁ~」

「暴れるなにゃび!」

「死ぬにゃあぁぁぁぁっ」

「死にはしないって!」


 追加料金を払い、更に湯舟には入れないという約束でにゃびにも風呂を使わせて貰っている。

 にゃびだって汚れているんだから、風呂ぐらいは入れないとな。


「武器が完成していたら、そのままダンジョンに行くんだから。コポトに会うのに汚れたままだとダメだろ」

「ううぅ。うにゃあぁぁぁ」


 コポトの名前を出せば、諦めたように大人しくなった。

 

 風呂、それから食事。

 終わればあとはベッドでゴロゴロしながら、ステータスボードを眺めた。




【名 前】ロイド

【年 齢】16歳

【種 族】人間

【職 業】見習い魔術師 レベル33 +


【筋 力】380+124

【体 力】380+124

【敏捷力】380+124

【集中力】380+124

【魔 力】380+124

【 運 】380+124


【ユニークスキル】

 平均化


【習得スキル】

『プチバッシュ レベル10』『プチ忍び足 レベル10』『プチ鷹の目 レベル1』

『プチ・ヒール レベル10』『プチ・ファイア レベル10』


【獲得可能スキル一覧】+


【獲得スキル】

『筋力プチ強化 レベル10』『見習い職業時の獲得経験値増加 レベル10上限』

『魔力プチ強化 レベル12』『体力プチ強化 レベル10』『敏捷力プチ強化 レベル10』

『集中力プチ強化 レベル10』 『運プチ強化 レベル10』『プチ隠密 レベル10』

『魔法操作 レベル5』『スキルポイントアップ レベル1上限』『プチ・アイス レベル1』

『プチ・サンダー レベル5』『プチ・ロック レベル1』『プチ・カッター レベル1』

『プチ・ブレッシング レベル10』『プチ・スラッシュ レベル10』『プチ・バーストブレイク レベル10』


【ステータスポイント】0

【スキルポイント】116


*******●パーティーメンバー*******


【名 前】ルナリア

【年 齢】16歳

【種 族】兎人

【職 業】弓手 レベル36



【筋 力】40

【体 力】50

【敏捷力】449

【集中力】468+50

【魔 力】26

【 運 】13


【習得スキル】


【獲得可能スキル一覧】+


【獲得スキル】

『射速 レベル5』『標的認識 レベル5』『ツインアロー レベル10上限』

『集中力強化 レベル10』『インパクトアロー レベル6』


【ステータスポイント】0

【スキルポイント】0


------------------------------


【名 前】にゃび

【年 齢】35歳

【種 族】ネコマタ

【職 業】ロイドの従魔レベル37


【筋 力】159

【体 力】82

【敏捷力】520

【集中力】50

【魔 力】454

【 運 】434


【習得スキル】

『月光の爪 レベル15上限』『夜目 レベル10上限』『忍び足 レベル10上限』

『弱点看破 レベル1上限』『爆連 レベル4』


【獲得可能スキル一覧】+


【獲得スキル】

『風のマント レベル10上限』『紅い月 レベル10上限』『鋭利な爪 レベル5』

『影 レベル10上限』


【ステータスポイント】0

【スキルポイント】3




 スキルポイントアップのおかげで、ポイントはかなり貯まった。

 ただ何を取ればいいのか決められない。

 ポイントが増えやすくなったからといって、無駄遣いは出来ないのだから。


 ルナのほうは、ツインアローをレベル10にすると予想通り上限に達した。

 そしてこれまた予想通り、新しいスキルが発生。

 それがインパクトアローだ。

 突き刺さった矢を中心に衝撃波が発生し、周辺の敵にもダメージを与えるという攻撃スキル。

 

「インパクトの威力がもっと高かったらいいのに」

「でもさルナ。衝撃波を喰らった奴って吹っ飛ぶからさ、態勢を崩せるからかなり有効だよ。群がってる敵に打てば、立ち上がる前に次の攻撃を撃てるんだし」

「うぅん、そんな風に言われると、いいスキルなのかも?」


 いいに決まっている。


 にゃびは予定通り、ポイントが溜まったので『影』を一気に取った。

 真っ黒い影を召喚し、それが独自に動いて四人目のパーティーメンバーのように働いてくれる。

 スキルこそ使わないが、戦力としては十分だ。


「おいにゃの影、おいにゃが武器を装備したら、あいつも装備するにゃかねぇ?」

「そうなると強いだろうなぁ。武器を貰ったらさっそく試そうな」

「うにゃー!」






「なにいぃぃぃっ! モモ、モ、モリーと、モリーと!?」

「はいっ。娘さんと、三年前からお付き合いしていますっ」


 修羅場になろうとしていた。


「てめぇー! 俺が弟子を取らねえからって、娘を誑かしやがったのか!?」

「バカ親父、違うっちゃ! わたしの方から彼に話掛けたんばいっ」

「なにぃ!? モ、モリーの方からだとっ。俺ぁそんな女に育てた覚えはねえ!」

「わたしが誰を好きになったって、クソ親父には関係なかとやろ!」


 武器、出来てるのかなぁ。

 にゃびもルナも呆れたようにため息を吐いている。

 はぁ……。


「あ、ロイドさん。にゃびさんのクロウ、完成していますよ」

「あ、どもカロットさん」

「にゃびさん、装着して、具合を確かめて貰っていいですか?」

「にゃぁ」


 あっちでは親子で喧嘩してるし、こっちはなんか普通に仕事してるし。

 カロットの説明で、にゃびはクロウの爪を伸ばしたり縮めたりと試している。

 何度かカロットが微調整をし、その間も親子は喧嘩をし続けていた。


「おぅ、ロイド聞いてくれっ。こいつら、親である俺に内緒でこそこそやってやがったんだ!」

「ちょっと! ロイドたちは関係ないやろっ」

「うっせえ! てめぇーが男を連れ込むなんざ、百年早ぇーんだよっ」

「なによ! ディーノおじさんには、カロットなら跡を任せてもいいって言っとったんやろっ。ちゃんと聞いたんやけね!」

「あんの野郎、余計なこといいやがってっ」


 はぁ……。


「おいロイド、聞いてるか?」

「聞く必要ないけんね」

「お前ぇには言ってねえだろっ」

「うるさいっちゃっ」


 ……。


「あぁぁぁぁーっ! 子供でもあるまいし、お互いちゃんと話合えよっ」

「なっ」「ロ、ロイド?」

「モルダンさんっ。心配して怒鳴りつけられるお子さんがいてよかったですね! モリーッ。文句を言える親がいてよかったね! 二人は感謝するべきなんだ。心配して怒ってくれる親がいることを。文句ばかり言ってくる子供がいることを。望んだって……手に入れられない人がいるってことを」


 俺だけじゃない。この世界には親を亡くした子供や、子を亡くした親が大勢いる。

 お互いまともに話もしないで、ただただ怒鳴りあってるだけなんて信じられないよ。


「すみません、おやか──モルダンさん。ぼ、僕がしっかりしなきゃいけないのに。すみませんロイドさんにまでご迷惑をおかけして」

「え、いや、その。お、俺の方こそ、急に大声だしてすみません。早くに両親を亡くしてるから、親子喧嘩出来るのが羨ましいと思って、その……」

「にゃびさんの調整は終わりました。モルダンさん、お渡ししても大丈夫ですよね?」

「あ、あぁ……サ、サイズはよかったのか?」


 にゃびは両手を交互に突き出し、それから爪の部分をシャキンっと伸ばしてモルダンさんに見せる。

 それからニィっと笑ってみせた。


「そ、そうか……留め金がちと心配だったんだがな」

「こっちの兄ちゃんが、ちゃんとしてくれたにゃ」

「カロットがちゃんと見てくれていたんで、大丈夫ですよ」

「そう、か」


 モルダンさんはクロウを装備したにゃびの手を取り、ひとりでうんうんと頷いている。


「いい、仕上げだ」

「ありがとうございます、モルダンさん」


 カロットはそう言って、深々と頭を下げた。

 もしかして、弟子になることを諦めたのかな。

 こんなくだらない親子喧嘩のために、有望な人材を手放すなんて勿体ないぞ、モルダンさん。


「……おいカロット」

「は、はい?」

「……俺様のことを、名前で呼ぶんじゃねえ」


 その言葉にカロットの表情が青ざめる。

 名前を呼ぶことすら許さないのか。それほどまでに怒ってるの?


「な、なんでなんクソ親父っ」

「うるせぇ! 部外者はすっこんでろ」

「ぶ、部外者?」

「あぁ、そうだ。てめーは木工職人になるんだろうがっ。だったらうちとは部外者に決まってんだろうっ。おいカロット。てめぇー、師匠を名前で呼ぶたぁ、どういう了見だ! 俺様のことは親方と呼べ!」


 ん?

 んん?


 顔真っ赤にして怒鳴って、親方と呼べ?


「そ、それってつまり……ぼ、僕を正式に弟子にしてくださるんですか!?」

「ま、まぁ筋はいいからな。俺様の次ぐらいに腕のいい職人になるだろう」

「あ、ありがとうございます!」

「じ、じゃあお父さん。わたしとカロットのこと」

「それとこれとは別の話だ! いいかっ、俺は不純異性交遊は認めんぞっ」


 それってつまり、二人の仲を認めてやるってことじゃないか。

 もうなんだよ、ったく。素直じゃないんだからさ。


 なんか一件落着したようで、安心してダンジョンに行けるな。


「おい、ロイド」

「え、なんですか? あっ、製造依頼料!?」

「じゃねーよっ。つかいるか、そんな金っ。そうじゃなくって、お前ぇの武器のことだ」

「あ、これ借りっぱなしでしたね」


 借りたものだし、モルダンさんにとっても大事なもののはず。

 でも凄く手に馴染んで使いやすいし、返すのが惜しいな。

 マナハルコンはまだ残ってるだろうし、これと同じ物を製造して貰おうかな。残りを手数料として譲ってさ。


「あー……そいつはお前ぇにくれてやる」

「あーよかった。これと同じものを製造して貰おうかと──え?」

「そうか、気に入ったのか。ならよかった。そいつをくれてやる代わりに、残りのマナハルコンの半分を譲ってくれねえか?」

「これ、貰っていいんですか?」


 その問いにモルダンさんが頷く。


「必要なやつが使うべきなんだよ。その方がやっこさんも喜ぶだろうしな」


 モルダンさんの親友、か。

 そういうことなら、有難く使わせて貰おう。


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