第27話

「任せとき。わたしの知り合いが、親父の下で働きたいって人おるけん。弟子の件は安心しとって」


 ギルドで清算を終え、矢の補充し、それから工房によってモリーに話をした。

 完成を急ぎたい理由も伝えると、彼女は目に涙を浮かべでそう答えた。

 モルダンさんは一年以上、武器造りを止めていたそうだけど。まだ諦めずに弟子入りしたいって人がいるんだな。


 宿に戻ると、ルナはお風呂へ。

 俺とにゃびはそのままベッドにダイブすると、一瞬にして夢の中へと旅立った。


 翌日は一日たっぷり休息を取り、それからまたダンジョンへ。

 たまにギルドの依頼を受けたりしながら数日を過ごし、モルダンさんの所へ様子を見に行った。


 家の戸をノックしても反応がなく、だけどルナやにゃびの耳には彼の声が聞こえたそうな。


「なんだか怒鳴り散らしてるわね」

「他に知らにゃい男の声もするにゃ」

「お弟子さんかしら? 知らない人の声も聞こえてくるわ」

「モリーが言ってた人は、無事に弟子にして貰えたみたいだな」


 これで作業が捗るのか、それとも逆に……。


「にゃび、間に合わなかった時は仕方ないから今のままで行こうな」

「うにゃぁ。間に合うといいにゃぁ」

「そうだな。カッコよくなったにゃびの姿を、見せてやれるといいな」


 俺たちの会話にルナが「コポトに?」と尋ねて来るので、頷いてみせる。


「それじゃあ、見た目だけじゃなくって本当にカッコよくなった姿を見せてあげなきゃね」

「うにゃぁ~ん」


 そうだな。コポトが安心して眠れるように、強くなった姿を見せてやらなきゃな。

 そして俺も──俺ににゃびを託したことが間違いだったと思われないよう、もっと強くならなきゃ。


 空間収納袋を手に入れたことで、狩りの効率がうんと上がった。

 これまではルナの矢の残量より、むしろドロップ品が重くなって引き返すことがほとんど。でもその必要もなくなって、ダンジョン内で何泊も出来るように。


「何日潜ったかな?」

「んー、にゃびの体内時計を信じるなら、今日で三日目ね」

「お腹空いてきたにゃ。きっと夕飯の時間が近いにゃよ」

「にゃびの腹時計が、また時を刻みだしたみたいだよ。三日か。日時の確認もしたいし、そろそろベッドも恋しいから地上に出ようか」

「そうねっ。うん、賛成よ!」


 ルナの声が弾んで聞こえるのは気のせいじゃないはずだ。

 

 最初の頃はツンケンしていた彼女も、最近は柔らかくなった気がする。

 打ち解けてきたってことかな。


 地上に出ると、当たりは薄暗くなり始めていた。

 冒険者ギルドは一日中開いてはいるけれど、アイテムの査定や仕事の受諾は決まった時間にしかやっていない。

 急いでギルドに向かって、なんとか滑り込みセーフ。

 そこで嬉しい情報が入った。


「おぅ、適正なし。今日もたんまり稼いできたようだな。破竹の勢いだな」

「ギルドマスター」

「そういやお前ら、新しいダンジョンに近々行く予定は?」


 そう尋ねられもちろんだと答えると、ギルドマスターは白い歯を見せてニィっと笑った。


「五階までだがなぁ、魔法陣の設置が出来たぞ。明日には六階の魔法陣も出来るだろう」

「本当ですか! これで四階まですぐに行けるな」

「にゃ~。またあそこまで歩くのは、面倒くさかったにゃからねぇ」


 これでにゃびの武器製造の期限にも、二日ほど猶予ができたな。


「おっと、そうだそうだ。モルダンのおっさんが工房に来いって言ってたぞ。やっこさん、復帰するみてぇだな。まぁまだ他の連中には内緒にしとけって口が酸っぱくなるほど言われたんだが」

「工房に? わかりました。でもなんで内緒なんだろう?」

「そりゃお前ぇ、客が押し寄せてくるのが煩わしいからだろ」


 と、ギルドマスターが小声で言う。

 貴族が押しかけてくるような職人だもんな。復帰したとなったら、そりゃあ客で溢れかえるだろう。

 で、そんな状況が嫌なんだろうし、どうするのかな、モルダンさん。


「今日はもう遅いし、明日にしようか」

「ご飯にゃ!」

「今から行って宿に戻るの遅くなっちゃうと、また二人ともお風呂も入らずに寝ちゃうでしょ? それはダメ。絶対」

「はい……じ、じゃあ宿に行こうか」


 ということで、モルダンさんの工房へは翌日向かった。

 お弟子さんにも初めて会ったけど、人間族なんだな。

 なんていうか、細身でとても鍛冶職人には見えない若い人だった。


「来たか。おいカロット、この猫にアレを嵌めて調整してやれ」

「は、はい親方」

「親方って呼ぶんじゃねえ! 俺ぁてめぇーを弟子にしてやった覚えはねぇぞ!」


 なんか面倒くさそうだ。

 カロットという人がやって来て、にゃびにグロウブを装着させる。

 頼りなさそうな印象の彼だけど、作業は凄く早くて丁寧だった。


「ひょろがりの癖に、仕事は丁寧なんだよそいつぁ」

「評価はしているんですね」

「あいつは五年前に俺ん所に来て、とにかく弟子にしてくれってうるさかったんだ。まぁあんときはずぶの素人だったが、この五年で基本は学んだようだな」


 ん?

 なんか窓の外に──


「まぁ、なんだ……やる気はあるし、覚えもいい。育てりゃ、俺ほどじゃねえがいい職人にはなるだろう、な」

「お、親方!? それじゃあ僕のことっ」

「喋ってねえで手を動かせ!」

「は、はいっ」


 まぁこの分だと、彼は無事にモルダンさんの弟子になれそうだ。

 サイズ調整が済み、工房を出て露店通りへと向かう。

 角を曲がると、前方の方を走って行く人影が見えた。


 モリーだ。


 さっき窓の外で人の気配を感じたけど、もしかして彼女?


「気になるんでしょうね。自分が紹介した相手だもの」

「あぁ、そういうことか」


 そりゃ気になるのも頷けるけど……こそこそする必要はある?

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