第26話:ゲットしてた

 ダンジョンから出ると、東の空から太陽が昇り始めていた。

 にゃびがお腹空く訳だ……。

 そのままモルダンさん宅に行くと、彼は既に起きていてそのまま拾った石を見てもらうことに。


「は? お前ら、あれからまだ五日ほどしか経ってねーんだぞ」

「はい。それで、マナハルコンですか?」

「ガルオンに挑んで何回目だ? いや、五日の間にガルオンが何度も湧く訳ねえな。あれは七日から十日の周期のはずなんだし」

「モルダンさーん。モルダンさん?」


 なんかひとりでブツブツ言い始めちゃったぞ。

 でもなんか、俺たちはよっぽど運が良かったみたいだな。


「マナハルコンにゃか!? マナかにゃ!!」

「んあっ。おい、なんだこの猫っ。なににゃーにゃー言ってやがんだおい!」

「あー、だからマナハルコンかって聞いてるんです」

「ひとりの世界に入らないでよ。こっちは夜通しモンスターと戦いまくって疲れてるんだから」

「お、おぅ。悪かった。これはマナハルコンで間違いない。二個も出るたぁ、運がいい。いや、ドロップ自体運が──いやいや、ガルオンに遭遇出来ることこそが運がいいんだが」


 ほんと、運がよか──運?

 確かに運はいい・・。にゃびも、それに俺のもだ。

 もし運のステータスが関係しているとしたら。


「マナハルコンを使うのは、爪の刃の部分だけでいい。他は革や普通の鉄で十分だ。こいつ一つで三対は造れる」

「三つもいらないにゃぁ」

「にゃびは三つもいらないって」

「まぁ予備はあったほうがいい。それで相談なんだがな、残りのマナハルコンを買い取らせてくれねえか。まぁ一つはお前ぇの武器を……」

「俺の武器を?」


 マナハルコン制の武器。確かに欲しい。

 形が変わるからってのもあるけど、なんとなく手に馴染んでて使いやすい気がするんだ。


「モルダン、これと同じ物が欲しい。凄く手に馴染んでて、使いやすいんだ。それに、魔力を通すことでスキルの威力が、少し上がってる気もするし」


 普通の短剣でプチ・バッシュやプチ・スラッシュを使った時より、若干ダメージが上がっている気がする。

 筋力だけじゃなく、魔力分も少し上乗せされているんじゃないかな。


「同じもん……か……」


 モルダンは口を閉ざしい、少し考える素振りを見せた。


「おにゃか空いたにゃ。眠いにゃ」

「にゃび、もう少し我慢してくれ」

「あぁ、疲れてんだったな。そういやお前ぇら、飯は?」

「まだよ。まさかダンジョンを出たら、朝になってるなんて思わなかったもの」


 まだ夜中だと思ってた。まぁ時間のことなんて考えてる余裕もなかったしね。


「なら俺が用意してやる。それまでお前らはどっかその辺で休んでろ」


 その辺で、か。

 あ、にゃびはもう丸くなって寝始めやがった。はやっ。






「モルダンさんが料理上手だなんて、思いもしなかった」

「うみゃうみゃうみゃ」

「ドワーフって手先が器用だって言うから、きっと料理もそうなのよ」

「いや……俺はただ……いやいい。それで製造だがな」

「やってくれるんですよね!」


 ここまで来て「やっぱやーめた」なんて言わないよな?


「俺様に製造を依頼するやつには、素材をてめぇーで持ってこいっつってんだ。持って来させたのに仕事をしねーってのは、職人としては最低な野郎だろ」

「じゃあ!」

「あとで猫の腕のサイズを測らせろ」


 それを聞いたにゃびが、さっそく左腕を出す。右手はパンを握って口へと運んでいる。

 

「いやいや、あとでいい」

「いつ出来るにゃか?」

「完成するのにどのくらい?」

「そうだな。ひと月半ぐれぇか」

「ににゃ!? それじゃ間に合わないにゃっ。もっと早く造るにゃよっ」


 ひと月半。

 あれからもう半月以上経ってるから、確かに間に合わないな。

 だけど新しい武器を用意してからじゃなきゃ行けない訳じゃない。

 ないけど……にゃびはきっと見せたいんだろうな。


「モルダンさん。せめて一カ月以内に完成出来ませんか?」

「あぁ? 無茶言うな。俺ぁひとりでやってるから、どう頑張っても一カ月じゃ無理なんだよ」

「お弟子さんとかいないんですか?」

「おぅ。娘を……あのバカ娘に跡を継がせようと思ってたからよ。弟子は取ってなかったんだ」


 でもモリーは木工職人になろうとしている。

 腕はいい。今更転職なんて勿体ない。


 そういえば彼女が言ってたな。

 モルダンさんが復帰すれば、弟子になりたいって言う人もいるって。


「モルダンさん。弟子になりたいって人がいたら、雇ったりしますか?」

「弟子だぁ? 前にもおういう奴らはいたけどなぁ、たいていは俺様の弟子っつう肩書が欲しいだけの金の亡者どもだったんだ。そんな弟子なんど必要ねぇ」

「で、でも、モルダンさんの腕に惚れこんで、本当に技を継ぎたいっていう人だったらっ」

「そうそういるかよ、そんな奴が」


 拗らせてるなぁ。

 でも拗らせたくなるような経験をしているんだから、仕方ないか。


 とにかくモリーを尋ねてみよう。


「あ、ねぇロイド。にゃびが拾った袋、ギルドに届けるんでしょ? その時に矢の補充もしていいかしら?」

「あぁ、もちろんだよ。清算もやってしまおう」


 朝食をご馳走になって帰ることに。

 にゃびが拾った袋をギルドに届けて、清算と矢の補充を済ませたら宿でゆっくり休もう。もうくたくただ。


「袋? なんでぇ、袋ってのは」

「あ、にゃびがダンジョンで袋を見つけたんだ。たぶんどっかの冒険者が落したんだろう」

「……は? 袋をダンジョンで拾っただとぉ!?」


 え、そんなにビックリすること?


「お、お前ぇ、バカか! ダンジョンで袋つったら、アレしかねーだろうがっ」

「え、あれって?」


 モルダンさんは息を飲み、それから興奮したようにこう言った。


「空間収納袋に決まってんだろうが!」


 ──と。


 空間……空間収納……なんだっけ。どっかで聞いたことあるような。


「カァーッ。分かってねぇのか。あのなぁ、空間収納袋っつうのはな。空間を広げる魔法が掛けられていて、小さくても大量に物を入れられる超レアアイテムじゃねえかっ」

「あ……ああぁぁぁ!? え、あの袋が? いや、ただの袋にしか見えなかったですよ」

「にゃ? にゃにゃ?」

「凄い物なの?」

「凄いに決まってんだろ! お前らみてぇな冒険者や、商人なんかが、喉から手が出るほど欲しがる品物だぞ」


 そうだ。空間収納袋は、まるで中に部屋が入っているようだと言われるアイテムで、大量の物を入れられると聞いたことがある。

 ベッドを入れようが馬車を入れような、重さも一切感じられない夢のアイテムだ。

 これさえあれば、装備一式はもちろん、テントも寝袋も食料だって何十人分、何十日分と入れてダンジョンに篭れる優れもの。


 はっはっは。

 そんな激レアアイテムを、俺たちみたいな駆け出し冒険者がゲット出来る訳ないだろう。


「うにゃー! おいにゃの手がスッポリ入ったにゃ!」

「ちょっとにゃび、手を突っ込んでないでちょっと貸してっ。私の弓を……えぇ!? こんな小さな袋なのに、弓がすっぽり入ってるっ」


 ゲットしてたあぁぁぁ!?

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