第20話

「地下十五階は緩やかな斜面に、遺跡が立ち並ぶ階層になってんだ」

「遺跡、ですか」

「そうだ。壊れた建物ばっかりでな。その階層に『石好きのガルオン』っつうネームドモンスターが出るんだがな」


 ダンジョンの特定階層に生息するネームドモンスター。

 まぁ名前は昔の冒険者が勝手につけたものだけど、同種のモンスターとは比べ物にならないほど強力だという。

 体も大きいからすぐに分かるんだが、とにかく出現頻度が低いうえに一体しか生息していない。

 そのうえレアなアイテムをドロップしやすいから、狙っている冒険者も多い。


「そいつが素材を落すんですか?」

「あぁ、そうだ。『マナハルコン』つってな。鉱物なんだが、魔力を流すと形を変える性質がある」

「形を変える?」

「おう。この猫の気合を入れると爪が伸びるっつうのに似た感じか」


 形態1、形態2という感じに形を記憶させ、魔力を流し込むことで切り替えられる魔法鉱物だとか。

 ただ流し込む魔力が少ないと、変形範囲も小さくなって意味がない。

 だから魔術師が護身用に持つ武器に適している──とモルダンさんは言う。


「ガルオンはコボルトキングの亜種だ。強ぇぞ」

「そいつを倒せにゃいにゃら、おいにゃが武器を持つに相応しくにゃいってことにゃ」

「ガルオンを倒せなきゃ、武器を持つのに自分が相応しくないんだってさ」

「はっ。言うじゃねーか猫野郎」


 地下十五階か。今の俺たちでも行けるだろうか?


「大丈夫よ。あんたの魔法操作の腕も上がってるんだし、行けるわ」

「ルナ……そう、だな。うん、俺たちなら大丈夫だな」


 顔に出てたのかな? ルナに声を掛けられ、大丈夫っていう気が出てきた。


「おい、お前ぇ魔法スキルがメインなのか!?」

「え、あぁ今のところは」

「あぁー、ダメだダメだっ。あそこにゃ魔法耐性の高ぇーモンスターばっかりなんだよ!」


 ……え?

 魔法スキル……利かない?


「くああぁー、ちょっと待ってろ」


 ドスドスとモルダンさんが奥へと向かう。


 物理攻撃スキルだと『プチ・バッシュ』しかない。それもレベルが3だ。

 プチが付くだけあって、威力も低いんだよな。

 筋力ステータスでどれだけ補えるか……。

 行くならやっぱり、プチ・バッシュのレベルを上げるべきだよな。


 そんな話を二人としていると、モルダンさんがドタドタと戻って来た。

 その手には妙に短い短剣が握られている。


「こらぁな、俺がだいぶ前に造ったもんだ。無茶ばっかりしやがる、魔術師の友人のためにな。まぁ、完成してあとは奴が帰って来たらくれてやるだけだったんだが」


 彼は口を閉ざしたけど、その友人がどうなったのかは容易に想像出来た。

 だって短剣を握るモルダンさんの手が、小さく震えて、表情は悔しそうだったから。


 暫くじっと短剣を見つめた後、モルダンさんはそれを俺に押し付けてきた。


「持ってけ」

「え、で、でも」

「お前ぇ、魔術スキルを使ってんだろ。さっきのプチ・ヒールもだが、プチのくせに良い治癒っぷりだった。魔力がそこそこ高ぇーんだろう。だったらおあつらえ向きだ。基本職の初期スキルが使えるって言ってただろう。プチ・バッシュもいけるな? スイッチは?」

「出来ます」


 スイッチ──パーティーでの役割を交代するっていう意味だけど、この場合、魔法職から前衛職のポジションが出来るかどうかって意味だ。


「なら使え。こいつぁマナハルコン制だ。魔力を注げば、刀身が伸びる。やってみろ」

「は、はい。魔力を──」

「魔法スキルを、握った柄の中に吸い込ませるイメージでやれ」

「りょ、了解──」


 言われた通りにやると、短かった刀身が光り出してすぅーっと伸び始めた。

 短剣よりも長く、ショートソードよりは少し短いかな?


「ほぉ、いいじゃねえか。もうちっと魔力がありゃ、ショートソードぐれぇになるんだが」

「魔力が関係するんですか?」

「大ありよ。魔力が少ねーと刀身は短くなるんだよ。ちょっと貸してみな」


 モルダンさんに剣を返すと、一瞬にして元の短い短剣に。そして彼が魔力を注ぐと──


「伸び……ました?」

「バカ野郎! 銅貨一枚分伸びてんだろうがっ」

「銅貨の厚み分にゃにぇ~」

「はは、そう、ですね」

「おう、姉ちゃんもやってみるか?」

「え、遠慮しとくわ」


 顔をひきつらせたルナが、後ずさりしながら拒否する。

 ルナも魔力は低いほう──だもんな。まぁこのあたりは種族特性だから仕方ないんだけど。


「でもこんなレア素材を使った武器なんて、とても買えそうに……」

「金貨十三枚ってところか」

「ひいいぃっ」


 き、ききき、金貨十三枚!?


「心配すんな。売るつもりもやるつもりもねぇ。貸してやるだけだっ。ちゃんと生きて返しに来やがれ!」

「あ……はいっ! もちろんですっ」






「じゃあひとまず八階でレベル上げをしようか」

「八階でいいの? さすがに見習い冒険者でも、上がりにくくなってくるんじゃない?」

「九階は嫌にゃ」

「十階に行ってみない?」


 十階かぁ。九階はにゃびが嫌だというし、弓との相性も悪い。

 十階で様子を見てみるか。


 午後からギルドへ行って、十階の情報を集めることにした。

 情報はお金を払えばギルドで買える。でもそれ以外の方法があると、にゃびが教えてくれた。


「おいにゃとコポトが冒険者ににゃったのは、別の町にゃけど、そこで他の冒険者が教えてくれたにゃ」

「へぇー、こういう裏技があったとはねぇ」

「あ、あったわ。十階で受けられる依頼」


 ギルドの『依頼看板』には、外部から依頼された内容が書かれた紙が張り出されている。

 依頼内容は素材集めがほとんどで、何をいくつ取って来て欲しいというもの。

 中には『何階』の『なんというモンスター』から取れる素材だと明記しているものもある。


「スモールリザードマン?」

「リザードマン系の中で一番小型な奴だよ。といっても、体高160センチぐらいあるらしいけど」

「湿地かにゃー」


 リザードマン系は湿度の高い地域に生息している。地上でも、ダンジョンでもそれは同じだ。

 ダンジョンの場合だと、湿地帯構造の階層に生息していることが多い。


「階層全域が湿地だと、戦いにくいだろうけど。でもまだ地下十階だし、そこまで難易度も高くないと思うんだけどな」


 その後も看板を見ていると、十階の希少植物の採取依頼を見つけた。


「この植物、私知ってるわ。もちろんダンジョン産じゃなくって地上のだけど」

「どんな植物?」

「乾燥させると、凄くいい香りが出るの。だから人間の貴族なんかが欲しがるのよ。でもこれ、湿地帯に咲く植物じゃないわよ」


 そうなると、十階は湿地とそれ以外の地形って可能性が高いな。


 よし。明日は十階に行こう。

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