第21話:大漁
「にゃびの武器が完成したら、コポトの故郷へ向かうの?」
夜、宿の部屋で寛いでいると、ルナがそう尋ねてきた。
「んー、武器の完成にどのくらいかかるかかな。マナハルコンのドロップ率も低いだろうし、そのうえネームドがどのタイミングで出現するかも分からないからね」
「だから、完成したら行くんでしょ?」
「六〇……んにゃー、五〇日ぐらいかにゃ? それまではここにいるにゃ」
「ルナは冒険者講習を受けてないから、たぶん知らないよね? ダンジョンでの死後六〇日後の話」
彼女は首を傾げ、それから首を横に振る。
冒険者講習自体は十日で終わる。他にも戦闘訓練なんかもあるけど、それはまた別だ。
その冒険者講習の最後に、講師──つまり引退した冒険者なんだけど、彼らから聞かされた話がこれだ。
ダンジョンで仲間が死んだ場合、六〇日後に会いに行け。
「な、なんで会いに行くの? え、もしかして生き返るの!?」
「いいや。死んだ人は……生き返らないよ。もしそうなら、にゃびは悲しんでいない」
「うにゃぁぁ」
にゃびはベッドの上で丸くなった。赤茶色の、コポトのマントに包まって。
「ダンジョンで亡くなった冒険者は、六〇日後に一度だけその魂が亡くなった場所に現れる」
「え、ちょっと、怖いこと言わないで」
「あはは。そういう話があるって、まぁ噂みたいなものだよ。でも──」
それが最後の別れだ。
たったひとりで逝くより、仲間に見送られたいだろ?
「って、講師の人が言ってたんだ。まぁ信じるかどうかはその人次第だけど」
「にゃびとあんたは、信じてるのね」
「特ににゃびはね」
コポトのマントに包まったにゃびは、寝息を立てて眠っている。
「お別れをしたいんだ、にゃびは」
「そう……じゃあ、それまではこの街にいるのね」
「うん。ルナはどこか行きたいところが?」
「え、ううん。特にないわ。ただあの時、彼の荷物を故郷に届けるって言ってたから。忘れたのかなと思って……ごめん、信じてなくって」
あぁ、そうか。にゃびとの約束を、俺が忘れてると思って心配したのか。
「地下四階まで三日だったな。出来れば転移魔法陣の設置が出来てると楽なんだけどな」
「それっていつ設置されるか分かるの?」
「ギルドで聞けば分かるよ。余裕を見て、一カ月を過ぎたら毎日確認するようにしよう。設置されていれば急がなくてもいいけど、なければそれを計算して動かなきゃいけないからね」
「そうね。それまでににゃびの武器が完成するといいわね」
翌日はさっそく地下十階へと下りた。
湿地とそれ以外の構造──そう予測を立てたが、当たりだったようだ。
「草原と湿地だったのね」
「湿地は足を取られやすいから、なるべく地面の硬い所で戦おう」
「にゃー。あっちにトカゲいたにゃー」
にゃびが指さした方角に、確かに人影が見える。その人影には長い尻尾があった。
「湿地だな。二人とも、泥濘にはまらないように注意して」
「突っ込まなくてもいいわ。わたしの射程まで近づいたら、そこからおびき寄せるわ」
ルナは矢を番えて前進する。俺とにゃびが彼女の射線を塞がないように立って前を歩いた。
スモールリザードマンは二体。まだこっちには気づいていないようだ。
スモールリザードマンまで二百メートル──ルナが矢を放つ。
「ギャッ」
「ギギャヤッ!」
矢は一体に刺さったと思うけど、距離があってよく分からない。
ただ今はこちらに向かってきていて──腕に刺さっているのが分かった。
「さてにゃび、俺たちの出番だぞ」
「うにゃ~。プッチィバッシュのレベル低いにゃが、大丈夫にゃか~?」
「さぁ、どうかなぁ」
「うにゃにゃっ。不安にゃ!」
実際、ずっと魔法スキルだったし分からないよ。
もしものときは魔法スキルで応戦するだけだ。
「キエエェェーッ!」
「おおぉぉぉ!!」
握ったマナハルコンの短剣に魔力を流す。
バッシュは至近距離からの物理攻撃スキル。
俺の敏捷力、役に立ってくれよ!
腕に矢が刺さったままのスモールリザードマンが腕を振り上げる。
躱すんだ──そう思った瞬間、俺の体は意外なほど素早く反応した。
「"プチ・バッシュ"!」
「ギョエ!」
一撃じゃ無理かっ。意外と皮膚が硬いんだな。
「もう一撃! "プチ・バッシュ"!」
「ンギョアアァァァッ」
距離を取って様子を見たけど、スモールリザードマンはピクリとも動かなくなった。
「よし、やったぞ。にゃび、今加勢す──」
「いらにゃいにゃ」
「……だね」
「呑気なことやってる場合じゃないわよ。次、来るんだからっ」
今の戦闘音で周りのスモールリザードマンが近づいてきたようだ。
足場がしっかりしたこの場所に来てくれるのは有難い。
「臨機応変っと──"プチ・サンダー"!」
一番近くにいたスモールリザードマンのパーティーはは三体。その一体に雷系スキルをぶつける。
爬虫類型は雷が弱点。そうでなくても雷系魔法スキルを喰らえば、一瞬感電して動きを鈍らせられる。
僅かに動きが鈍った奴にはルナが止めを刺し、残り二体を俺とにゃびで倒した。
他の冒険者が少ないせいか、移動しなくても次から次へとモンスターが湧く。
「ダンジョンモンスターって、こんなにすぐ湧くものなのね」
「一般モンスターは──"プチ・バッシュ"! 数分で湧くって言われてる! "プチ・サンダー"!」
「大漁にゃ! 大漁にゃにゃ!!」
あちこち移動しなくていい分、体力の消耗も少なくて済むけど……ゆっくり昼ご飯食べる時間はあるかな?
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