第12話:ギルドで報告

「おい、あれ適正なしじゃねえか?」

「は? 何言ってんだ。適正なしは死んだってルイックたちが──は? い、生きてる?」

「どうなってんだ。あいつ、モンスターハウスに突っ込んで死んだんじゃないのか」


 朝食を済ませて冒険者ギルドへやって来た。

 中に入ると聞こえてくる言葉に、やっぱりな──と思う。

 

「ロイドさん!?」


 奥から見知った顔のギルド職員が駆けてきた。


「生きていらしたんですね!」

「はい、この通りです。で、ちょっと複雑な事情なんで……」


 そう話すと、さすがに職員だ。察したように俺たちを奥の部屋へと案内してくれた。


 意外だったのはそこで待たされ、まさかのギルドマスターが出てきたことだ。

 典型的なマッチョマスター。


「そっちの兎人はザリオンが雇った荷物持ちだったな?」

「雇われたんじゃないわ。奴隷として買われたのよ」

「奴隷? だが従属の首輪がないだろう」

「外れた」


 ルナがそれだけ言うと、当然だけどギルドマスターは察した。


「そっちの猫はコポトっつー召喚士の従魔だったな」

「にゃびと契約しているのは、今は俺なんです」

「そう、か」


 にゃびが俺の膝に顔を摺り寄せ、小さく震える。


「全部話してくれ。何があった、ロイド」


 俺は地下一階に下りてからのことを話した。






「ルイックの野郎、やっぱり嘘をついていやがったか」


 全部話終わってから、ギルドマスターが悪態をつく。

 彼の話だと俺は、名誉の戦死をしたってことになっていた。


 四人を救うために、自分の意思でモンスターハウスに突っ込んだんだと。


 それをギルド内で、大声で叫びながら話したらしい。

 目に涙も浮かべてだ。

 だからその場にいた冒険者はみんな知っているし、その話はあっという間に広まった、と。


「やっぱりって、ギルドマスターは気づいてたんですか?」

「証拠がねえ。だがあいつら、目に浮かべた涙が流れてなかったんだよ。ありゃ無理やり浮かべただけで、泣いてたんじゃねえ。それに──」


 彼らは俺が名誉の戦死を遂げたと話したそのすぐ後に、階段を発見した報酬を催促したそうだ。

 ギルドマスターにはその態度が腑に落ちなかったらしい。


「あの四人はどうなりますか?」

「ギルドに虚偽の報告をしたこと、ギルド規約にある『故意に他者の命を脅かす行為を禁ずる』つぅーのにも反していやがるからな」


 冒険者登録の剥奪、再登録は可能だけど一年間は無理だ。


「たったそれだけなの!?」


 ルナが声を上げた。彼女たちのことも話したが、こちらはパーティーメンバー全滅ってことで、話は終わっている。


「はぁ……変な話だがな、ロイドは生きている。だから『命を脅かした』で終わっちまうんだ」

「なによそれ!? ロイドが生きてるから、そいつらの罪が軽くなるっていうの!?」

「その通りだ。腹が立つだろうがな、なんせロイドは怪我もしてねえし、ピンピンだ。奴らに剥奪以上の罪には問えねえ」

「仕方ないけど、ギルドマスターの言う通りだ。俺は生きてるし、怪我だってしていない。いいさ、あいつらが冒険者登録の剥奪をされるだけで」


 ただ心配事はある。


「ギルドマスター。もしあいつらが……いや、主にルイックとバーリィだろうけど、もし逆恨みして襲ってきた場合とかは?」

「殺さない程度にやり返せ」

「え、いいの?」


 ギルドマスターの即答に、内心驚いた。


「襲ってきたってことは、そこでやり返しても正当防衛だ。んなこたぁ子供でも分かることだぞ」

「で、でもギルドマスター、ロイドさんは適正職のない見習い冒険者なんですよっ」


 そうだ。驚いたのはそこだ。

 ギルドマスターだって俺が適正なしだって知ってるし、俺に期待なんてしていないのは知っている。

 なのにやり返せ?

 ルイックたちの方が強いって知ってるだろ?


 もちろん、今の俺はあの時とは違う。

 ステータスも上がったしスキルもある。負けはしない、と思いたい。


「確かに、あのダンジョンに行く前のロイドなら、あいつらにゃ勝てなかっただろうな。だが──俺には分かる」

「なにがですか、ギルドマスター」

「そうカッカすんなメリア。地下十階から生きて、しかも無傷で戻ってきたんだぞ。覚醒したんだ、こいつは」


 は?

 俺が、覚醒?


「才能がねえ。そう思っていた奴が死線を潜り抜けることで、たまに潜在能力が覚醒することがある。俺が若い頃にもそういう奴はいた」

「ロイドさんの潜在能力、ですか?」

「まぁ今は本人もよく分かってない頃だろう。だろ、ロイド?」

「え、ええ……確かに、なんか死に物狂いで逃げていたら、こう……今まで出来なかったことも出来るようになって。魔法の、威力が上がった気がするんです。それで、なんでか分からないけど」

「あぁ、いいいい。今は考えるな。そのうち自分の力になれて来るさ。ま、ひとまずおめでとう。これでお前も立派な冒険者の仲間入りだ」


 そう言ってギルドマスターはその大きな手で俺の頭を撫でた。






「ルイックの野郎、仲間を囮にして自分たちだけ逃げやがったのか」

「あれが仲間か? ほとんど奴隷同然だったろ」


 そんな声が聞こえる。

 ギルドマスターの方から真実が伝えられ、建物内は騒然としている。


「アイテムの査定額は、全部で銀貨五枚です。それと下層のモンスター情報、ドロップ情報料として、銀貨五〇枚になります」

「「え?」」


 五〇枚も!?


「そ、そんなにするんですか!?」

「えぇ。だって四階から下のモンスター情報が全て揃ったんです。妥当な金額ですよ」


 銀貨二、三枚ぐらいだろうって思ってた。

 ドロップ品の売却だってそのぐらいだろうと。

 どっちも予想外の金額に、ちょっと驚いた。

 それと同時に心が浮かれてる。


 これまでパーティーにいた時には、銀貨一枚すら貰ったことはなかった。

 ルナとにゃびの三等分にしたって、ひとり一八枚はある。

 こんな大金、見たことない。


「あ、あの。ぶ、武器を安く買えるお店を、紹介して貰えないかしら?」

「ルナ、これだけお金があるんだ。少しいい物を買ったらどう?」

「いいの。安いので」


 その分、貯金に回すってことか。

 でも安物は安物なりにデメリットがある。


 壊れやすい。

 攻撃力も弱い。


 だから高価じゃなくても、少しはいい物を使って欲しい。


「お金を節約したいのですね。それならいいところがありますよ」


 そう言って職員のメリアさんが微笑んだ。


 彼女に教えて貰ったのは『店』ではなく、『工房』だった。


「ここ?」

「あぁ、この工房だよ。メリアさんが紹介してくれた理由が、なんとなく分かった」

「どういうこと?」


 この工房は職人見習いが技術講習を受けるための場所だ。


「冒険者ギルドと同じように、職人ギルドってのもあるんだ。ここは見習い職人が技術を学ぶ場所で、ここで造られたものならタダ同然で買える」


 俺が使っている短剣も、実はここで買ったものだ。二本目だけど。


「使い心地や耐久度なんかを報告するんだ。それを元に改善するための技術を磨くってことなんだよ」


 もちろん、すぐにポッキリ行くようなものはない。その辺りは熟練の職人がダメだしするから、必要最低限の性能は約束されている。

 

「とにかく中に入ろう。どれを買うかは自分で選ぶんだ」

「選ぶの? こっちが?」

「ここで一番の熟練職人はドワーフのおじさんなんだけど、その人が言うには『使う奴も目を肥やせ』っていうんだ」

「いいものかどうか、自分で見極めろってことかしら」

「たぶんね」


 工房はいくつかの区画に分かれていて、目的の場所は木工職人の工房だ。

 技術講師に事情を説明し、弓を見せて貰うことに。


 弓手の職業講習を受けた時、俺も弓は使ったけど的のど真ん中に当てるのは難しかったな。

 

 完成した弓がずらりと並んでいる棚をルナは見つめ、そして迷うことなく一本を手にした。


「他のやつも手に取っていいんじゃぞ」


 年配の熟練職人の言葉にも、ルナは首を振って「これがいい」と伝えた。


「他の弓は見た目に拘っていたり、大きくて強力なものばかり。私は性能第一に考えたいし、大きいものは扱えないから。それに……この弓、凄く手に馴染んでて実戦でも扱いやすそうだもの」

「ほぉ。なかなか見る目はあるようだじゃな。ならそれを持っていくといい。材料費として銅貨三十五枚貰おうか」

「えぇ!? そ、そんなに安くていいの?」

「ここの武具はどれも、材料費だけで売っておる。それでも買ってくれる冒険者は少ないがの」


 まぁ見習い職人が作ったものだからね。

 誰だって一人前の職人の武具を手にしたいもんさ。


 矢と矢筒もついでに購入し、お金を支払って工房を出ようとした時だ。


「アッッカァーン!!」


 工房の奥から女の声が聞こえ、同時に何かが倒れたり割れたりする音が響いた。



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ほし・・・(´・ω・`)

フォローもほし……ぃ

フォ(´・ω・`).;:…(´・ω...:.;::..(´・;::: .:.;: ..

フオォッ\(・Д・)/ッロォォォーッ!!


連日暑いですね


北陸は多分今日から二度目の梅雨です。

一〇日間天気予報が全部雨マークです。

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