第5話:一流の冒険者
「うっひゃー。さすが中型。一匹倒しただけで、見習い魔術師のレベルが18から28まで上がったぞ」
とはいえ、倒すのに三十分ぐらい掛かってしまったけど。
隠密を使って、プチ・ファイアの射程ギリギリの所で攻撃。
気づかれるが、接近される前にもう一発お見舞い出来る。
いったん安全地帯の部屋に戻って、ある程度離れたらまた隠密状態で部屋を出る。
で、プチ・ファイアを二発撃ったら部屋に逃げ込んで……を繰り返す。
が、この方法は魔力の消耗が激しく、途中は回復するために何もしないでただ顔を出してモンスターをその場に留まらせるだけの時間もあった。
そのせいで一匹倒すのに三十分だ。
「プチ・ファイアを10にしておくか」
【名 前】ロイド
【年 齢】16歳
【種 族】人間
【職 業】見習い魔術師 レベル28 +
【筋 力】206+120
【体 力】206+120
【敏捷力】206+120
【集中力】206+120
【魔 力】206+120
【 運 】206+120
【ユニークスキル】
平均化
【習得スキル】
『プチバッシュ レベル1』『プチ忍び足 レベル10』『プチ鷹の目 レベル1』
『プチ・ヒール レベル1』『プチ・ファイア レベル10』
【獲得可能スキル一覧】+
【獲得スキル】
『筋力プチ強化 レベル10』『見習い職業時の獲得経験値増加 レベル5』
『魔力プチ強化 レベル10』『体力プチ強化 レベル10』『敏捷力プチ強化 レベル10』
『集中力プチ強化 レベル10』 『運プチ強化 レベル10』『プチ隠密 レベル10』
【ステータスポイント】0
【スキルポイント】4
残りのポイントは取っておこう。上を目指しながら、必要だと思うスキルに振ればいい。
「そうと決まれば、ここでの最後の晩餐になることを祈って──今夜はこれを食う!」
ポーチから取り出したのは干し肉と堅パンだ。
干し肉は短剣の柄で砕き、水瓶の中に暫く漬け込む。
ある程度水を吸い込んでほぐれたところで、床の石畳みの砂を吹き飛ばし──
「"プチ・ファイア"!」
熱くなった部分に干し肉を乗せると、じゅーっといい音を立てた。
焼いている間に堅パンも水を含ませる。
「ほどほどのところで水からあげて、焼いた干し肉を乗せれば──あぁ、美味いなぁ」
大した味もないパンだけど、焼いた干し肉を乗せるとなかなかいける。
堅パン二つと干し肉を完食して横になる。
あぁ、早く地上に出てベッドで眠りたいなぁ。
「さらば、安全地帯よ」
水瓶は八本。空きビンに詰め込んだゼリーが四本。
それを外套に包んで背負う。それと昨日仕留めたモンスターからドロップした、少し大きめの魔石だ。
いろんな用途に使われる魔石は、ダンジョンでの最小限の収入になる。
扉の外を確認して、何もいないようなのでそのまま出ていく。
隠密も魔力を消費する。
出来るだけ温存するために、モンスターがいない場所では使わないようにしよう。
とにかく上り階段を見つけるんだ。
何度となくモンスターを発見しては隠密でその場を切り抜け、どうしても見つかる場合はプチ・ファイアで攻撃。
レベルは10でも、魔力の数値もあってそこそこの火力になっている。
一発当てればひるんで後ずさってくれた。
でも倒そうと思うと、他のモンスターにまで気づかれてしまうから逃げるだけ。
道に印をつけながら歩いて走ってゼリーを食べて──
「やった……やっと階段を見つけたぞ!」
ほぼ丸一日歩いたと思う。
だけどようやく、上の階への道を見つけた。
さぁ、あとはここが何階層だったかだなぁ。
五階層とかならいいんだけどな。
と思ったけど、そう甘くはなかった。
「階段六回上ったけど、まだダンジョンの中だ……」
最初の階層は一日でクリアしたけど、それ以降は二日近く掛ってようやく階段を見つけている。
ダンジョンに落ちて十五日か十六日ぐらいか。
二つ目の階段を上ったあたりで、小型の動物型モンスターも生息する階層になった。
プチ・ファイア四発で倒せたから、こいつらを食料に。
階段を上れば上るほどモンスターは弱くなる。
おかげで逃げるばかりじゃなく、戦って切り抜けることも出来るようになった。
だけどここまでゼリーか肉しか食ってない。
野菜を実らせているモンスターもいるんだが、ここには生息していないようだ。
食べる物があるだけマシなんだろうけど、そろそろパンや野菜が食べたい。
「はぁ……とにかく階段か、安全地帯を探そう」
階段を除く安全地帯は、全ての階層にある訳じゃない。だいたい二~三階に一部屋だって聞いた。
階段は基本的に安全なので、部屋か階段が見つかればいい。
安全地帯を探して歩き回っていると、信じられない音──いや、声が聞こえた。
「きゃっ」
女の子の声!?
結構近くだ。あっちか!
人がいる。人がいる。人がいる!
あの角を曲がった先かっ。
念のため直前で足を止め、隠密を使って角を曲がる。
いた。人だ!
二十歳前後の男と、それに──兎? いや、獣人族か。それと猫。
猫!?
な、なんでダンジョンに猫。
「んにゃ!」
「にゃ、にゃびっ」
モンスターの攻撃を受けて猫が吹っ飛ぶ。
あの猫、よく見たら普通の猫じゃないな。尻尾が二本あるし、猫にしては大きい。その上二本足で立ってるし。
「は、早くここから逃げなきゃっ。コポト!」
「ぼ、僕は……もう、ダメだ。ルナーラ、にゃびを連れて、逃げ……」
男の方は怪我をしているのか、かなり苦しそうだ。
助けるか?
だがモンスターの数は十匹はいるぞ。
──あぁ、サンキューなロイド。俺たちのために犠牲になってくれてよぉ。
──ごめんなさい、ロイド。私、ここで死にたくないの。
俺を見捨てて逃げていった仲間の顔が浮かぶ。
自分たちが直接手を下さなくても、俺はあいつらに殺されそうになったも同然。
あんな奴ら、もう仲間でもなんでもないっ。
でも、ここで彼らを見捨てれば俺もあいつらと同じになる。
それは嫌だ。
俺は人として間違った生き方はしたくない。
そう約束したんだ。
幼い頃、俺の村を襲ったモンスターたちを倒して、俺を助けてくれた冒険者と。
困っている人がいたら助ける。
それが一流の冒険者だって。
そんな冒険者に俺もなるって、約束したんだ。
「"プチ・ファイア"!」
角から飛び出し、そして一匹のモンスターに向かって放つ。
「ブギャッ」
「"プチ・ファイア"──"プチ・ファイア"!」
プチ・ファイア二発で倒せるのか。ならなんとかなりそうだ!
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