第4話:スライムはもう飽きた

 懐中時計なんて高級品は持っていないので、正確な時間は分からない。

 だけど田舎の村で生まれ育った俺にとって、時計は元々高級品。そんなのない生活が長いから、だいたいの感覚で分かる。


 この部屋に落ちて三日ぐらい経ったと思う。

 スライムからドロップするゼリーはその場で食べ、水瓶は出来るだけ節約。

 堅パンと干し肉はまだ残してある。

 ギリギリで空腹を紛らわせているけど、そろそろ限界かな。


「ステータスもだいぶん上がったし、そろそろ上を目指すか」


 昨日は扉の外を少し歩いてみた。

 今まで見たことのない、強そうなモンスターに見つかって慌てて部屋に避難。

 どうやらこの部屋は安全地帯セーフティールームだったようで、逃げ込むと途端に奴は俺を見失ったようにキョロキョロしていた。

 ここにいる限り絶対に襲われることはない。

 ここから奴を攻撃して倒せないかと思ったけど、それは無理だった。


「安全地帯から攻撃すると、モンスターがその場から逃げていくって話は本当だったんだな」


 スライムが倒せたのは、移動速度が遅いから。逃げられる前に倒せただけだ。

 この階層では、スライム以外は相手にしない方がいいだろう。

 ステータスが上がって足も速くなったし持久力の面も、以前の数倍にはなったはず。

 だけど挟み撃ちになった場合、逃げ切れるか不安だ。


「となると、このスキルを上げておいた方がいいだろうな」


 目の前に浮かんだステータスボードの、職業訓練で習得した初期スキルに目を向ける。


『忍び足 レベル1』


 移動の際の足音を消す効果がある。

 背を向けているモンスターの近くを横切る時に、音で気づかれる心配がなくなるってやつだ。

 職業訓練では、最初はたいして音を消せないだろうけど、経験を積めば無音にもなる──と教わった。

 それがレベルのことを言っているのだとしたら、上げて置けばモンスターに見つかる可能性を少しでも減らせる。


「10まで上げてみるか」


 この三日間で戦士、斥候、弓手、神官、魔術師のレベルは18まで上がった。

 獲得経験値増加LV5だと、スライムでレベル上げはこれが限界みたいだ。

 だけど五つの職業を18まであげると、スキルポイントもステータスポイントも結構溜まったからスライム様様だな。




【名 前】ロイド

【年 齢】16歳

【種 族】人間

【職 業】見習い斥候 レベル18 +


【筋 力】196+120

【体 力】196+120

【敏捷力】196+120

【集中力】196+120

【魔 力】196+120

【 運 】196+120


【ユニークスキル】

 平均化


【習得スキル】

『プチバッシュ レベル1』『プチ忍び足 レベル10』『プチ鷹の目 レベル1』

『プチ・ヒール レベル1』『プチ・ファイア レベル1』


【獲得可能スキル一覧】+


【獲得スキル】

『筋力プチ強化 レベル10』『見習い職業時の獲得経験値増加 レベル5』

『魔力プチ強化 レベル10』『体力プチ強化 レベル10』『敏捷力プチ強化 レベル10』

『集中力プチ強化 レベル10』 『運プチ強化 レベル10』


【ステータスポイント】0

【スキルポイント】13



 各ステータスも300を突破。

 攻撃スキルのレベルは上げてないけど、ステータスのおかげで火力も上がっている。

 そろそろ攻撃スキルにも振ってみるかな。


 何か新しいスキルはないかと見てみると、ひとつあった。


『☆プチ隠密』


 隠密? 確か斥候スキルにあったはず……。

 文字に触れてみると説明文が出てくる。




 プチ忍び足がレベル10になることで派生する見習い斥候スキル。

 一定時間、気配を消すことが出来る。




 気配を消す。

 消す!


「気配を消せるなら、モンスターもやり過ごせるんじゃ?」


 スキルポイントは13残っている。試しに5取って検証してみるか。


 通路に出て、少し歩いた所で中型モンスター発見。

 まだこっちには気づいてないようだ。


「ならやってみるか。"プチ隠密"」


 念のためそぉっと近づく。

 奴がのそりと向きを変えて横向きになった。

 見つかった? と思ったけど、違うようだ。

 もう少し近づくか。


 で、モンスターまで五メートルというところで気づかれた!


「"プチ・ファイア"!」


 を撃って速攻で逃げる。

 部屋まで戻って来ると、モンスターはそのまま通り過ぎて行った。


 時間の経過なのかスキルレベルが低いからなのか分からないけど、やっぱ見つかるんだな。


 扉から顔を出して覗くと、さっきの奴はプチ・ファイアの射程にいる。そのうえで五メートル以上離れていた。


「"隠密"──"プチ・ファイア"」

「ンギョアッ!」

「げ、見つかった!」


 すぐに顔を引っ込めれば、モンスターは俺を見失ってまたふらぁっと歩き出す。

 隠密中に攻撃したら、スキルが解除されるのか?


 モンスターが五メートル以上離れているのを確認して、隠密状態で部屋を出る。

 気づかれていない。

 お、こっち見た──げ、走って来た!


「だあぁぁぁっ」


 慌てて部屋へと戻る。

 隠密って、どの状態なら気づかれずに済むんだ?






 半日かけて検証した結果──


 その一。

 モンスターと目が合うと見つかる。

 相手がこっちを見ていても、視線を合わせなければ発見されなかった。


 その二。

 モンスターとの距離が近いと見つかる。でもこれはスキルレベルが上がると、その距離は短くなっていった。

 検証のためにスキルレベルを10まで上げてみた結果だ。

 まぁ逆に言うと、見つかった時には目の前だから危険もいっぱいってこと。


 その三。

 隠密中に他のスキルを使うと見つかる。


 その四。

 隠密中に声を出すと見つかる。


 その五。

 レベル10だと効果時間は一分。


 スキルを使えば見つかるけど、移動はもちろん、石を投げても音には気づいても俺には気づいていなかった。

 

「脱出の希望が見えたな」


 石を投げればモンスターは音の方へと注意が向き、そっちへ行く奴らもいる。

 その隙に移動してしまえばいい。


 可能な限りモンスターは無視したい。

 だけど戦わなきゃいけない場面も出てくるだろう。


「もうちょっとレベルを上げて、プチ・ファイアのレベルも上げたいんだがな」


 でもスライムじゃもうレベルは上がらない。

 なんとかここの中型を倒せないものか。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る