トビオ
ツヨシ
第1話
「空を飛べたら、いいなあ」
私の息子は、それこそある程度しゃべれるようになったころから、ずっとそう言っていました。
そんな息子がある日、鳥を拾ってきました。
スズメでした。
「怪我してるみたい」
確かにスズメは時折首を動かすだけで、飛ぼうとも逃げようともしません。
「ねえねえ、治るまでうちで飼おうよ」
息子にせがまれ、スズメ一匹だしと思った私は、さっそく鳥かごを買ってきました。
餌も。
「早く治るんだぞ」
息子はそう言い、スズメにトビオという名前を付けました。
トビオは男の子の名前ですが、私も息子もこのスズメがオスなのかメスなのかはわかりませんでしたが。
ただ飼っているだけで、治療らしい治療はしませんでしたが、日が経つにつれてトビオは元気になっていきました。
「もうすぐ飛べるかな?」
しばらく経つと、トビオは狭い鳥かごの中を飛び回るようになりました。
「もう逃がしてあげたら」
私がそう言うと、息子はちょっと困った顔になりました。
トビオに愛着がわいたのでしょう。
このまま飼っていたい。
でも元気になったから逃がしてあげたい。
息子は悩んでいたようですが、最終的に後者を選びました。
「トビオ、僕はおまえみたいに自由に空を飛びたいんだ。逃がしてあげるから、僕の願いをかなえてね」
そう言って息子はトビオを大空にはなちました。
その翌日、息子はトラックにはねられて、亡くなりました。
あまりにも激しすぎる悲しみの中、私はふと思いました。
今頃息子の魂は、自由に空を飛んでいるのではないのかと。
終
トビオ ツヨシ @kunkunkonkon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます