第13話 オロギラス 一匹目3
今日集めた情報を精査する事になり二人が私の部屋に集まった。
ゴドウィンがここの食堂で集めた情報とエミリオが買い物のついでに聞いてきた話を合わせると目撃されたオロギラスは
「南西か、これはツイてるな。南東へ行ってたら小さな村や町が点在する地域があるから被害がデカくなってただろう」
ゴドウィンはこの辺りの地理に明るいらしく安堵したように言った。
「だが南西となれば深い森が続く人跡未踏の魔物が多い地ですね。オロギラスを追って踏み込むにはかなり危険が伴いますが、誰にも見られる心配が無いという利点はあります」
エミリオは頭を巡らし早速オロギラスを倒すための算段をし始めたようだ。三人だけの戦いに作戦は必須だろう。オマケに私はまだ騎士コースも終えていない半人前だ。全くの素人ではないだけマシかもしれないがそれでも頭数に入れるには未熟だろう。
「作戦を立てても無駄じゃないか?ざっくりとした決め事だけでいいだろう」
勘で動く事ができるゴドウィンが面倒くさそうな顔をするが計算して動くこと好むエミリオがそれを受け入れるわけない。
「何を言ってるのですか、姫様に万に一つの事もあってはならないのですよ」
「だがたった三人で倒さなきゃいけない相手はオロギラスの気性が激しいと言われる
流石のエミリオもそれ以外の作戦が浮かばなったのか不満気に黙って聞いている。
「ま、唯一の希望は『大猿』だがな」
ゴドウィンは面白そうに私を見てニッカリと笑う。
「希望じゃなくて絶望の間違いじゃない?」
頭痛がしてきてこめかみをグリグリと揉んだ。蛇を見ると変身するなら戦うときに私が大猿になるのは確定だ。自分の事ながらゾッとする。
しかもまた気絶させられて全裸になるのだが、男の身体になっていてそこだけは本当に良かった。いやそのせいで結果的に大猿になることになったのだから良かったとは言えないか。兎に角いくら気心が知れた二人でも女の身体で全裸で気絶しているところは絶対に見られたくない事だけは確かだ。
「こうなりゃ姫様が大猿に変身してオロギラスと戦えるのはある意味幸運だな、ポントゥスが結構いい仕事したって事だな」
あの変人め!あれだけ大騒ぎさせといて解決へ一助を担うとは恐ろしいやつ。
「あぁもうわかった。やるわよ、やってやるわよ!開き直って大猿でもなんでもなって王位を狙ってやるわよ!!……でもポーションは多目に用意してよ」
こうなれば怖いとか面倒だとか言ってられない!!
人目につきにくい夜明け前に出ることにし、それぞれの寝室へと向かった。
あまり良く眠れたとは言えないが何とか起き上がると身支度をした。ここにはローラがいないのでひとりで起きてひとりで顔を洗う用意をしてひとりで着替える。
初めての平民が泊まる宿で過ごしたがキチンと用意が出来上がりなかなか気分が良い。私ってやれば出来るのよね。
少しするとエミリオが朝食を手にやって来た。ゴドウィンはまだ起きてこないとアンバーから知らされたらしく不機嫌な顔をしている。本当に彼女の部屋に泊まったようだ。
ふ、ふ〜ん、これが大人の悪い男のすることかぁ……
朝食も食べ終わり荷物をまとめて宿の厩へ行き積み込みをしているとやっとゴドウィンがあくびを噛み殺しながらやって来た。
「遅いですよ」
冷たく睨みつけるエミリオを気にする様子もなく積み込みを手伝い始める。
「ちゃんと出発には間に合ってるだろ」
そう言ってだらしなく着たシャツの上からマントを羽織りグッと伸びをする。どこでもいつもの変わらないペースのゴドウィンにちょっと安心感を感じる。
念の為フードを深く被ってまだ人通りも少ない朝の通りを三人揃って静かに馬を進めた。
昨日通った門まで来るとチラホラ人影が増え開いたばかりの門に短い列が出来ていた。私達は昨日と同じく通行書を門番に見せると列の脇を通り直ぐに街の外へ出た。
街の外は早朝というだけではなく南へ向かう人影は無く、そのおかげで軽快に馬を飛ばして南下し日が高くなる前にはオロギラスの目撃情報があった森にたどり着いた。オロギラスが出ると言われてもなんの変哲もない普通の森に見える。
ここからは蛇の出現率が上がるだろうからなるべくアチコチ視線を向けずに先を行くゴドウィンの背中だけ見るようにしよう。
街道から離れ、整備されていない道を奥へゆっくりと進むと焦げ臭い匂いが漂ってきた。
そのまま行くと木々がなぎ倒され燃やされた跡や地面が抉られた跡が目の前に広がった。
「ここで戦闘になったようだな」
ゴドウィンが慎重に馬上から辺りを窺っている。魔物の物か人の物かわからないが血痕らしきものがそこかしこに残され、かなり広範囲で何かが暴れ南西方向へ引きずったような痕跡があった。それは勿論オロギラスが残して行ったものだろうがそれにしては聞いていたより酷い気がする。
「これを見る限りかなりの大物のようですね」
エミリオがいつものように冷静な声で話しながらチラリとゴドウィンを見た。
「これを倒せばまた俺の名をあげる事になる」
嬉しそうにニヤリとするのは以前倒したオロギラスよりも大物という事らしいが、それって別にいい知らせじゃないから。
「デカかろうが小さかろうが行くしかないわ」
二人を促しオロギラスが残した獣道を進んだ。もちろん足場は悪くノロノロとしか進めないが数時間経った頃一旦休憩を挟むことにした。
馬から降りてちょうどいい感じの石に腰掛けると持ってきた水筒の水を飲んだ。エミリオが包を渡してくれ中から肉と野菜を挟んだサンドイッチを取り出しかぶりつきモグモグと味わっているとゴドウィンが同じものを手にしながら私を見ていた。
「ゆっくりと食べれる食事はこれが最後だと思って下さい」
この先どこまで深く行ったかわからないオロギラスの痕跡を辿りつつ慎重に追っていかなくてはいけない。きっと数日はかかるだろう。
「三人しかいませんから、姫様も交代で夜の見張りをしてもらうのでそのつもりで」
「わかってるけど、蛇が出たら終わりね」
だからって二人だけに任せていざという時に戦えなくては意味がない。むしろ私が率先して夜の見張りを引き受けたほうがいいくらいだ。
「手持ちの食料で帰りのことも考えると進むのは五日から六日が限界です。その時点で発見できなかったら一旦引き返しますから」
「引き返してもまた来なきゃいけないなら一気に行ったほうがいいだろ」
「我々だけじゃないのですよ、姫様の安全が最優先です」
体力的なことや他の魔物に遭遇することも考えると無茶は出来ない。イケイケのゴドウィンを押さえるの役目はいつもエミリオだが今回は時間がない。
「だったら先を急ぎましょう。幸い今回はオロギラスが通った跡があるわ、追えば何とかなるでしょう」
少しでもいい状況と思いたくて出来るだけ明るく振る舞うが不安で仕方がない。
オロギラスは本当に見つかるのか、見つけても倒せるのか、皆無事に帰れるのか。
二人は私の護衛だと言う理由だけで文句も言わずここまで来てくれたが無謀だったんじゃないか?
深く考えると今更ながらこんな状態に追い込んだ魔術師達に腹が立ってきた。
覚えてろよ!!あの女魔術師とポントゥス!!
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