第54話
屋敷に戻る前にこれから俺たちがどう行動すべきか二人に意見を聞いてみる。今この年齢、この状況で神託が出た事実に意識的なものも含め、いろいろと修正していかなければいけないだろう。
「これからどうしようか迷ってるんだけど、何か良い案はある?」
「そうね、オルディス様も言っていたけど、私達の基礎値がいくら高いからといっても体の成長が終わっていない子供だもの。個人戦でスキルありなら勝てるでしょうけど、無しではレリクやシャロンさんにもまだ勝てない。魔力切れの状態で5万の魔王軍と戦えるとは思えないわ。もし私が決めていいなら迷宮で力をつけるかな?」
「私もその方がいいと思います。まだ時間はありますから」
「エルフの娘と獣人の娘はどうするの?今生で仲間になってくれるとは限らないんじゃない?」
「フェミリエとミラについては手紙でも送って、今から力をつけて貰うのが得策だと思う。彼女達は転生前に魔王軍と一緒に戦った戦友ですもの。ほとんど記憶は消されちゃったけど、また一緒に旅に出て共に苦楽を共にしたわね」
神界で二人の姿を見たけど、中々の美人さんだったな。あの二人が仲間にね…おっと。いかんいかん。顔に出たらマズい。
「神様は何も言ってなかったけど二人の記憶はどこまで残ってるんだろう?記憶が無かったら、知らない女性からの手紙なんてただの怪文書じゃないか?」
「そこはオルディス様にお願いするしかないわね。とにかくタイミング的には今じゃないわ。彼女達はすでに成人していて、現時点でBランク冒険者のはずだからね。15歳になっていない私達では正式にギルドに登録出来ないから、一緒にパーティは組めないのよ」
ジュリエッタの話では、冒険者ランクの±1の者としかパーティは組めないそうだ。
前世の知識で言うと、レベリング防止と、エルフと獣人とは成長速度が違うって事だな。そもそもステータスカードが無い時点で無理な話なので思考を打ち切る。
「仮に15歳になったとしても、マイアはこの国の姫君だろ?世界中を旅するなんて許されるのか?野宿する事もあるだろうし」
そういうと、マイアの顔が強張ったと思うと呆れ顔になる。
「この国、いいえ世界が滅びようとしているのに、賢者としての役割もあるのに、私だけこの王都に残れと仰るのですか?王位を継承する兄たちがいるですから、王女の立場など捨てってしまっても構いません」
「そうか…そうだろうな。馬鹿な事を聞いて悪かったよ。じゃあ次だ。シャロンさん、レリクさん、じいやさんにどう話をする?隠しておいたほうがいい?」
「隠すのは下策だわ。まだ8年もあるのに、自分たちの行動に制限をかける必要は無いわ。あの3人が誰かに話すとも思えないし、きっと協力をしてくれるわよ」
「もし不安でしたら、契約の魔道具を使ったらよいのでは?」
今名前を出した3人は既に一蓮托生の仲と言って良い。シャロンさんとレリクさんはともかくとして、執事のじいやさんを巻き込むのはどうかと思う。全てを話して外部に漏れると世界が混乱しかねない。ま、子供の言う事をまともに聞くかどうかは別としてもだ。
そんな訳で3人には、絶対に口外しないと言う魔道具である契約書を使って契約を結ぶ事にした。もしこの契約を結びんだ後に破ろうとすると、話した内容を全て忘れてしまうそうだ。魔法とは本当に便利なものである。まあ信用してないよと言ってるようで心苦しくはあるけど。
それから間もなくして屋敷に到着すると、3人を呼び出して国家機密に係る内容なので他言無用と伝えると、一瞬真顔になったあと、それならばこの方が良いでしょうとこちらからもちかけるまでもなく契約のスクロールを使う。なんというか、やはり素晴らしい人達だ。
俺達の過去の部分など、前世で起こった隠さねばならない重要な部分は隠しながら、話を進めると3人は信じられないという顔をして言葉を失っていた。
「やっぱり驚きますよね」
「それはそうですよ。悪魔が現れた時点で魔王の復活は予想はしていましたが、まさか、お三方が勇者、聖女、賢者だとは…不都合が無ければ一度、詳しく数値やスキルを見せていただいても?」
俺達3人はほぼ同時に【鑑定】と詠唱。
ステータスが空中に表示されると、シャロンさん達は目を丸くした後に、食い入るようにステータスを確認する。
「まさかこれほどとは…全員が希少スキルの鑑定スキルとアイテムボックス持ちで、おまけにパーティ登録をしないと使えない念話が使えるとは…ヴェル殿の物理化学魔法と姫殿下の瞬間記憶、多重魔法展開は見た事も聞いたことも聞いた事も無いスキルです」
「お三方は子供にしては異常だと思っていましたがスキルが半端なく凄い。ヴェル殿だけが使える光属性と闇属性は勇者特有の属性と習ったが、どんな魔法が使えれるのだ?」
「光属性魔法は恐らく閃光、物理化学スキルは氷魔法と重力魔法、闇属性については試して見ないと分からないです」
「…何を言っているのか見当もつかない」と、シャロンさんは首を捻る。
「またおいおい見せますよ」
この半年以上シャロンさんには隠し続けてきたスキルだからな。物理と科学と言った概念がほぼ無い世界の人類が理解出来なくても当然だし、特に重力魔法については、ひょっとしたら闇属性の可能性もあるので、正しいとは言えない。別に属性が分かったからと言っても何のメリットもないしな。
「今まで護衛をしていたお嬢様達がまさか伝説の聖女で、ヴェル様が勇者、極めつけに姫殿下が賢者だなんて、誰かが想像で書いた物語のようで実感が湧きません」
じいやさんは静観しているが、興奮気味に話すシャロンさんとレリクさんは、考察を交えた会話が止まらない。
日本にいた時には、アマチュアながらも小説を書いていた自分としたらラノベ設定がそのままこの世界に来たようで、あまりにも話が出来すぎている。少々複雑な気分ではあるが、与えられた役割もでかいしな。
話が進まないので、今後は予定通り迷宮での検証&教育と言う事になった。じいやさんが関連する書籍を持ってきたので、レベルの上げ方や知識の補充をする。
「まず冒険者となる前提でパーティを組んだ場合ですが、この欄を見てください」
レベルアップの条件は、魔物ランクに合わせて経験値があり、各種武器、魔法につき一人100、各属性魔法につき100。3人パーティの場合は300。
但し1個でもレベルが上がれば冒険者ランクが上がる。魔物のランクが上がれば、耐久も上がる。経験値を得るためには、上げたい武器スキル、魔法属性で魔物にトドメを刺すしかない。
冒険者ランク 適正レベル
Fランク 剣 魔法 2、3
Eランク 剣 魔法 4
Dランク 剣 魔法 5
Cランク 剣 魔法 6
Bランク 剣 魔法 7
Aランク 剣 魔法 8
Sランク 剣 魔法 9、10
自分のレベルより下の魔物を倒した場合は経験値は-1で半分、-2で1/4、それ以上だと入らないとの事だった。
単純ではあるが100って…時間が掛かりそうだが、逆に自分のレベルより上の魔物を倒した場合は倍の経験値が入るとの事なのでやってみなきゃ分からない。
「学園迷宮はDランクと聞いていますが、レベルが足りない僕達が入れるのですか?」
「管轄が国営だから問題は無い。それに学園迷宮は1~5階層ががFランク、5階層~10階層までがEランク、11階層~20階層までがDランク迷宮という作りになっているから安心していい。あのステータスならば1階層からではなく、Eランクの5層目から始めても問題ないだろうな」
「マイアは上級魔法が使えるのに全属性レベル(3)ですよね?これはどうしてですか?」
「以前も言いましたが、魔法はスキルではなくレベルが上がったからと言って、魔法を覚えるわけではありません。レベルが上がったら、そのレベルに合わせた魔法陣を覚えるのが通常の手順なんです」
と、レリクさんは苦笑い。つまりマイアは「やってみたら使えちゃいました」的なブレイクスルーをしたんだな。とは言っても上級魔法1発しか発動出来ないのであれば、そこまでチートだだとは思えないが…
「それにこれは、通説ですが、鍛錬で上げるには基礎値によって目に見えない、力、防御力、魔力、体力、瞬発力などがあると言われています。だからヴェル殿を徹底的に鍛え上げたのですよ」
「つまりレベルだけ上がっても強くはならないと言う事ですか?」
「うーん、そうじゃありません。魔物を倒してレベルが上がれば技術や力もつきますし、使える魔法も増えれれば戦略も組みやすくなりますし、稀にですが新しくスキルを得られますからね。強い力を求めるならば冒険者になるのは必然となるのです。魔物を倒せばその魔物の強さに合わせた魔石が得られるのも魅力的です。それに、身の丈に合わない良い武器を持っていても、使いこなせてなければナマクラと同じですから」
これについては納得だな。ボクシングの階級制と同じ理由だろう。それに、武器によって強さのレベルが変わるのなら平等じゃないしな。
「だから王族や王宮で上級職に就く方々でも、一度は冒険者になる必要があるのですね」
「私は男爵家出身の王国騎士団に所属していますが、冒険者になるという認識ではありません。あくまでも教育で得られる副産物的なスキルが必要だだらと考えるのが一般的でしょうか?資格の目安も必要なので」
「シャロンさんの言うとおりよ。聖属性のレベルを7まで上げないと王宮医療技師にはなれないのだから」
「なるほど、魔道具はどんな意味合いで作られるのでしょうか?生活魔法ならば魔力操作さえ極めれば必要ないと思うのですが」
「それは、誰しも専門的な教育を受けれるわけではありません。例をあげますと火種なんかであれば誰しも使えれますし、魔力の消費は軽微なのですが、制御が出来なければ火事や大怪我の原因となってしまいます。例えば料理の時常に魔力を放出しっぱなしって事にはできません。魔力を蓄積出来る魔道具ありきでではないと生活ですらままなりません。それに細かな魔力操作は正直面倒ですし何よりも夢中になって魔力切れが怖いので」
「なるほどです。魔法操作の鍛錬は誰しもが同じように出来る訳ではなく得意不得意があるから、魔石なら魔力を蓄積出来るので魔力切れの心配もない。全ては魔道具で解決すると言うことなんですね?」
「はい。そのとおりです」
なんとなくは分かったが、俺が使える光魔法、闇魔法と言ったような物理化学的な魔法は手探りで探すしかないかな。
昼食を食べ終わると、シャロンさんが「学園迷宮に行くのなら装備品が必要となります。直ちに手配しましょう」と、前回保留にしてあった装備品の事を聞いてきた。
ユグドクラシルの武器については、ぶっつけ本番ってわけにもいかないだろうし自分も性能には興味がある。
「武器については、神様に頂いた物がありますので防具だけでいいです」
「英雄譚でお馴染みの勇者の剣か!物語では旅の途中で苦労して手に入れるのと言うのが定石だが、既にそんな物まで神様に下賜されたのか!ぜひ見せて欲しい!」
『俺と同じラノベ脳かよ!』
とは言えその気持ちは痛いほど分かる。
いつも鍛錬している、屋敷の裏庭に行くと「ユグドクラシルの刀よ顕現せよ」と詠唱。
鞘に納められたユグドクラシルの刀が、右の手のひらに握られていたのでまず自分が驚く。
『これは、アイテムボックスの機能なのか?神界で収納した時と同じ状態になるとはな』
「凄いな!詠唱するだけで武器が顕現するとは!」
鞘から刀を抜くと、シャロンさんは値踏みをするように、まじまじと刀を見るので「これは、神様曰く刀と言う異国の武器だそうですよ」と、無理やり誤魔化した。
「ふむふむ、興味が尽きないな。魔石をセットする穴も無い。検証をする前に一度握らしては貰えないないだろうか?」
まるで子供の様に目を輝かせるシャロンさん。既に鬼教官の姿はもうどこにもない。
シャロンさんに、手渡すと何かに弾かれれて刀が地面に落ちた。
「まさか。他の者には触れないと言うのではあるまいな?レリクお前も触れてみろ?」
レリクさんも触れようとするが無理だった。ジュリエッタ、マイアも試すと触れられた。勇者パーティじゃないと触れられない事が発覚した。
「魔石をセットする穴が無いのは、私達が光と闇以外の属性は全て持っているからじゃないかしら?」
ジュリエッタが考察すると、シャロンさんとレリクさんは肯定するように頷く。
「確かにお三方のステータスを見る限り、魔石は必要なさそうですね。ヴェル殿、一度その氷魔法とやらをその刀に付与してみてはくれないか?」
「分かりました。ダメ元でやってみます」
刀に氷を纏うようなイメージで付与してみると、刀身に青白いエフェクトが掛かり冷気が纏う。
「なんだか涼しいですね。試しにあの杭を斬ってみてはくれませんか?」
「分かりました。僕も興味があるので、試してみます」
刀に付与した氷魔法を解いて納刀すると、鍛錬に使っている杭の間合いに立つ。
柄を握り納刀したまま、氷魔法を刀に付与。頭の中で、斬った後に凍るようにイメージ。半身で構えて、居合で横薙ぎで斬ってみると、杭は真ん中から真っ二つに斬れた後に凍って砕け散る。
『よし、イメージどおりだ』
全員が口を開いたまま唖然とする中、いち早く正気に戻ったマイアが「すっ、凄いです!」と、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜ぶ。
「詠唱無しってどういうカラクリか分かりませんが、これが勇者の力、或いは神様に与えられた武器の性能なんだと納得するしかありませんな」
「ですね。誰にでも使えるとは思いません」
そんなわけで、色々な魔法属性をイメージだけで無詠唱で刀に魔法属性を付与しながら、試し斬りをしてみたがすんなりと出来てしまう。
それから、ジュリエッタとマイアがユグドクラシルのロッドを顕現させて、魔法を試して見るが、詠唱無しでは無理だと言う事が分かった。
オレもユグドクラシルの武器をロッドに変化させて魔法を放ってみたが、無詠唱で発動出来てしまった。
マイアから「賢者よりも魔法が長けてるってどう言う事ですか?卑怯ですよ」と軽く抗議をされたが、出来るものは出来るんだから仕方が無いじゃないか。
これは化学を理解していて、明確にイメージ出来るからだと考察する。このことについては検証する必要がありそうだ。
余談だが、ユグドクラシルのロッドは魔力消費が半分となると言う、これもまた、ぶっ壊れチート武器である事が判明した。威力が倍増するよりはマシか…
ラノベ作家のおっさん異世界に転生する。 来夢 @raimu-1971
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