第53話

「前世の記憶の事についてだが、ヴェルの地球での記憶は徐々にだが自然に消えていくであろうし、マイアはこのままにしておくがそれで良いな」


やっぱり徐々に消えるんだな。備忘録を書いておいて良かったと言えよう。


「既にジュリエッタの過去は少し見せていただきましたし過去は変わっています。今後の影響を考えても戻して貰う必要はありません」


「私もです。前世で9歳でコレラで死んだのなら、前世の記憶は必要ありません」


「うむ。では次にそなた達にはユグドクラシルの武器を与える」


ジュリエッタの記憶の映像にも出てきたけど、ユグドクラシルって世界樹の事だよね?


そんな事を思っていると、神様は手をかざすと俺達の体が光った。


「それでは、自分のイメージする武器を頭の中で描き、心の中でもいい。顕現せよと詠唱するのじゃ」


ユグドクラシルの武器は魔法で呼び出すようだ。俺はここは剣ではなく刀をイメージする。神様が与えてくれる武器だ。居合いも練習したし日本人ぽくもあるからな。


「顕現せよ!」


ほぼ3人同時に詠唱すると、イメージ通りの刀と鞘が手に握られた。ジュリエッタとマイアは形は違うがロッドであった。


「それぞれに行き渡ったようだな。武器を収めるのは顕現解除と言うだけで自動にアイテムボックスに収納されるように調整しておいた。武器の特徴として刃が欠ける事もないし折れもせぬ。剣や魔法のレベルが上がれば武器も成長をする。鍛錬に励むがよい」


顕現解除すると、言うとおり本当に武器が消える。


『原理は分からないけど本当に消えるとは凄いな。これで念願のアイテムボックス持ちだぜ!』


次に、オレ達は本来ならば15歳で与えられるスキルを与えらた。


「オルディス様、思ったんですけどステータスカードに書き込むのは15歳になるまで待って貰えないでしょうか?ここで目立つのはどうかと…二人はどう思う?」


「そうね。噂が広がれば、シルフィスが動く可能性がある以上、ヴェルの意見に賛成かな」


「私もその方がいいと思います」


「よかろう。それでは鑑定でステータスが確認出来るようにしておこう。パーティを組むと使えるようになる機能もスキルに組み込んでおく」


「ご配慮ありがとうございます」


オルディス様が【鑑定】をしてみて確認をして欲しいと言うので実行してみる。



※ ※ ※ ※



名前:ヴェルグラッド・フォレスタ


職業:なし


称号:勇者、英雄


魔法属性:火(2)、水(2)、風(2)、土(2)、雷(2)、聖(2)、光(3)、闇(3)


スキル:剣(3)


特殊スキル:念話 鑑定 居合斬り 物理化学魔法 アイテムボックス(無限)



※ ※ ※ ※



名前:ジュリエッタ・ジーナス


職業:なし


称号:聖女


魔法属性:火(3)水(2)、風(2)、土(2)、雷(2)聖(5)


スキル:槍(2) 剣(2) 盾(1)


特殊スキル:念話 鑑定 アイテムボックス(時間停止5t)


※ ※ ※ ※


名前:マイア・レディアス


職業:なし


称号:賢者


魔法属性:火(3)水(3)、風(3)、土(3)、雷(3)、聖(2)


スキル:剣(2) 盾(1)


特殊スキル:念話 瞬間記憶 鑑定 多重魔法展開 真偽サーチ アイテムボックス(時間停止5t)



※ ※ ※ ※




「少し驚いたのですが、私が使っていた氷、重力、閃光は物理化学魔法スキルって認識でいいのですか?」


「そうだな。閃光は光属性魔法だが、氷魔法と重力魔法はその認識でいい。前世で得た知識を利用してこの世界の魔法に反映させた結果がスキルに現れたんだろう。物理化学の概念が無い世界だが、他の者も物理や化学を理解すれば使えるようになるだろうが目に見えない物質や固定概念を覆すのは難しいだろうな」


「言われてみればそうですね。それと15歳になるまで勇者、聖女、賢者の称号は与えられないのでは無かったのですか?」


「確かにそうですが、流石の私でも、もう一度時を巻き戻すことは出来ません。安全マージンを多めに取った特例ですよ」


レアリーフ様は苦笑する。一度、歴史を捻じ曲げたのだ。これ以上は肩入れ出来ないのだろう。


「しかし、そなた達はいささか鍛錬し過ぎではないか?神のみぞ見える、基礎能力がもはや常人を超えておるぞ」


「ええ、3歳から鍛えていましたから。前世の知識があったらそうなりますよ。質問なんですが、基礎能力の可視化をなぜ意図的に封じているのですか?」


「元は地球の神であったからな。ゲームの事や数値化する事によって目標が立てやすく、成長が楽しめる事は承知しておる。だが仮に出来たとしても其方も思っただろ?数字や能力が表示されればどうなるか。数字で人の価値が決められれば、格差が生まれていらぬ軋轢を生む」


「数字が全てではなく、経験が大切だと言う事ですね。私の予想していた答えと同じでした」


せめて、魔力残量ぐらいは確認したかったが、それが神様の方針なのであれば致し方が無い。


「この世界には、人族ではなく色々な種族がおる。そのバランスを考えておるのだ。それでは、この世界の事はそなた達に託す。今後は、神託の儀の時期ではなく。ワシに直接用があるときは教会で祈りを捧げるが良い」


「「「はい」」」


随分と長い間、濃い話を聞いていたので、最後はずいぶんとあっさりとしたものだったが、神様との話が終わり人界に戻ると、全員一緒に意識が戻る。


「どうでしょうか?年齢到達前なので成功は正直難しいものです。失敗しても落ち込んだりする必要はありませんから気楽にステータスカードの確認をしてください」


司祭に声を掛けられたので、カードに魔力を流すが無論、表示はされない。


陛下とマーレさんは一瞬顔が強張ったが、陛下は笑顔で司祭に「この事はけっして口外せぬように。もし口を滑らせる事があるようなら、今後の支援は打ち切らせてもらう」と念を押す。


「もっ、もちろんですとも。私にも立場がありますので」


陛下とマーレさんには悪いが、ここで奇跡だなんだと大騒ぎされてもめんどくさいからな。


「それでは王城へと戻るぞ。ここは神託の儀のメイン会場だから邪魔になるしな」


「神託のことについて陛下にお伝えすべきことがあるのですが、お時間いただいても?」


「うむ。この後打ち合わせあるのだが、1時間程度なら何とかしてみよう」


「充分です」


重々しい空気の中、馬車に乗って王城へ向う。これだけ大事になったんだ。陛下の耳に入れるべきだし、そもそも子供3人だけの秘密にしておくには重過ぎる。


馬車では3人だけになったのだが、誰一人として口を開かない。2人も思う事があるのだろう。


「なぁ、ジュリエッタ。陛下にどこまで話すべきだと思う?」


沈黙に耐え切れなくなって、オレは口を開く。


「そうね。まず隠しておかなければならないのは、私の過去の記憶とヴェルに異世界の記憶がある事かな」


「私も同意見です。歴史が変わった以上、余計な事は言う必要はないかと」


「そうだな。過去は既に改変されているからそこを煽る必要はないね。神様から未来の事を聞かされたと言う事にしよう。でも王族には真偽サーチのスキルがあるよね。大丈夫かな?」


「たぶん大丈夫です。私達に真偽サーチのスキルを使うほど、お父様は常識外れではありません。スキルを使えば分かりますし」


「そっか。でも魔王を打ち滅ぼしても、僕達が討伐対象になる可能性だってあるんだよな。だからと言って魔王軍に加担すべき話でもない。どちらを取っても棘の道だな」


「大丈夫ですって。私はこれでも王女なのですから。それにヴェルは伯爵位ではありませんか?時間もありますし、一度お父様に相談をしてみましょう」


「そうね。聖女ユリファ様と賢者セリヌ様が地位を確保したのは勇血を引き継ぐ、私達子孫の未来を憂いたからじゃないのかな」


「だとしたら、聖女ユリファ様と賢者セリヌ様には感謝しかないな」


口には出さないが、勇者の血を引く者が魔王の依り代とされようとしている。この件に関しても何らかの対処をしなくちゃならない。


「それで、ヴェルに質問があるのですが、異世界の記憶があると言う話だったのですが、それなら、私達の事を今までどう思われていたのでしょうか?」


うわ、それ聞く?なんの答えの準備をしてないぞ?思わず「正直に言うと子供とか孫かな?」と、答えると二人とも驚愕した顔のまま固まった。


『やべ~!言い方間違えた!!』


我ながら、本当に馬鹿だ。もう詰ってると言っていいだろう。


「ゴメン!!上手く言えないんだ。記憶的にはそうだけど、ただ生まれ変わって体も心もリセットされた不思議な感じなんだ。だから見た目どおり11歳だと思ってくれていい。たまにおっさんぽい事を言うのは、その記憶の名残みたいなものかな?」


他に言いようがない。最近はおっさんモードは突っ込みだけである。今は心と精神が馴染んだといった感じ?そうじゃないと、ただのロリコンのおっさんか保護者のじいさんだ。それだけは勘弁して欲しい。


「どうりで大人びていると思っていたわよ。私は結構前から気付いていたけどね」


「今思えばジュリエッタは役者だな。大人びているとは思っていたけど、まさか僕と一緒で転生前の記憶があるなんて予想もして無かったよ。一瞬地球からの転生?と思ったことはあったけど」


「神様との契約で言ったら駄目という約束があったのよ。それに私の記憶があるのは前世でヴェルが死ぬまでよ。後の記憶は既に消されているから今はもう何も思い出せないの」


「確かに契約したなら言えるわけないよな。まあ色々明らかになったわけだし、念のため聞くけど専属騎士を解除した方がいい?過去の自分を見たけど、まるで別人だし」


中の人がおっさんの記憶ありとカミングアウトしたからな。キモイと言われて専属騎士を解除されても仕方が無いし、前前世のヴェルと今の自分を比較するとあまりにも性格も人格も違い過ぎる。


「今さら何を言いだすのよ!ずっとここまで辛抱して我慢してきたのにあんまりだわ!!それとも私の事が嫌いなの?」


ジュリエッタは涙目になりオレを睨む。どうやら取り越し苦労だったようだ。


「好きに決まってるじゃないか。嫌いなら専属騎士になってないし、ただ騙しているみたいで申し訳ない気持ちになっただけだよ。ごめん」


「私の記憶を知った上でなら論外よ。今生はヴェルと添い遂げる為にがんばったのだから、専属騎士を解除するなんて二度と言わないで。一生傍に置いて貰うから覚悟しなさいよ」


「はい。ごめんなさい。二度と言いません」


そう謝ると、腕を組みうんうんと頷く。機嫌が直ったようで良かった良かった。


その後も、今までとは何も変えず生活すると話がまとまると、馬車は王城に入って陛下の執務室と通された。


執務室に入ると、陛下とマーレさんがソファーの正面に腰掛け、促されるままにオレ達は横一線に腰掛ける。


「さてと、結果は残念だったが、お疲れであったな」


「その件で実は陛下に話をしておかなくてはならない事があります」


「うむ。その為に時間を取ったのだ。遠慮無く話すがよい」


俺達3人は【鑑定】と詠唱して陛下に見せると、勇者、聖女、賢者である事を明かした。これには陛下とマーレさんも目玉が飛び出すかと思うくらい凝視したまま言葉を失っていた。


「神託の儀は成功したのだな」


「はい。ステータスカードに色々と情報が表示されれば後々面倒な事になると考えて、敢てこのような形をとりました」


「相変わらず達観しておるな。それで、敢てと言う事は何かあったのだな」


「はい。私達は教会で祈りを捧げていると、神様に呼ばれて神界へと行きました。神様は魔王が数年以内に復活をして、勇者の私がもしも倒されると、魔王が世界を蹂躙して星そのものが滅びると仰られていました」


それから、勇血の話、魔王の存在はいかにして生まれるものなのか、今後の未来に何が起こるのかを話すと、陛下とマーレーさんは二人とも目を瞑り表情を険しくする。


しばらくして陛下が目を開け、俺の顔をじっと見て口を開く。


「なるほど。平和な世の中だが人類とは欲深い者。それに、この国は勇者の末裔が住む国だとは言い伝えでは聞いてはいたが、まさかそなた達全員が勇者パーティの末裔だとはな。それに、竜脈と迷宮の関係ともなれば他国や冒険者を巻き込むことになるな」


「はい。勇者の私だけ倒せれば魔王は安泰です。とは言え他国に説明無しに今迷宮を封印するのは理解を得られないでしょう。王国騎士団や護衛も最低でもAランク冒険者になる必要があるかと…」


一対一の戦いならば努力で何とかなるだろうが、各地で起こるスタンピード。それも万単位で攻めてくる魔王軍を俺達3人だけの個人能力で、騎士や兵士を率いて各個撃破なんて真似が出来るわけが無い。


「よし分かった。時間はまだある。定期的にAランク迷宮に向かわせるとしよう。それで、そなた達はどうするつもりだ?」


『それを俺に聞きますか?』


ま、当事者だから仕方が無いのか。でもここはジュリエッタの記憶がどれほど残っているのかは分からないが、話し合いをしてから答えを出すのが正解かな。


「今ここで答えを出す事はできないので、屋敷に戻ってから3人で話し合いたいと思います」


「そうだな。話し合いの結果は教えて欲しいが、先ほどの話の流れで行くと、マイアとの婚約は結んでもらうがそれで良いな」


やっぱりそれは流してくれないのね。俺にも選ぶ権利はあるんだと思うのだが…嫌いじゃないけど、お互いまだ子供だぞ。


「はい。ですが、慌てて事を進める必要は無いかと…15歳、いえ、魔王を倒してからでも良いのでは?」


「駄目だ。既に一緒に屋敷に住んでいるのであれば、悪い噂が立つ前に、逆に周知させる事に意味がある」


『えっ!友達枠で了承したじゃないか!無理やり方向転換するんじゃない!』


マイアはガッツポーズに似たポーズを取り顔を綻ばせる。


「やっぱり、そうなりますよね。分かりました。その代わりに後から文句を言わないで下さいよ」


「もちろんだ。英雄色を好むと言うからな。神が望むならば浮名を流し、2人とは言わず何人でも妻を娶るが良い」


「子供に何を言ってるんですか!それにそんな節操がない事はしませんよ。それにまずは魔王を倒す事が目標ですから」


「陛下。そろそろ時間でございます」


「まだ3人は子供だ。この世界の命運を委ねるのは心苦しいが、神に選ばれた以上は君達3人に委ねるしかない。出来るだけの事はする。頼んだぞ」


都合のいい時だけ子ども扱いって…


「はい。分かりました。全力を尽くします」


おっさんの記憶があって良かったと思う。これが本当に11歳だったら、プレッシャーに耐えられないかも、と言うよりそもそもこの流れとかほとんど理解出来ないよな。ジュリエッタもそう思ってるんじゃないか?ここに来て一気に伏線回収されるとは思ってもみなかった。


そう思いながらソファーから立ち上がると、オレ達は屋敷へと戻ることにした。


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