第32話

本日2話目です。


次の日、朝食を終えると王都に出発する。宿場村から王都まではここから約4時間との事。


昨日の野盗を討伐した時の精神的ダメージも、温泉イベント、化粧品の開発、更に言えば陛下との謁見の事で頭がいっぱいとなりほぼ無くて良かった。


とはいえ、全く無かったわけでもない。王都に到着したら野盗達の魂が救われるように、ジュリエッタと一緒に神様に祈りは捧げるつもりだ。


馬車の中で、伯爵から謁見の時の手順や作法の話をしていると、ジュリエッタが窓から顔を出して「ヴェル。王都が見えて来たわよ」と懐かしむように言う。


「…でかいな」と、一言つぶやくように感想を述べると、伯爵とジュリエッタは苦い顔。田舎者丸出しである。


王都の壁はこれでもかと言うくらい高さがあって迫力満点だ。この世界に来て城塞都市を多く見てきたが一回り大きい。


王都には馬車専用の出入り口の門【通称:馬車門】徒歩での移動の為の門【通称:一般門】貴族だけが通れる門【通称:貴族門】の3つの門があり馬車は貴族門へ向かう。


門前で停車すると、そのまま何も見せずに通過した。どうやらレリクさんが通行証を見せ、馬車に刻印をされている紋章で貴族かどうかを判断をしているようだ。


貴族門を抜けると4m程の高さのコンクリートの壁に挟まれる様に一直線に道が延びていて、所々歩道橋が設けられていた。まるで高速道路のようだ。


これには驚いた。いや、ほんとに。


「これって、2重防壁って感じであっていますか?」


「戦争や魔物の襲撃に備えているだけではなくて火事対策にもなってるんだよ。燃え広がらないように色々な区画に分かれていて工夫されているんだ」


「さすが王都って感じですね」


それから馬車が進むと丘の上に立つ城が見えてくる。


「あれが王城ですか」


なんと言うか、教科書に出てくるようなテンプレどおりの王城だ。屋根が三角円錐の青色で、ロマンチック街道に佇む中世の城そのものだ。


自分が小説に書いた城も正にこんなイメージなので感動も一入だ。


それから間もなくすると、第2の門が見えて来た。


「あの門は?」


「上級貴族以上しか入れない上級貴族門だ。誘拐や間者などを防ぐ最終門になっている」


「もうここまで堅牢ですと、城と言うより砦ですね」


「まさにそのとおりだ。この壁はその昔、魔王軍と戦い亡国となった砦を強化して再利用して作られたんだ。この壁は星の形に張り巡らされていて、壁の中には王城の他に上級貴族が住む居住区、町、教会、学園などがあるんだよ」


話を聞くと北海道の五稜郭のようなイメージだ。それより規模はかなり大きいが。


上級貴族門に到着をすると、レリクさんが門兵に「後方の馬車に乗っている子供は、ヴェルグラッド・フォレスタである。陛下直々に呼び出しを受けやって来たものだ。許可証を確認して欲しい」と、書状を渡した。


二人いた門兵に許可証を渡すと一人は許可書を確認して、もう一人は馬車の下や後ろの外観チェック、荷物のチェックまで念入りに行う。


『包括事前審査制度のような制度はないみたいだな。そりゃそうか…荷物だけじゃないし恐れるのがテロだけじゃないもんな』


「確認作業は終わりました。どうぞお通り下さいませ」


門兵が敬礼をしすると、馬車は進み始める。


「思ったよりも厳重でしたね」


「馬車で乗り入れる時は特にだな。王都が落ちれば亡国になってしまうんだ。ここが最後の砦だからこればかりは面倒だが仕方が無い事なんだよ。それでも一度王都に入ればあとは緩いものだ。そう心配する必要はないよ」


上級門を通り抜けて、道を進むと屋敷が立ち並ぶ高級住宅街へと入った。徒歩でも入れる門もある。


「あの門は?」


「あの門はね。学園とかもあるから、上級貴族で無い人達が通る門なのよ。それよりあれを見て、あそこが15歳になったら神託の儀が行われる教会よ」


伯爵に変わってジュリエッタがそう答える。


「へ~。神託の儀は国中から人が集まるのかい?」


「そうじゃないわ。上級貴族の領地でもやるかな。でも、上級貴族は王都で神託の儀をすると言う決まりがあるの。報告の義務があるからね」


「そっか。じゃ僕もジュリエッタの数年後に、王都にこなくちゃならないのか」


「神託の儀と学園に入るのが15歳なんだから、普通は気にしないわよ」


生まれた月日が異なるのに信託の儀や学園に入る時期が同じなのは、日本で言う、入学式や成人式と同じシステムで、俺は事実上14歳で神託の儀を受けて、下級貴族だが、その時ついでに学園に入るそうだ。


そんな話をしていると学園が見えてくる。レンガで囲まれた学園は自分で書いた物とも変わりはないが、実際にはかなり大きくて広い。


「あれが学園ですか?」


「そうだ。この国に建国されて以来ずっとある由緒正しい学園だ。屋敷でヴェル君と揉めた子供達も将来この学園に入学をするのを目標として頑張っているんだ。ほらあれを見るがいい。あれが学生寮だ」


あの時の事を思い出して思わず苦笑いをしつつも学生寮を見てみると、新めの大きな建物は白くホテルのようだ。


「えらく豪華な建物ですね」


「この学生寮の運営は、学園出身の貴族や大商人の寄付で運営されているんだよ」


「金持ちのお金の使い道は豪快ですね」


「自分の子供や孫が通うんだ。貴族や大商人の子達に相応しいところで学ばせたいと言う親心もあるんだよ。それにこの国の最高学府だから他国に知らしめるためでもあるんだが、そこは大人の事情ってやつだよ」


「見栄と示威ってやつですね…あの学園に入る事が一種のステータスで、貴族の子供達だけではなくて、一般の多くの子供達が王都の学園に入る事を夢や目標とするなら納得です」


「その感覚は正しい。貴族だけでは無くて、王城、王宮、宮殿、騎士、上級貴族の元で働くのであれば、作法、教養、素養、嗜みまでが必要不可欠って事だ。だから、これぐらいの規模や施設は必要不可欠なんだよ」


文字通り最高学府って事か…日本で言うならば、政治家の秘書官や国家公務員を育てていると解釈だな。


「ヴェル。もう少しで王都の屋敷に到着するわ。降りる準備をしましょうか?」


「ああ。っていっても荷物はスラすけとスーツケースひとつだけだけどね」


「なにそのネーミングは?かわいいじゃない?スラすけ」


まぁ、名前には色々候補はあったが、これに決めた。スラすけもぴょんっぴょん跳ねて喜んでいる。と思う。


それから間もなくして伯爵の別邸に到着する。大きな庭もあって自分の家である屋敷よりも大きく、豪華だった。上級貴族とはそう言うものらしい。


屋敷の入り口に差し掛かると久しぶりに見る父が屋敷の階段に座る姿が見えた。馬車が屋敷の玄関前に寄せられると、父は立ち上がりで迎えてくれた。


「伯爵閣下。お待ちしておりました」


「そうか?ヴェルに会たかったんじゃないのか?」


「そうですね。会いたかったです」


「お父様。ご無沙汰しております。息災のようで安心しました。それに、お勤めお疲れ様です」


「おお。会いたかったよヴェル」


父はオレの顔を見ると、抱きついて来いと手を広げて待ち受けるが、みんなの前で恥ずかしくて出来るわけない。どこの3文芝居だよ。


「恥ずかしいですってば!それに大袈裟ですよ」


「大袈裟な事あるものか。ヴェルがコレラ対策を考えたお陰で、父さんはそれはそれは大変だったんだぞ。少しは子供らしく癒して欲しいもんだよ」


父は、残念そうな顔をしていてそう言う。ぞんざいに扱ってごめん。でも中身がおっさんなんだ…許して欲しい。


「再開の嬉しさを分かち合うのは、中に入ってからでもいいだろう。そろそろ中に入らぬか」


「そうですね。申し訳ございません」


護衛の人達が、荷物を運んでくれると言うので屋敷の中に入ると、メイドさん達が一糸乱れず一斉に頭を下げた。宿場町の宿でも感じたが、美しさと気品すら感じる。


これが王都の働く者のスキルなのか?たかが頭の下げ方一つだが、角度、頭を上げ下げするタイミング、どれも一朝一夕で身につけたのでは無いのが分かる。


王都の学園に入る意味は確かにあると驚嘆した。


余談だが、我が家ではこんな光景は見た事が無い。一代男爵家だから来客は少ないしね。


「旦那様、お帰りなさいませ」


「ああ。今戻ったよ。ヴェル君に紹介しよう。この屋敷の管理を任せているジェームスだ。王都に屋敷を持つ上級貴族は短期の滞在が多いので、屋敷の管理を任された家宰と呼ばれる執事が必ずいるんだ」


「只今紹介に預かりました。伯爵家で家宰の任をいただいているジェムースと申します。以後お見知り置きを」


ジェームスさんは、胸に手を当て恭しく一礼をする。


それから案内された部屋に荷物を置くと久しぶりに会った父と昼食を済ませて、それから応接間に行くと、この2ヶ月間の話をされる事になった。


「お父様は、王都にいる間この屋敷から登城されていたのですか?」


「そうだよ。伯爵閣下の配下の下級貴族は原則として、伯爵家の屋敷から通う事になっているんだ。他の下級貴族達は自分の屋敷へと先に戻って行ったがね」


それから、父の話では伯爵閣下がコレラ対策を提言をし、効果が認められたので国中の領地に知らされたと聞かされた。


それから陛下に呼ばれて、コレラ対策を最初に誰がいい出したのかを問い詰められ、最後には押し切られて俺が作ったと口を割ったそうだ。


父はそれから、陛下と姫様に直接お礼を言われたり、王城で英雄の父と持てはやされたりと、誇らしくもあったが大変だったそうだ。


なんでそれが大変だったかと聞くと「ヴェルの縁談の話と見合いの話だよ」だって。うへえ、何となくは小耳に挟んだがそりゃ大変だ。


そんな時、俺がジュリエッタの専属の騎士になると伯爵閣下から聞かされたので渡りに船と快諾をしたそうだ。そう断れば縁談を持ちかけた貴族達は諦めて帰ったらしい。虫除けスプレーだな。そう思うとつい苦笑いしてしまう。


「それとだなヴェル。お母さんが妊娠したらしい。ヴェルもお兄ちゃんになるんだぞ!!」


「それは本当ですか?」


「こんな事で嘘をついてどうなるんだ?」


こんな話を誰が想像した?そりゃそうか。母はコレラで亡くなる筈だったのだから。


結果的に俺は自分の家族を2人救った事になる。喜こばしいことだ。ジュリエッタもなぜか自分の事の様に泣いて喜んでいる。


そんな父は明日の謁見が終り次第、やっと屋敷に戻るそうだ。じいさんが帰りに寄る様にと言う事も忘れずに伝えておいた。


それから、伯爵と父は商業ギルドに向う。ステータスカードを持たない自分が行ってもあまり意味が無いらしい。


そんな訳で、残された俺はジュリエッタと一緒にまた社交ダンスの練習をする事になった。

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