第30話

本日二話目です。対人戦で残酷な描写、暴力的な描写があります。苦手な方は※ ※ ※で開始と終了を区切ってあるので読み飛ばして下さい。


正面の森から野盗達が現れると、あっと言う間に馬車の周りを囲まれた。野党は筋肉隆々な野郎ばかりで、略奪した物を装備しているのか結構良い装備を身に着けている。


俺は短剣の柄を握り締め警戒しながら「大声で名前を呼んだら目を塞ぐ準備を」と、ジュリエッタに小声で指示を出してから馬車に押し込んだ。


「ほぅ…小僧、騎士ナイト気取りか?!小娘を逃がしたつもりかも知れないが無意味だぜ。見ろよ!御者もあのとおりだ」


リーダー格の男が指を差す方向を見ると、伯爵が乗った馬車の御者をしていてくれた護衛達の一人が喉に剣を突きつけられていて、抵抗をしたのだろう右腕を傷つけられていて、血が地面に点々と付いている。


「ちっ!」と、思わず舌打ちしてしまう。


「武器を捨てて馬車から出て来い!騒ぎ立てたり変な真似をすれば、御者や護衛の命は無いと思いやがれ!」


前方の馬車に乗っていた伯爵達は手を上げて、護衛の兵士と一緒に馬車から降りて来た。人質もいるし20人と数が多いので指示に従ったのだろうな。


ジュリエッタも、もちろんその情報を知っているので、抵抗せずに短剣を構えたまま馬車から降りて来た。


ジュリエッタは短剣を足元に置くと、俺も同じように地面に置く。


「手を頭の後ろに置いて、大人達はこっちにこい!」


苦虫を嚙み潰したような顔をしながら、伯爵閣下とレリクさんを含めた護衛の兵士達は野盗達の指示に従う。次は手を後ろに回すように指示をされると、目隠しをされてからロープで手足と口を縛られた。


その光景を目の当たりして、オレは思わず笑みがこぼれそうになる。なんたる幸運。伯爵達は目隠しをされている。


閃光を使うチャンスはここしか無いと思った。懸念材料は、日本人としての倫理観がある自分に本当に人を殺せるのか!?と言う点だ。意識をすれば意識を刈り取るなり失神させたりも出来るからだ。


「よし、良く聞け。ガキ達と貴族の男は人質の為に馬車ごと連れて行く」


「それで、どうするつもりだ!!」


俺は大きな声でお頭に問うと「御者や護衛は殺して、おまえたちガキ二人は人質に使うとするよ。お貴族様のガキとなりゃー、身代金もたっぷりと要求出来そうだからな!」と、リーダー格の男はいやらしく口角を上げてニヤリと笑う。


『くっそ!選択の余地はない。俺にとって大事な人達が殺されたら必ず後悔する。悪党どもに情けは無用だ!』


問答無用と選択。そう覚悟を決めると、声のやたらと大きいリーダー格の男が剣の刃をパシパシ叩きながら、こちらに向って歩いてくる。


「ジュリエッタ!!」


そう大声で叫ぶと、野盗達全員がオレに注目する。それを見計らい「閃光!」っと光スキルを放つと俺の全身が眩しく光る。


「「「めっ、目が~」」」と、あちらこちらから悲鳴が上がる。


両手から閃光を放ち光が収まると、野盗達は目を押さえながら悶えている。俺とジュリエッタは、地面に置いた短剣を拾い上げた。


「ヴェル、私に重力魔法を」と小声で言うので直ぐにジュリエッタの手を握り「パワーライズ」と小声で詠唱する。


※ ※ ※ 開始 ※ ※ ※


俺とジュリエッタは手分けをして野盗を倒していく為に、効率重視で二手に分かれた。


「うぎゃー!この鬼畜めが!」


「おっ、おい!何が起こっている!誰か助けてくれ!!」


そんな声に反応するように、野盗達は未だ目が開けられずにパニックになっているが、お構いなく一撃で殺していく。野盗どもの返り血を浴びたが、覚悟を決めたせいもあるが一切の躊躇も無い。


それになによりも驚いたのが、ジュリエッタが一切の躊躇いなく、野党どもの首を狙い、無表情で斬り落としていく姿を見て寒気すら感じる。


躊躇していたらこちらがやられる世界だ。俺も急所を狙い一撃で仕留めていく。


「お父様!あぶない!」


ジュリエッタの叫ぶ声がするので、目の前の野盗を粗末して振り返ると最後のひとりとなった野盗の大男が、一糸報いようと目を瞑りながらも、無暗やたらに剣に振り回しながら人質となっている伯爵達に近づいていく。


「くっそ!魔法はイメージだ!オレなら出来る!」


自己暗示を掛けるように「グラビディロード!」と目的を定めて小声で詠唱すると、剣を振り回していた野盗の動きが止まる。


「ジュリエッタ!」


そう叫ぶと同時にジュリエッタは野盗の首を刎ねて命を刈ると勝負は決した。


結果を見るだけならば、ただの一方的な殺戮現場。俺も人の事は言えないが、聖女っていうかこれじゃまるで死神か殺人鬼だな…だが同情はしない。


ただ、人は死体になると物として扱われると聞くが、この燦々たる光景を冷静に見ると胃から何かが込み上げてくる。


『自分で決めた道だ、負けてたまるか!』と、ぐっと吐き気を我慢。かと言って遺体を直視は出来ない。


ジュリエッタと一緒に伯爵たちの縄を解き、ジュリエッタは怪我をしていた護衛に【癒しの光】を掛けると、伯爵や護衛達は驚愕の表情をしたまま固まっている。治癒スキルについては、これで完全にバレちゃったよな。


馬車に積んであったロープで、四肢の一部を欠損しただけの野盗の生き残り、4人を伯爵達がやられた事と同じ様に口や手足を縄で縛る。


出血で死なれては困る事があるのか、護衛の兵士が木に縛りつけると、伯爵が欠損部位に癒しの光で止血する。伯爵はこっちに向かってやって来ると、オレの肩をポンと叩く。


「二人とも着替えてからでいいから、詳しい話を聞かせて貰おうか。助けて貰ったんだから咎めるつもりはないから安心して欲しい」


口調は優しいが顔が引き攣っている。もはや、誤魔化しや言い逃れが出来る状況ではない。それに、裏切らずに黙ってくれていたレリクさんを庇う必要がある。


「分かりましたが、ここではちょっと…」


「そうだな、それでは、レリク!野党どもを乗せる馬車の手配をしにサンジュ村に行って来てくれ。それと事情を説明して兵士も連れてくるのだ」


「はっ!!」


狙い通りに、レリクさんは、もの凄い勢いで馬を走らせて行った。


「それとエルド、馬車の往来が一切無いので恐らくは通行止めになっている筈だ。野盗を討伐したので通行止めを解除するように連絡して参れ」


「はっ!」


護衛の一人であるエルドさんも、馬に跨り来た道を戻って行く。


いい訳を考えながら、乗って来た馬車の中で荷物から着替えを取り出して着替えを済ませると、伯爵の待つ馬車の中に入る。


伯爵の正面に腰掛けると、怪訝そうな表情をしながら口を開く。


「さてと…まず助かったのは事実だ。お礼を言うよ、ありがとう。それで君達二人はなぜ15歳に至ってないのにスキルが使えるのかな?それに目隠しをしていたが、はっきりと強い光を感じた。いったいヴェル君は何をしたんだ?」


3歳の頃から、文字を覚えて本を読んで試しに使ってみたら光を灯すスキルが使えた事と、魔力操作の練習をしていたら光が強くなり、いつのまにやら閃光を覚えたと説明。


ジュリエッタもまた、コレラの時の滞在中に泊まりに来た時に、たまたまスキルを使ってみたら出来てしまったと説明をした。


重力魔法については目隠しをしていたので、見られていなかったので伏せておいた。


「なるほどって言いたいところだが、ありえないだろ。ジュリエッタまで治癒スキルが既に使えるなんて、君達は二人は、この世界の常識を覆したんだ。それについて聡いヴェル君の考えを聞かせてくれないか?」


「僕達は正しい知識を本から得て、魔力操作の鍛錬を毎日欠かさずにしました。スキルについては魔力の大きさが関係していて、誰でもと言う訳ではないかもしれません。ジュリエッタが治癒スキルを使えたのは血筋じゃないかと…」


「私もその説は正しいと思うよ。まそれにしても3歳の幼児の頃から魔力操作の鍛錬とは恐れ入ったよ…それにしても君は一体何を目指す?氷の魔法に関してもそうだが、既に常識外れと言っていい」


そう聞かれても回答に困る。自分の中で何があってもジュリエッタが最優先。それはもう既定路線であって譲れない。


「僕はあくまでもジュリエッタの専属騎士です。僕のこの知識に教養、魔法に至るまでジュリエッタを守る為に使います。前も言いましたが、それ以上のことは何も考えていません」


そう答えるとジュリエッタの顔が真っ赤になり破顔する。本人の前で言わせたかったのかな…邪推はよしたほうがいい。


「10歳の子供なのに、野盗を躊躇なく殺せる胆力といい、剣技、知識、スキル、魔法能力があるなら、自分の娘だから嬉しい限りだが、一個人の為に、その力を使うなど馬鹿げている」


『それを言うならジュリエッタも凄いだろ。悪人とはいえ躊躇わずに殺していったんだから…って目隠しをしていたから知るわけないか』


「僕はジュリエッタに全てを捧げると誓いました。ジュリエッタを守るために必要であれば力を国の為に使う事も惜しみません。何度も言いますが、10歳の子供の僕にいったいどれだけの事が出来るのでしょうか?今はジュリエッタを守ること以上のことは考えていません」


「ヴェル…」


ジュリエッタは笑顔で涙を流している。


「まったく頑固だな君は。だが約束をしてくれ。スキルを使える事は私達だけの秘密だ。これはまだ仮定の話ではあるが、もし魔王が復活して勇者がもしこの現代に現れるのなら娘の専属騎士のままでもいい。勇者に協力をして世界を救えるような人物になってくれ」


「はい。ジュリエッタがそう望むのであれば」


そう答えると、二人はほっとした表情を浮かべる。伯爵は、なぜ俺がジュリエッタの専属騎士に固執するのか分からないのだろう。


夢のとおりであるならば、ジュリエッタは聖女になる運命を背負っていて、俺は盾になって死んでしまうだろう。世界を守れと言うなら専属騎士のままでいれば同じ事だ。夢で見たのが影響しているとは思わないが、そう思う事しか出来ない自分がいた。


この死亡フラグを回避するには、前世の知識と、剣や魔法の鍛錬を欠かさず行い、精神的にも強くならねばならない。


自ら名乗りを上げて伯爵の野盗への尋問と言う名の拷問に立ち会う。ジュリエッタが容赦なく人を殺せる胆力があるのも、幼い時にこのような光景を見て来たのではないかと結論付けたからだ。


見せしめに首を並べる何てことがあるとするなら怖い世界だな。実際に見た事はないから無いと思いたいが…


「おい貴様!伯爵家の馬車と知りこの馬車を襲った罪は死を持って償って貰う。アジトがどこにあるのか吐け!吐けば、情状酌量の余地もあろう」


伯爵は野盗を死なない程度に痛めつけては治癒スキルで回復を繰り返す。見るからに目を覆いたくなる惨状だが目を逸らすわけにはいかない。


慣れが必要だ、俺の平和的な倫理観などを吹き飛ばさなければ、この先必ず苦労する。そもそも、人殺しになった自分に人権とか言う資格は既に無い。


※ ※ ※ 終了 ※ ※ ※


伯爵の拷問を見聞きしながら、約40分の間待っていると、レリクさんが兵士15名と幌無しの馬車5台を引き連れて戻って来た。


「閣下、遅くなりました。こちらが、次の宿場村のサンジュ村の兵士長です」


兵士長は恭しく挨拶。


「伯爵閣下。この度は野盗の排除をしていただき、まことにありがとうございました。つきましては、王都の冒険者ギルド本部に野盗の討伐完了との連絡をしておきました」


「うむ。ご苦労であった。尋問をした結果、アジトはあの山にあるそうだ。アジトに仲間は残っていないそうだが、野盗の言う事だから信用は出来ん。兵士5人を選抜して野盗の一人を引き連れてアジトに案内をさせろ。身代金目的の人質がいるやも知れぬ。もし案内の野盗が不穏な動するようなら処分して戻って参れ。その時は討伐隊を向わせる」


「御意!!」


伯爵は兵士長に指示を出すと、兵士達は野盗一人を連れてアジトに向かうべく山へと消えて行く。


「それでは、馬車と兵士を2名残して、私達はサンジュ村に生き残った野盗と亡骸を回収して向う。兵士長、日が落ち始めて、今行った兵士達が戻ってこなかったら、連絡係の兵士を一人残して村へと戻ってくるがよい。先ほども言ったと思うが、討伐隊を向わせる必要があるだろうからな」


「はっ!!」


「それでは、私達はサンジュへと急ごう。今回の泊まる宿はきっと驚くぞ」


「そうなんですか?楽しみです」


またジュリエッタと二人で馬車に乗ると、馬車は宿場に向って走り出した。


すると、ジュリエッタは俺を手を握り、俺の目を真剣に見た。


「ねぇ、ヴェル。さっきはありがとう。さっきの言葉…凄く嬉しかった。大好きよ」


「お礼を言われることじゃないよ。専属の騎士になるてもう決めたんだからね」


少し頬を染めながら、笑顔で面と向ってそんな事を言われると少し照れる。


ジュリエッタは俺の手を握りながら頭を肩に寄せる。最近は、ジュリエッタの事が好きだと自覚をし始めているので役得でしかない。


『もう少し二人が大人だったら、唇にキスくらいはしていたかもしれないな…』


馬車に揺られながら、不埒な妄想でもしていないと、トラウマになりかねない。今日のこの経験は異世界で生きていくための試練だと思う事にした。

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