第10話

誕生パーティーから2ヶ月後…

「ヴェル君、いつもすまないね。屋敷で雇っている専属の教師が教えるよりも成績が良くなってね、娘が行きたいと言うからには行かせないわけにはいかないんだ。必ずお礼はするから、これからも面倒を見てやってくれないかね」


まるで最初から試験期間など無かったように、必ず週に1度はジュリエッタさんは屋敷へとやってきた。実際成績がぐんぐん上がっているそうで、伯爵も口出しするどころか積極的に連れてくる。


「別にお礼などいりません。僕もお嬢さんと一緒にいると楽しいですし、作法や所作など学ぶ事や見習う事も多いので」


定期的にジュリエッタさんに勉強を教える事になったのだが、今言ったとおり上級貴族の作法や所作は洗礼されればされるほど、見惚れるほど美しいと感じた。相手は子供だけど侮れない。


いつものように、書庫へ入ると、ジュリエッタさんがにっこり微笑みながら口を開く。


「ねぇヴェル」


「んっ、何か分からない事でも」


「そうじゃなくて、もうそろそろ私の事を呼び捨てでもいいんじゃないかなって思ってさっ」


「ははは。勘弁してください。ジュリエッタさんは年上で、伯爵令嬢なのですよ?今の言葉遣いだけでも人によっては許せないと思うでしょう。最低限の礼節は必要です」


「礼節って言うなら、レディに対して年上とか年齢を言うのはどうなのかな?そっちの方が礼節がなってないしデリカシーがないんじゃないのかな。それに、私の先生でもあるしさ。私がそう望んでいるのよ」


確かに…ボッチ生活があ長かったせいか…あるいは中身がおっさんだからなのかどうも対応に苦しむ。


「確かに女性に対して失言でした。呼び捨てについては、それではこうしましょう。ジュリエッタさんのお父様にお許しをいただいたらってことで。言質さえとれば誰かに聞かれても言い訳が出来ますから」


「分かったわ。必ずお父様を説得してみせる」


なぜかジュリエッタさんは拳を握り締め力強く言い切った。なぜそんなに呼び捨てにこだわるのか。女心ってやつはどの世界でも分からん。


「それと何度も言うけど敬語はやめてっていってるでしょ?私達は主従の関係じゃ無いのよ」


「ああ、そうで、だった。ごめんなさっ、違った。ごめん」


「まぁいいわ。もうそろそろ直してよね。話は変わるけど、やっとの事で魔力操作の訓練も終わって、来週から生活魔法の実地教育が始まるから楽しみだわ」


この二か月間でジュリエッタさんに教えて貰って分かった事なんだが、人族の子供は9歳までは魔法が使えなくて、魔力操作の鍛錬をした後に生活魔法を学ぶそうだ…


ここまでくると、実は死んだときに神様からチート能力を授かっていて、その記憶が封印されているのではないのかと疑いたくもなる。


じゃないとするならば、俺が光魔法、重力魔法、鑑定が使えるのは明らかに変だ…じつは人族じゃなかったりしてな…


余談だが、このレディアス王国は人族の国であり、エルフ、ドワーフ、獣人族とは成長速度や授かるスキルなどが違うので教育機関の学園などは国ごとに違うそうだ。


「そっか…ちなみに伯爵閣下は髪の色的に火属性なのは分かるけど、上級貴族って事はやっぱり特殊なスキル持ちなの?」


「火属性は合ってるわ。お父様とお母様はね同じスキル持ちなの。具体的には治癒術や薬が作れる聖属性スキルね」


この世界では聖属性スキルは極めてレア度が高いそうだ。地球では勉強さえがんばれば医師になれるが、この世界では更に聖属性スキルが使えないと医師になれないらしい。


つまり限られたスキルを持ったものが医学の勉強をして医師や薬師になることができる。何度も言うがオレはここまで詳しく書いてはいない。


「まさに人を助ける為に生まれてきた血筋だね」


「そうね。大昔にあった魔王軍との大きな戦いで一度この国は亡国となってね…新しくこのレデイアス王国を建国した時に、ご先祖様が聖属性スキルで人々を助けて伯爵家まで上り詰めたと聞いているわ。それから代々王宮医療技師として国に仕えているのよ」


『そんな設定なのか…今の話を聞く限りでは、ジュリエッタさんが聖女なのは血筋なのかも知れないな…』


「それは凄い話だね。王宮医療技師って初めて聞くけど?」


「王宮医療技師というのはね、医師の中でも選りすぐりの医師が王宮に集められた集団なの。知識と経験が無いとなれないのよ。あとは水属性にも適正があるかな…」


それから教えて貰って初めて分かった事なのだが、髪の毛の色でけではなく、目の色にも属性の適正にが関係あるそうだ…ちなみに伯爵もジュリエッタも青色の瞳だ。


今まで出会った人達は、髪の毛の色と目の色は俺も含めて同色だったので何の疑いもしなかったが…詳しい話を聞いてみると二属性持ちは少ないそうで希少なのだとか。さすがは聖女だな。


「そりゃ勉強をがんばるしかないね」


「ヴェルは将来何になりたいの?目標とかある?」


「まだなれるかどうか分からないから恥ずかしいから誰にも言ってないけど、僕は黒髪だからね。だから王宮騎士を目指そうとしているんだ」


「へー、王宮騎士を目指しているんだ。私も王宮医療技師を目指すと思うわ。ヴェルなら絶対なれると思うから、お互いがんばりましょうね」


「もちろんだよ。僕も精一杯がんばるから、一緒になれるといいね」


夢で見たとおりであるなら、俺は聖騎士、ジュリエッタは聖女になる筈である。


転生をしてから9年間、聖女と聖騎士の事を調べたが、聖女は勇者と共に魔王と戦ったと言うぐらいの情報しか集められなかった。


その情報にしても、勇者と聖女が500年前に魔王を打ち滅ぼしたのだとか、実際にあるかどうか分からないような眉唾もんのスキルや魔法の事が書いてあったが、それ以上書いてある文献はこの家にはない。


「それにしてもさ、よくそんなに都合よくレアなスキル持ち同士が出会えたもんだな」


「職場結婚ってやつかな。働いているのが王宮なら、同じ聖属性スキルを持つ者同士が出会える可能性はゼロじゃないからね」


この世界のスキルや魔法適正ユニークスキルは血筋で決まる。これは俺が小説で書いた設定どおりである。


「それじゃ、王都の学園に行ったら。医療系の勉強をするんだ?」


「そうね。それもそうだけど、聖属性スキルもレベルによって習得できる魔法が変わるから、学校に行きだしたら魔物を倒してレベルを上げなくちゃならないから大変なのよ」


「えっ!マジで?学校には魔物を倒す訓練があるんだ…」


「うん。王都の学園にはDランク迷宮があるんだけど、そこで魔物を倒す訓練があるのよね。必ず上級生がフォローしてくれるから、死にはしないけど毎年怪我人は出ているんだってさ」


パワーレベリングって言うやつか。レベルが上がらなければ魔力が増えないと言う事がこの世界では常識ってか。それじゃ俺はなんなんだ?この世界の理から外れているのか?そう思うと是が是非でも試したくなった。


「ジュリエッタさん。今から見せる事は他人には絶対に内緒にしてくれるかな?」


「えっ。別に構わないかで何をするの?」


「それは直ぐ分かるから見てて」


そう答えると手のひらに魔力を流して「ライティング」と詠唱する。


「まっ、まさか嘘でしょ!9歳から魔力操作を覚える練習をしてからじゃないと、生活魔法ですら使えない筈なのになんで使えるのよ、それに光の魔法なんて初めて見た…」


家庭教師を付けて勉強をしない限り魔法は使えないのは常識だ。唖然として固まってしまったジュリエッタさんを前に、他のスキルについては隠す事にした。


「…びっくりさせてごめん」


今までの話を統合すると、黒髪で黒目の人族の適正は剣士と定義するとするならば、光魔法⇒光属性スキル、重力魔法⇒闇属性スキルもしくはユニークスキル、鑑定はユニークスキルだと言う結論しか出ない。


「ごめん。でも本当に驚いた。なんでヴェルは生活魔法以外の魔法が使えるのよ?はっ!もしかしてあなた本当は15歳なのね?いや、実はエルフでしたって事はないよね?耳は人族がからありえないか」


「ちょっと落ち着いて、ジュリエッタさん言葉がおかしいよ」


「ごっ、ごめんてば。家庭教師付の私ですらまだ魔力操作の練習中なのにいきなりヴェルがいきなり魔法を使ったから動揺しちゃった」


「それがだね、実はまだ僕は生活魔法は使えないんだ…だからこれは推測なんだけど今のは光属性スキルの一種じゃないかと思う」


「スキルって、神託の儀で神様からスキルを授かるまで使えないんじゃないの?」


「でしょ?だからさ、試しに使ってみてよ。僕も最初は冗談でやってみたら使えたんだ。ジュリエッタさんの両親は治癒スキルが使えるんだろ?試す価値はあると思うよ」


『これは興味本位だが聖女ならば既に使えるかも知れない…俺でも使えるんだから…』


「それはいいけど、スキルってどう使うの?」


そう聞かれたのではあるが、既に感覚で出来てしまっているので、今更口に出して説明するのは難しい。


「魔法と同じだと思う。胸のこの辺りに魔臓と言う器官があるから、そこに意識を集中しながら【癒しの光】と詠唱するんだ。出来ても出来なくてもいいからやってみようか?取り敢えず真似をしてみて」


前世で亡くなる前にジュリエッタさんは、死にかけていたヴェルに何度も【癒しの光】と言って治癒魔法を掛けていたのでそれに賭けてみる。


「癒しの光ね…良く分からないけどやってみる」


ジュリエッタさんがそう返事をすると、俺は魔臓のある位置に左手を当て、右手に魔力を流すと右手がうっすらと光る。


ジュリエッタさんも同じように真似をするが、いきなりはやはり無理なのか…それとも本当に怪我をしていないと発動しないのかも…


「ちょっと追い込んだ方がいいのかな」


「ちょっちょっと待ってヴェルいったい何するつもり!!」


俺は机の引き出しから果物ナイフを取り出すと、自分の指を少し切る。少し痛いがジュリエッタさんが騒ぐ程の事でもない。


「こうした方が目標が視認できてイメージしやすいでしょ?」


「まったく、馬鹿!!無茶しすぎ!」


そう言いながらもジュリエッタさんの右手に先ほど出来なかった魔力が溜まる。


【癒しの光】


怪我をした俺の手を握りそう詠唱すると黄緑色の魔法陣が現れる。魔法陣は発光をすると、魔法陣は消えて、オレの手は緑色のエフェクトの様な物が掛かって切り傷が癒されていく。成功だ。


「でっ出来たわ!なんで?」


『それは君が聖女だからだよ、なんてオレの口から言えるわけないよね。誤魔化すしかない』


「だろ?てっことはさ、これは推測なんだけど、血筋によるユニークスキルは実は最初から使えるんだと思うんだよ…今まで発覚していなかったのは誰も試さなかった…いや推測はやめておこう」


「いいえ、その推測は正しいのかも…じゃないと、私がこんなに簡単にスキルが使えるわけないもんね」


それから怪我をしていない状態でも治癒魔法が使える事を確認。なので…


「それでなんだけど、実は僕は既に魔力操作を完璧に出来るようになったんだ。実際に見せるからこれを付けてくれないか?」


「そう言うと、机の引き出しからこっそり作ったサングラスを手渡した」


「なにこれ。こんな真っ黒な眼鏡始めて見たわ」


「これは、サングラスって言ってね、眩しい物を見ても大丈夫なように作られた眼鏡なんだ」


あたかも売っているように言っているが、サングラスなどこの世界には売ってはいないので、黒ずみを塗って代用した物だ。


それからサングラスを二人とも掛ける。似合うわけがない。二人とも「ぷっ、変なの」っといって笑いが噴出した。


「それじゃ行くよ」


そう言うと魔力を徐々に高める。


「うわっ。光がだんだんと大きくなってる~」


「それが分かるかい?こうやって魔力を徐々に高める鍛錬を重ねると、意識して魔力が操作出来るようになったんだ。これを魔力が切れるまで何度も繰り返すと、魔力量が増える事は実証済みだから試すといいよ」


「先生に教えて貰ったけど、魔力切れって気絶するんじゃなかったっけ?」


「うん。だから寝る前に布団でやるといい。回復魔法なら物を壊したりする可能性はないからね」


「ほんとうにヴェルったらやることなすこと、とんでもないわね。あっ、これは貶しているわけじゃないから勘違いしないように」


そんなわけで、これからはジュリエッタさんも、魔力操作の練習と魔力を使い果たす鍛錬を自分の屋敷でする事になった。これがこの先どういう影響を与えるのか楽しみだ。


夕方になると伯爵閣下が迎えに来た。


「ヴェルに私の事ジュリエッタって呼び捨てにして欲しいって頼んだら、お父様に許可を貰わないと駄目って言うんだけどいいわよね」


「ああ、もちろん構わないよ。ヴェル君には世話になってるし、ジュリエッタの家庭教師だからね」


そう即答した。こんなにあっさりと娘の事を呼び捨てが認められていいのか?パパ、ちょっと軽いっすよ。うーむ。この世界の事は良く分からん。

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