第9話
あくる日、朝食の後父親に浄水器をプレゼントした。
「お父様。昨晩に渡しそびれた誕生日プレゼントの残りです。受け取ってください」
そう言ってから、出来上がった浄水器を手渡す。
「なんだ、この訳の分からない道具は?魔道具か?」
父の反応は想定内。見た目では花瓶をさかさまにしただけの奇妙な道具だからだ。
「お父様。これは浄水器と言って、水を綺麗にする道具です。見ていてください」
そう言うと、受けのバケツと、濁った水を入れたバケツの水をゆっくりと注いだ。
「これは凄い。井戸の水が綺麗になった。これはどう言う事だ?」
「これは、この屋敷の井戸が浅井戸と言って、本来なら地下水は石、土、木の葉、などで濾されて綺麗な水が地下に流れつくのですが、浅井戸の場合はそのフィルターが弱いので水が濁るのです。ですから、この花瓶に竹炭でフィルターを作って、浄水の補助をする事によって綺麗な水になるのです」
「なるほど、それは凄い。その知識は書庫の本から学んだのか?」
「はい。このフィルターには活性炭と言う竹炭が入っているのですが、実験して効果を確かめて作ったので大丈夫です」
「は~っ。凄いとは思うが発想が9歳児とは思えん。その知識と行動力は私も学ぶべきかもしれんな」
「ええ。まさか自分の子供にこのような事を学ぶとは思いませんでした」
両親からそう評価を受けて若干やりすぎた感はある。その後、この屋敷の飲み水は浄水器の水を使う事になった。
ちなみに、トイレの蓋に使った竹炭の消臭効果には従者達も驚いていた。芳香剤もいづれは検討してみよう。
それから数日後、突然ジュリエッタさんが、父親だろうか?赤髪のイケメンに連れられてやってきた。
次ぎに会う予定は確か二年後だったはず…自分の書いた物語にはこの事は書いてはいない。明らかに物語の流れが変わっているな。慎重に物事を進めねば。
「伯爵閣下、突然このような田舎まで足を運ばれてどうかされましたか?」
『やっぱ、父親だったか』血の繋がりは無いが、親戚とはいえ上級貴族の伯爵が来たと言う事で父は狼狽していた。
ジュリエッタの父親は、さすが上級貴族の言った感じの身形で、顔立ちは父とは系統が違うが美丈夫で優しい印象だ。
ジュリエッタの高い鼻は父親譲りっぽい。後のパーツは母親譲りなんだろうが、母親もさぞかし美しいんだろう。
「アルフォンス、息災そうでなによりだ。うちの娘がどうしても君の子息と一緒に勉強を一緒にしたいと言うので、お願いしようと立ち寄ったのだよ」
「なるほど。しかしながら、ヴェルはまだ9歳ですよ?勉強の面倒を見るなど大丈夫でしょうか?それにお嬢さんと違い、ヴェルには家庭教師など付けた事ありませんし…」
「それがだな、迷惑が掛かると説得をしたのだが娘は母親譲りの頑固者でな…どうしてもと聞かないのだよ。親バカなのは承知をしているが頼みを聞いてやってはくれないであろうか?」
「私は結構ですが、ヴェルどうする?」
いきなりの急展開にどう立ち振る舞っていいのか…第一印象が大事だ。端折らずにきっちり挨拶をしよう。何せ相手は親戚とはいえ上級貴族である伯爵様だからな…
「お初にお目に掛かります。ヴェルグラッド・フォレスタと申します。以後お見知りおきを」
とまずは、ボウ・アンド・スクレイプで挨拶。
「私に出来る事ならお受けしたいと思いますが独学ですし、それでお嬢様の成績が上がらなくても責任取れません。それでも宜しければ喜んでお引き受け致します」
「案ずる必要は無い。そこまで過剰に期待してはいないよ。しかし、ジュリエッタの話どおり作法もなかなかのものだな。親の贔屓目がもしれんがジュリエッタも優秀だと思っていたが、君も9歳とは思えんな」
そんなことがあって、ひと月間を目安にして、試験的にジュリエッタさんと一緒に勉強する事になった。
本当なら爵位的に見てもこちらから伯爵家に訪問するのが筋であるが、頑なにお嬢様が拒否をしたようで、この屋敷にやってくる事に決まる。何か見られると困るものがあるのかな?まあアウェイよりはいいか。
それに、上級貴族令嬢ともなれば専属の侍女などが付き添いでいるのが普通だが、それすら半ば強引に断ったそうだ…
ジュリエッタさんの事は大切に扱うと決めているのだから精一杯がんばろう。
それから書庫に移動すると、ジュリエッタさんは家庭教師から出された算術の宿題を始める。
珠算を習っていたオレからしてみれば、四則演算など秒殺である。しかしながら、この世界の人々の算数能力がどの程度あるのかは興味はある。
ジュリエッタさんは算術の問題集をカバンから出しながらため息を吐いた後に、こちらを見ながら困った顔をする。
「私、算術は苦手なのよね~」
そもそも算数のやり方なんて設定してない(そんなラノベ見たことない)ので、ぱぱっと筆算での解き方を教えた。
「こんな問題の解き方教わった事ないわ」
「そでもこれなら間違え難いだろ?」
「ええ。数字を並び替えるだけで、こんなに簡単になるなんて思ってもみなかったわ。さすがは神童と呼ばれていただけはあるわね。来て良かった」
「それは褒めすぎだよ。恥ずかしいからさその神童ってのはもう言わないで欲しいかな」
「うふふ、分かったわよ。もう言わないわね」
やってみると勉強を教えるのも悪くは無い。それも物凄く新鮮な気分だ。随分と距離が近くなったような気がする。
それから、これから必ず習うだろう九九表を二人で作り、暗記を始める準備をした。本当は日本の様に語呂合わせで覚えるのが一番の近道ではあるが、言葉の違いがあるので目で覚えてもらおう。
「それにしてもヴェルって字がとても上手ね。とても見やすいわ」
「ありがとう。そう言って貰えると嬉しいよ」
この世界の文房具は万年筆しか無いし高級品だ。インクも紙もそれなりの値段はすると聞いている。丁寧に書かないと勿体無いので自然と丁寧にならざる得ない。エコは大事だよね?
それから、一緒に勉強をしたり、ご飯を食べたり、遊んだりしているといつの間にか夕方になっていた。テーゼから、伯爵閣下が迎えにやって来たと報告があったので、今日の勉強を終わりにする。
二人で玄関ホールに向うと、伯爵閣下は僅かに微笑んだ。嬉しい事でもあったんだろうか?
「ヴェル君、今日はありがとう。ジュリエッタは勉強を投げ出さなかったか?」
「ええ。投げ出すどころか、とても物覚えが良くて驚きですよ。楽しそうにしていましたし」
「お世辞じゃないのか?家庭教師から毎回のようにやる気が感じられないと苦情がきてるんだが?」
「ちょっとお父様。恥ずかしいから止めて下さい」
伯爵閣下がそう茶化すとジュリエッタさんは頬を膨らませた。どう反応したらいいのか分からん…取り敢えず営業スマイルで誤魔化しておいた。
「ヴェル君。またいつかお願いをするかも知れない。その時はまた引き受けてくれるかい?」
「はい。喜んでお引き受けします」
今後のことは分からないが良い方向に向ってくれると嬉しい。
我ながら多分に打算的だとは思うけど、書いた事とは少しずつズレていく以上は慎重にならざるを得ない。とれだけ変わってもジュリエッタがキーパーソンである事は間違いないから。
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