⑧ 彼女

 はい、お待たせしました~。次のシチュエーションは、《彼女》です。

 メインディッシュだよね。甘々でイチャイチャ、ラブラブなセリフでも頑張ってささやくよ。

 はぁ……。本当はここで気合を入れるはずだったんだけど、なぜかもう疲れちゃってるんだよね。でもミーア、頑張るよ!


 お、さっそくリクエストくれてるね。最初はこれかな?


【甘えんぼの彼女になって、これを言ってください。(恥ずかしがったらやり直し!)】


 ハルトさん、ありがとー。

 やり直しアリなんて厳しいねぇ、ハルトさん。でも大丈夫。この《彼女》のシチュエーションは全部本気でやるから。あ、もちろん、いままでのも手を抜いてはいないからね。

 すぅー、はぁ……。じゃあ、いくよ!


『好き、好き、だーいすき! 来て……。ぎゅって、して。大好きだよ~!』


 あぁー、恥ずかしぃ~! でも、しっかりやりきったでしょ?

 コメント速いなぁ。「ぎゅううう」とか「うおおおお」とか、大盛況だね。


 もう、恥ずかしいから、とっとと次に行くからね。次は……。


【彼女が自分のことを好きで好きでたまらないって感じのセリフください】


 ショウさん、ありがとう。

 これはねぇ、リクエストくると思って考えておいたんだ~。

 じゃあいくよ。


『私ね、あなたのことばかり考えていて、考えれば考えるほど胸の奥が苦しくなるの。こんなの初めて。こんなに人を好きになったの、初めてだよ』


 どうだった? え? あ、違う、違う。これはミーアが特定の誰かに抱いてる気持ちじゃないよ。ミーアにはそういう相手はいないからね。ミーアはみんなのミーアだよ。ミーアは誰にも独り占めされてないからね。

 あ、もちろん、ミーアのみんなに対しての気持ちとして聴いてもらう分には大丈夫だからね。

 ほら、次のリクエストいくよ。次はこれ。


【極上の甘々イチャラブなセリフを考えました。学校でいちばんかわいい女子と付き合い始めて一ヶ月。彼女は学校では文武両道の凛とした素敵な女子で、学年一位の成績に加え、新体操部では全国大会にも出場。男女から憧れの的。そんな彼女が、自分と二人きりのときにだけは甘えん坊になって、次のようなことを猫なで声で言ってきます】


 ヒロトさん、ありがとー。ずいぶんと細かい設定だね。でも背景がしっかりしているのは大事だよね。みんなも想像しやすくなるでしょう?

 みんな想像した? じゃあ言うよ。


『まだ帰りたくないなぁ。もう少しだけでいいから、一緒にいよ。もう少しだけ。ダメ? おねが~い。……なんてね。君を困らせたくないから、もう帰るね。あっ……。もう! 不意打ちなんてズルいよぉ~!』


 おぉ、これはいいねぇ。みんなはどう? よかった? うんうん、よかったよねぇ。

 次で四つ目かぁ。《彼女》のシチュエーションは特別に少し多めにリクエストを受け付けようかな。

 じゃあ次。次はね~、これかな。


【電話越しにささやいてみてください】


 キムラさん、ありがとう。自分で選んでおいてなんだけど、けっこう漠然ばくぜんとしてるね。何をささやこうかなぁ……。

 電話だから、こんな感じかな? いくよ。


『君と一緒にいると楽しいんだ。だから君に早く会いたいよぉ。……でも我慢するよ。待たされるのは、慣れっこだもん』


 寂しがり屋の彼女をやってみました。よかったでしょ? あ、よかった? ありがとね~。

 じゃあ次、いこっか。


【社会の荒波にのまれて疲れ果てた我々へ、優しい彼女からのねぎらいの言葉をお願いします】


 ワタナベさん、ありがとぉ~。わぁ、素敵なリクエストだね。

 あ、もちろん、ほかのみんなのリクエストも素敵だよ。べつに比べたわけじゃないからね。

 じゃあ言うから、よく聴いててね。


『おかえり~。今日もお疲れさま。今日はたくさん甘えていいんだよ』


 は~い、今日はミーアの声に甘えてねぇ。

 それじゃあ次。


【ミーアみたいにVtuber活動とかしているようなバイタリティあふれる彼女からの感謝の言葉がほしいです】


 ナオトさん、ありがとね~。

 ミーアのVtuber友達も、どうすれば配信がおもしろくなるかとか、どうすればファンを喜ばせられるかとか、いつも考えているから、ミーアはその子のことすごく尊敬してるんだ。そんな人から感謝の言葉とかもらえると嬉しいよね。

 もちろん、配信業に限らず仕事を頑張る女性ってみんな素敵だよね。

 ごめん、語っちゃった。あくまで彼女からの感謝の言葉だから、ちょっと甘い感じのセリフをささやくね。いくよ。


『いつもありがとう。君がいるから頑張れるんだよ。いまがいちばん幸せ。ずっと一緒だよ』


 もしミーアが彼女だったら、こんなふうに言うと思うよ。あ、もちろん誰かに言ったことはないけど、みんなに対してはこう思ってるよ。

 じゃあ、次、いこっか。


【この言葉をささやいてください。どうかお願いします! 一生のお願いです!】


 マツモトさん、ありがとう。

 上限スパチャでのリクエストには応えざるを得ないなぁ。

 あ、べつにみんな無理しなくていいからね。大事なのは気持ちだから。あー、あー……。金額が気持ちって言う人もいるけど、環境は人それぞれで、5万円の価値も人によってぜんぜん違うからね。

 ごめんね。ごめん、ごめん。ミーアが変な話をしたから、変な空気になっちゃったね。この空気で言うと台無しになるから……どうしようかな……。


 あ、みんなはミーアのこと好き? どれくらい好き?

 うん、うん。え~っ、嬉しぃ~。ミーアもみんなのこと大好きだよ。ミーアがどれくらいみんなのことを好きかって? みんな、知ってるでしょ? ミーアはね、みんなに会うために配信してるんだよ。


 じゃあ、そろそろ言うよ。1回しか言わないから、よーく聴いててね。


『ねえ……、キス、しよ……』


 きゃー、恥ずかしぃ~。ミーア、こんなこと言ったことないよぉ。いま顔がすっごく熱くなってる。

 あーん、もう! 《彼女》シチュは終わり!

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