3時間目 シマムラとトミオカ

 頭が良くて、品の良い雰囲気を醸し出す天才コンビには苦手な科目があった。それは、体育である。特に苦手なのは個人ではなく、チームで頑張らなければならない種目だ。球技や大繩など個々の責任も問われるものは緊張するし、できれば参加したくない。

「俺、本当、お前とは気が合うって思うわ」

「・・・・全くの同意見」

 シマムラとトミオカは体育座りで盛り上がる試合を観戦していた。彼らがやっているのは全滅するまでやるドッチボールだった。当たってしまったら外野になれないルールが加えられてしまい、人数が減るたびに不利になる試合である。そんな試合が開始してすぐにボールに当たってしまった二人は、敵対チームであるにも関わらず、こうして仲良く静かにクラスメイトを見ているのである。

「ドッチボールの楽しさ、トミオカわかる?」

「・・・・わかってたらここにいないよ」

「だよな。俺ら、能力ありの時さえ運動ダメなのに、ノーマル状態でこんな戦いに参加するなんてできないよな」

「・・・・・・・望む立ち位置は戦士じゃなくて軍師」

「わかる。チームの頭脳として、あの白い線の外から応援したい」

 互いに目を合わせることなく、二人は白熱する試合を観戦しながら会話を続けた。

「・・・・・ねぇ、ドラフト会議しない?」

「ドラフト会議?」

 突然の提案にシマムラはトミオカを見る。

「うん・・・・僕とシマムラがメンバーを取り合ってドッチボールのチームを作るの」

 トミオカがシマムラの方を向いてニヤリと笑った。

「ほぉ、面白そうじゃん」

「被ったらジャンケンね」

「わかった。一人目を決めよう」

 二人は数秒、誰を指名するか考えた。

「俺、決まった」

「・・・僕も。じゃ・・せーので言おう」

「いいぜ、せーのっ」

 二人は互いを見合った。

「レオ!」

「・・・・・クラマ」

 一人目は被らなかった。

「おー、なんか緊張するな」

「・・・・僕、二人目ももう決まっているんだけど」

「俺も俺も。じゃ、いくか。せーのっ」

 二人は同時に二人目を指名した。

「カナメ!」

「シズトリ・・・・」

 二人目も被らなかった。その後も三人目、四人目とドッチボールのチームを編成していくが、被る様子はなかった。それどころか、「あー!とられた!」というのもなかった。

「おいおい、ドラフト終わるぞ」

 とうとう最後の一人を決めるところまできた。

「・・・今まで被ることなかったから・・・ここで被るのは痛いね」

「そうだな。いくぜ、せーのっ」

 ドッチボールの試合より白熱する二人は最後の一人を指名した。

「スタさん!」

「ムラ・・・」

 最後の一人も被らなかった。

「えーと、俺が選んだのがレオ、カナメ、イオ、サクラギ、タカ、ミクリ、圭介、コウリ、スタさん」

「僕が選んだのは・・・クラマ、シズトリ、ヒロ、シンスケ、フブキ、フタバ、ユウビ、ツチダ、ムラ」

 互いに互いのチームを想像して、ある特徴を二人は見つけた。

「トミオカのチームは直感と勢いが強いチームだな」

「・・・・シマムラのチームは冷静さと頭脳派な感じだね」

「そりゃ、被らないわけだ。作りたいチームが違うからな」

「ここは・・・僕らの性格が出たね」

「確かに、でも意外だな。お前って冷静なタイプとか入れると思っていた」

「・・・・・・僕はよくフタバとツチダとユウビと一緒にいるからね。この三人みたいなタイプの方が考えやすい」

「そういう考え方もあるのか。面白いな」

「・・・発見もあるし・・・メンバーのタイプの復習にもなっていいね」

「次、何にするか」

 うきうきした様子でシマムラが二回目を始めようとした時、試合終了の笛が鳴った。

「・・・・・僕のクラスの勝ちで僕らのドラフトも終了だね」

「残念、また今度やろうぜ」

「・・・うん、そうだね」

 苦手な体育に楽しみが見つかり、シマムラとトミオカは互いに笑い合った。

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ユーシア 日常物語 小林六話 @aleale_neko_397

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