一三 外務×ニューイースト

「楽しみだあ!」

 スポーツウェアでダンベルを上げながら弾ける笑顔のV9。外務大臣だが、「ディプロマシー」と「ミニストリー」でデミニになるとすると、防衛大臣の「デミニ」と被るのでショーガイと呼ばれた。決して外相の逆さではなく、学校の部活の「渉外」だった。

「何が一番楽しみ?」

 ほぼビキニのピチピチのウェアのナッチが聞き返した。

「オリンピックかなあ」

「そうだね♪2020+20にあるもんね♪」

「私も出れるかなあ♪間に合うとは思うけど、大臣のお仕事は?」

「そっか。トレーニングの時間がないかあ。クッソー!」

 ダンベルの速さが増した。代償行為でアドレナリンを出して気分を収めている。

「大丈夫?それって二十キロもあるけど?」

 ナッチが余りの激しさに心配顔を覗かせた。

「ハア、ハア。平気平気。で、仕事の話だけど、急に北の態度が変わったけど、ナッチのニューイースト政策なの?」

 V9はパンプアップされた上腕二頭筋を撫でながら聞いた。

「まあね。新・東亜新秩序のニューイーストのスタートよ♪それにしても、ハッキングは簡単だったし、意外と心変わりも速かったわ。やっぱり思想信条が揺らいでると、そこに付け入るのは簡単なのよね。北朝鮮って李氏朝鮮からの禅定も受けていない、ただの交戦団体でしかなかったからね」

「ってか、だからって急に国家承認して同盟って恐くない?」

「大丈ブイ♪北朝鮮を中二病みたいにさせてたのは自分達の存在を保証してくれる権威を求めていただけだから。日本っていう歴史的にも確かな国が国家承認してくれれば、これに勝る安心はないわ。だから、同盟の話にも乗ってきたし、いつ革命が起きて崩壊するか分からない中国より安心だからね♪もう中国の属国に戻ることはないよ」

 ナッチは目をVサインにして見せていた。

「じゃあ、北は民主化するの?」

「そのとーり!アメリカも協調して圧力をかけてくれるからね。民主化プログラムを北朝鮮に飲んでもらって、まともな選挙もするよ。アメリカ軍も駐留するしね。代わりに南朝鮮のアメリカ軍は撤退するけど」

「そんな条件を北が飲んだの?」

「うん♪金一族も結局は自分の身が心配だっただけだからね。建国の英雄の一族として特別な地位をあげるんだ。まだ呼び方は決まってないけど、王政復古って感じだね。君臨すれども統治せず♪」

 ナッチはイギリス女王のような絢爛豪華な中世の貴族衣装になった。きらめく黄金や宝石が眩しい。

「じゃ、じゃあ、南とは断交するの?」

 V9はチカチカする目をしばたかせながら聞いた。

「うん♪日本を敵国として教育し続ける国なんて最初っから信用できるわけないじゃん!敵は時には味方になるけど、味方のふりした敵なんて永遠に敵だからね。国家承認を取り消し~!それに、これでやっと基本に帰れるしね♪兵法三十六計の遠交近攻は外交の基本中の基本だからね♪」

「兵法と来たか。やっぱりそれだよねえ。じゃあ、これで竹島問題も解決?」

「そ。竹島はソッコーで奪還するよ!て言うか、南朝鮮には新しい国を創るしね♪」

「新しい国?」

「うん♪あ、正確には新しくないか。百済を復興するの♪」

「え?社会の歴史で習った百済?」

「それそれ!百済は朝鮮半島にあった倭人の国だからね。百済は日本語を話していたことが史実としてあるし、あれだけ日本との交流が深かったのも、同じ民族だったからなのよ。超大国の唐との敗戦必至の戦いだった白村江に大軍を送ったのも、外交的な意味もあったけど、同族を助けるためだったからそこまでがんばったのよね」

「そうなの?え?じゃあ、今の南の人も同じ?」

「今となっては新羅や高麗に蹂躙されて、近年にも徹底的に排除されてるから痕跡を探すのも大変だけどね。遺伝的にも混血が進んで純粋には見つけられるか分からないけどね。もし今までに判明してたら弾圧されてただろうし。でも、今でも前方後円墳なんかの消すに消せない遺跡は残ってるよね」

「そうかあ。その百済を復興するの?」

「そ。百済と任那だった場所に再建国♪天皇陛下が国家元首で、日本語を第一言語の国。イギリス連邦のカナダやオーストラリアみたいなイメージだね。王国の体裁を採って、遺伝子的に百済王の血統を持つ人を迎えるよ」

「ああ、これか。王政復古もして古代の姿に戻すってことかあ。あれ?百済って、イコール南の領土じゃないよね?残りの栃原どうなるの?」

 V9は歴史の教科書をARコンタクトに映しながらしゃべった。

「他はね、アメリカとロシア、中国の委任統治領になるよ」

「え!?四カ国で南を分割するってこと!?」

「正解~♪」

 ナッチが分身して四人になった。それぞれが振り袖、カウガール、サラファン、チャイナドレスになった。

「そうか、アメリカって民族衣装がないのか」

「もともと移民の国だからね。アハハ・・・」

 カウガールのナッチが苦笑いし、他の三人が愛想笑いをしていた。

「それはそうと、何でまた四分割に?わざわざ紛争の火種を作ってない?日本を鍛えるトレーニングにはなるけど、リスクが高すぎない?」

「近いうちに百済になるんだけど、最初は各国を説得するためにね」

「交換条件にしてるってこと?」

「正解~♪」

 四人のナッチが民族衣装をあしらったタンクトップになってポージングを決めて見せた。金銀のテープが飛ぶ中、黒光りの筋肉を自慢する。V9も負けじとポージングして見せた。

「アメリカは何を交換に?」

 V9はポージングを変えながら聞いてきた。

「他の国とは違って、これといって目に付くものはないよ。強いていえば、同盟堅持の確認と、半島有事に日本も前線に立つ確約だね」

 カウガール風のナッチがポージングしながら答えた。

「じゃあ、ロシアは?」

「北方四島の返還と北海道にアメリカ軍を駐留させないのと、経済支援ね」

「ずいぶん破格の大サービスじゃない?大統領を説得するため?」

「大統領より国民の説得材料ね。ロシア政府にとってホントは北方四島なんて交渉のカードでしかないけど、領土の引き渡しが国民の不満になってクーデターにつながりかねないからね。でも、ウクライナ戦争で崩壊したロシア経済の立て直しもまだまだできてないから、クーデーター阻止との交換なら話は違うってことね。それに、経済支援も単純にお金をあげるんじゃなくて、エネルギーと年金運用に投資するって形にするの。エネルギーは基本だけど、ロシア国民は年金にかなり不満タラタラだから、日本の資金で運用が劇的に

良くなったら日本への好感度もアップ~だからね♪」

 ナッチはサラファンの上からわかるほどにパンプアップされた筋肉を見せた。

「北海道に米軍を置かないなんて、アメリカが呑むの?」

 V9もさらに上腕二頭筋をアピールしてきた。

「もう約束はできてるよ。代わりに第八艦隊の母港を造るのよ。国後島の単冠湾なんてのも洒落てていいかもね♪まあ、どっちにしても、私の未来には軍なんて古くてお金ばっかりかかるものは要らないんだけどね。北方四島を返してもらうための取引ってだけよね」

「なんだかロシアが丸儲けな感じがして嫌だなあ。けど、どうしようもない輩だしね。じゃあ、中国は?」

「台湾と交換だね。もうあきらめなさいって!でも、メンツがあるだろうから、これでガマンしてなさいって♪まあ、中国はもうすぐ革命が起きて分裂するけど、それまではかまってあげないと」

「分裂する予定かあ。そのまえに台湾は独立するのか」

「うん♪台湾も百済と同じ天皇陛下を国家元首にした国になるよ♪日本連邦になるのよ」

「三カ国の連邦かあ」

「あ、まだ言ってなかったけど、他にも前向きな国もあるのよ。ミクロネシアとかポリネシアに多いんだけど、バングラデシュも考えてるって♪」

「親日国が一気に連邦に加盟するってことか。急にマッチョになるね」

 V9は腕から胸、腹、モモと筋肉のやまを撫でた。

「そうだよねえ♪ここが日本で、こっちが百済で、こっちが台湾・・・」

 ナッチ達はそう言うと、今度は自己顕示することなく、V9に寄り添ってきた。その筋肉の起伏を愛おしそうに、上気した横顔で撫でた。

「ど、どうした?急に。外ですることじゃなきでしょ!?」

 ハーレム状態にV9も顔を赤らめながら口にしたが、逃げるでもなく実を任せた。

「は!そうだった!つい見とれちゃって、ゴメンナサイ」

 ナッチは急に跳びのけて整列した。うつむく顔は爆発しそうなほど真っ赤だった。

「ま、まあいいよ。けど、帰ってからね。けど、台湾が独立して、北方四島が返還となると、そのうちナッチの工作が上手くいくとしても、しばらくはきな臭いよな?」

「うん♪だから、沖縄と北方四島は国の直轄地にしちゃうの♪」

「そうきたか!」

「土地はもちろん全部国有で、住民はみんな国有地を管理してもらう公務員ね♪家も食事も生活の全てがお仕事だから、全て無料だしね♪その代わり、公務員だからもちろん法律を厳しく守ってもらうよ」

「反乱分子も監視できて一石二鳥か。筋肉に必要なもの積極的に摂って、そうじゃないものは徹底的に除く。考え方は一緒か」

「そゆこと♪それから外交の大仕事はDTKの再構築ね♪」

「DTK?プロテインの会社じゃなかった?」

 他のナッチがプロテインのパッケージを見せている。確かにDTKの社名だ。

「あ、そういえば被ってる!あははは・・・。でも、これは大東亜共栄圏の略ね。アジア人はまだまだ欧米人に蔑まれてるし、経済的にも植民地システムから抜け切れてないわ。それに、日本を一番恐れてる。第二次世界大戦でもアメリカは枢軸国の中で唯一、日本人だけ財産を没収して強制収容したわ。ナチスがユダヤ人を恐れたのと同じ。その恐怖心は今も拭えていないわ。その恐れを利用して、日中を基礎に欧米を凌ぐ東アジアを世界の中心にするよ」

「日中?まさか、中国と手を組むの?」

「今の中国とは手を組まないわ。変わった後の中国とね。変えること自体は秀吉が最初に着想して、明治政府が実現を試みて、昭和に決起したけど、欧米の介入で破綻しちゃったけどね。中国が民主化されて台湾のような国になれば、日本と同盟を結んで欧米にやっと対峙できるわ。そのためにはまだまだすることがたくさんあるけどね」

「革命を起こすつもり?」

「うん♪毎日そんな話をしてるから共産党幹部や軍幹部も同調してきてくれてるからね!もう少しってところ♪でも、武力革命じゃないよ。そんなことしたら、逆ギレした反革命派が核ミサイルを撃ちまくりかねないからね。難しく言うと、簒奪じゃなくて禅譲ね♪」

「いける?」

「うん♪世界で最も民主的と言われたワイマール憲法の下でナチスが生まれたのよ。最も共産的な中国の憲法の下で民主国家を創ることだってできるわ。流石に、もうちょっと時間かかるけどね。確実にいける!」

 チャイナドレスのナッチがVサインをしてウインクしてきた。

「スゴいな。私にできるかな?」

「もちろん♪日本はまだまだ鍛えたら鍛えただけ強くなれる!筋肉は裏切らない!」

 五人が見事にシンクロしたポージングを決めてきた。胸筋に押し上げられたバストをアピールしてくる。

「私も負けないよ!」

 V9も胸を張り出してポージングした。ニンマリと笑った笑顔が屈託ない。その眼差しはみんな輝いていた。

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