一二 財務×モノタックス
「財経大臣になってしまいましたけども、私は金持ちだから庶民の金銭感覚なんて分からないわよ。いいこと?」
カールの金髪を遊びながら言ったのはV8。「エコノミー」「ミニスター」でエコミニのはずだが、国のお金に関するものは全て統括するのでマネーミニと呼ばれる。経済政策も財務政策も一体化された。
「だからイイのよ♪庶民感覚で国のお金を預かられたら、国としてまともに使えなくなっちゃうもん♪」
「そう。だったらよろしくてよ。それで、まず聞きたいんだけど、消費税を百パーセントなんて正気でいらっしゃるの?」
「もちろん♪私はいつだって正気よ♪」
ナッチが澄ました微笑みを見せた。それでいて瞳には「正気」と書かれている。
「正気の沙汰とは思えないわ。そんなに税金を集めて何しようっおっしゃるの?」
「子宝大作戦をするのよ♪」
「ああ。V4のお仕事の少子化対策ね。子供を産めば年金で悠々自適だとか」
「それそれ!だいたいみんな十六歳で成人式するから、そこから平均四人は産んでもらうの。四人産んだら働かなくても生活できるぐらいの年金にするからね。一人目六万円で一人増える度に四万円ずつプラスしていくの。二人目十万円、三人目十四万円って感じで増えていくのよ。だから、四人だとが月収四十八万円、年収五百七十六万円だよ!」
「そんなものなの?もっといただけるかと思いましたわ」
「産むだけだとね。これに十六歳までの子育てで倍にするのよ♪そうすると、月収九十六万円で、年収千百五十二万円♪」
「まあ、庶民の生活ならそれぐらいかしら。それで、財源のお話よね」
「うん♪十六歳から四十歳までの女子の人口は一千万人ぐらいだから、産んでもらうだけで五百七十六万円かける一千万人で年五十七兆六千億円になるの」
「あら。意外とお手軽なのね」
「そうなのよ♪これまでどんだけ少子化対策をケチってきたかよくわかるよね!子育てにも同じだけ出すから、倍の百十五兆二千億円要るんだけどね。でも、消費税は一パーセントで二兆円ぐらいにはなるから百パーセントで二百兆円ゲットだよ!」
ナッチは目を¥にしてブイサインをした。V8も不敵に微笑んだ。
「四人とおっしゃらず、もっと産んでいただいても余裕であそばすわね。ですけども、それを口実にまた公務員を増やしたがるのが官僚のみなさんが考えそうですわね」
「そだね。でも、そうは問屋が卸さないのだ!行政だけじゃなく、立法も司法もゴッソリ減らすよ♪私が民主主義を徹底するだけで、三権の公務員はだいぶ要らなくなるからね。百人もいれば十分だから、今は国と地方合わせて三百万人ぐらいで三万分の一ってところね。裁判官も国会議員も事務職員もみ~んなひっくるめて平均年収が七百万円としたら、国全体で二十一兆円ぐらい浮いちゃうね」
「それも含めて考えましたなら、いささか取り過ぎではありませんこと?これまでの予算の倍にもなりますわよね?」
「なるよ!でも、医療費も無料にするからね♪コンビニ受診も全然OK♪どんな先進医療でも無料で受けられちゃうの!」
「大盤振る舞いにはそれなりにお金が要るってことね。まあ、いいわ。それでしたら、消費税を増やすメリットは他にもあって?」
「それが公務員を大激減させる作戦の一つでもあるのよ♪」
「増やしておきながら減らすってどういうことでおられるの?」
「ふふ~ん♪実は、税金はモノタックスにしちゃうんだ!」
「モノタックス?モノってことは、まさか一つだけってことなのかしら?所得税も法人税も、固定資産税も相続税も廃止して、税金は消費税の一つ、モノってことなのかしら?」
「正解~♪」
ナッチが突然、早変わりのように服を引っぺがして下着一枚になった。満面の笑みになぜか真っ白な羽毛が舞い落ちる。
「何のモノよ。モノ下着なんて思っていらっしゃるの?」
脱いだ服が頭に落ちてきても、優雅によけるV8が呆れた。
「じゃあ!大サービス~!」
ナッチは思い切って最後の一枚をはぎ取った。落ちてきた羽毛が山になってナッチの裸を隠している。
「いや、そうじゃありませんのよ。お話を進めて」
「え?あ、はい。税金は消費税だけに一本化すると、いろんなメリットがあるのよ。まず、取るのが楽チンポン♪売買があればそこに課税されるからわかりやすでしょ♪国民全体が払ってるって実感も湧くしね」
「まあ、そうね。消費税は自分で払ったって実感はあるものよね。私もこの時計を買う時に消費税が一億って伺って、これって何に使われるのかしらって思った覚えがあるわ」
V8は宝石の散りばめられた腕時計を見ながら言った。
「私も覚えてるよ。その時、マネーミニにはV8だって直感したんだもん♪」
「あら、そうなの?AIにも直感というものがあるのかしら?」
「あるのよねえ♪あらゆる情報が集積されても出ない結論が、たった一つの新しい情報で決定的な結論を出してくれることがね♪」
「いわれてみましたら、おっしゃるとおりですわね。それでは、私も実感した消費税ですわね。他にメリットはあって?」
「うん。百パーセントなら計算も単純だから、課税対象がうんたらとか、税率がうんたらとか複雑怪奇で奇々怪々な税金の計算が要らないから、税務官も税理士も要らないしね。売買も私がARコンタクトを通じて見てるから、漏れなく私が計算してぜ~んぶ納税もするから税務にかかわる公務員も要らないのよ」
「税務に携わる職業は一切要らないのね?」
「そうなの。税金の制度を知ってるだけなんて、何の生産性もないもん。それに、それだけじゃないよ!年金、医療、介護の保険料も消費税にひっくるめちゃう!NHKも解体して必要な情報は私が伝えるし。納付なんて言葉遊びで強制してる事実上の納税もぜ~んぶなくすよ♪だかはら、とりあえずお金を集める公務員とか、それに関わるお仕事は要らなくなるよ♪」
「国に流れるお金は全部、人手を介さずに自動的に消費税で集められると言うことですのね?それでも脱税は出てくるでしょう?マルサでしたっけ?取締官は要るでしょう?」
「それが、できなくなるんだなあ。そのためにお金そのものを変わるよ!」
「お金を変えて脱税させなくするのですか?」
「そ。もう国民み~んなに銀行口座を登録してもらってるでしょう。支払いはぜ~んぶこの口座から引き落とすのよ。物を買う時もサービスを使う時も顔認証で自動的にお支払い♪イメージ的にはドラえもんの二十二世紀よね♪ほら、のび太君は一見、何も払わずに服をもらったりしてたでしょ?」
「何となく存じておりますわ。それでしたら、お金もカードもスマホも持ち歩かないと言うことですの?」
「うん♪欲しい物があったら、お店から持って行くだけ。使いたいサービスがあったら利用するだけなのよ♪」
「盗み放題になりませんこと?」
「その辺は私がその人の懐具合を見ながらアドバイスするよ。最悪、絶対に払えないような物を持って行こうとしたら止めるしね」
「そうね。システム的には意識さえ変えれば、今でもできそうね」
「そうなの。だから、来月には始めようかなって感じ」
「さすがに早いわね。カードも貨幣も紙幣も廃止ってことになるかしら?お財布も要らないのかしら?」
「なくなるよ。造幣局とかもなくなるね♪公務員がまた要らなくなるね。お財布もある意味なくなるし、スリとか置き引きもなくなるね♪」
「ずいぶんとスッキリするわね。お金の考え方が一変しますわ」
「そうなの♪一変といえば、まだあるよ!金利って制度をなくすよ!」
「金利とおっしゃるのは、お金の貸し借りの利子や利息のことですわよね?」
「うん!お金を借りても、それ以上は払う必要なくなるのよ」
「それでは金融機関が破綻するのではなくて?」
「大丈ブイ♪手数料を取ることはOKだから♪」
ナッチは瞳を¥にして両手ブイサインをして見せた。
「何のメリットがありまして?」
「インフレを目指したゼロ金利の最終形態に見えなくないけど、そうじゃないよ。金利は持つ者が持たざる者から搾取するだけの非生産的なシステムだからね。何の価値も生み出さないから要らな~いってこと!」
「金利があるから返そうって気持ちになるのではなくて?」
「今まではそうだったかもね。持っててもないふりしたり。でも、これからは国民口座があるから、返そうと思わなくても自動的に返されていくし、財産があれば差し押さえるから大丈夫だよ♪」
「それでも払えなくなったらどうされますの?」
「働いて返してもらうよ」
「懲役ってことですの?」
「イメージ的にはそうかも。でも、仕事も収入もない人のための職業提供施設内だから。失業者とかと一緒でね」
「まあ、悪くはないわね。他にも何かナッチらしい政策はありまして?」
「よくぞ!オリプラとユニウェイをするよ!」
「オリプラ?ユニウェイ?また新しいスラングで惑わされるのですか?」
「そんなことないよお。愛称で覚えてもらうためだよ!だって、中身は至って簡単な話なんだもん♪オリプラはオリジナル・プライスで定価だし、ユニウェイはユニファイド・ウェイジで統一賃金ってことだよ。どっちも法律にしちゃうよ」
「定価なんて今までもありますわよね?」
「もちろん♪でも、これからは定価以下での販売を禁止するのよ♪」
「割引なしと言うことですの!?」
さすがにV8も驚いた。
「うん。よくある割引きは売れ残りだよね?それは購買予測が外れたってことだし、非効率的な流通にいつまでも甘んじてるのよねえ」
「フードロスや在庫処分が大量に出なくて?」
「出さない経営をしてもらうのよ!売れ残りが出れば損失に直結だから、経営者も真剣に需要予測を立てるようになるし♪と言っても、私に聞いてくれれば、すぐにわかることだからね。実際にフードロスとか売れ残り在庫は私の言うことを聞いてくれない頑固な経営者だけだしね」
「それなら、新品が一番お値ごろになるのかしら?」
「うん♪同じ機能なら新品だね」
「中古市場は消滅しますのね?」
「そうだね、古い物はどんどん資源リサイクルだね。ちょっとはビンテージとかで定価以上で出回るかな」
「新品がよく売れるようになるのは良いことだわ。それこそ経済も産業も活性化しますわ。それでは、ユニウェイはいかがなりますの?」
「統一賃金は全国で最低賃金を同じにするってことだよ♪これからは東京も地方も同一労働・同一賃金なの♪」
「今は土地や家賃が安い地方の方が可処分所得が多くなりますわね。活性化にもつながると言うわけですわね」
「V8、あったまいい~♪」
「え!?」
ナッチが抱きついてきた。一瞬、ギュッと肩が締められたら気がした。ARの彼女がそんなはずはなかった。
「ねえ、V8!」
「な、何ですの?」
「大好き?」
ナッチが紅潮した満面の笑みをした。ほのかに潤んだ瞳がジッと見つめている。
「そ、そうですわ!紅茶が切れてなかったかしら?」
V8は照れ隠しに話を逸らした。物の購入履歴も消費動向も全てナッチが把握している
のは当然で周知のはずだった。
「あ!いけない!忘れてたかも!ゴメンナサイ」
「全然かまわなくてよ。ほほほ・・・」
ペコリと頭を下げて謝るナッチにV8は余裕を見せた。しかし、鼓動はまだ高鳴ったままだった。
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