一〇 国土×ホワイトシティ
「ホワイトシティ?建物を全部、真っ白に作り替えるんすか?」
ランミニのV6が横目に聞いてきた。「国土=ランド」「大臣=ミニスター」の通称だ。
「うん。ぜ~んぶ誰も見たことのない、誰もが大好きな街になるよ」
ナッチは工事監督の姿になった。頭には黄色い安全ヘルメットだ。
「どういうことすかね?」
「イメージ的にはこんな感じ♪」
V6の部屋が突然、純和風になった。畳が敷かれ、床の間には掛け軸、生け花まである。ナッチも振り袖姿ではんなりしている。
「そっか。ARっすね」
「そ。だから、飾りはな~にも要らないの」
「耐震とか耐火とかだけ追求して、安々でできるってことすか?」
「正解~♪」
ナッチは振り袖を踊らせて跳ねた。桜吹雪も舞い踊った。
「デザイン的なものは何にも要らないってことかあ」
「うん。建物はぜ~んぶ真っ白い箱でイイのよ。そこにARが映るかなーんにも要らないの。建物のデザイン自体も観る人の好みに合わせて映し出すから、今まで見たことのない、とびっきり大好きな建物が現れるってこと♪そんな建物が集まって、街全体がその人の個別最適な景色になるのよ」
「同じ場所にいても、景色が違うってことすか?」
「違うものを望んでいれば違うものになるし、同じものを望んでいれば同じになるよ。家族とか友達とか仕事とかで、違うと不便でしょ?恋人とオシャレなお店に来てると思ったら、相手には全然違うじゃ困るでしょ?」
「そりゃそうすね。そういうシチュエーションもナッチが演出してくれるんすか?」
「まあね♪普段の言動や好みから好きなものをピッチアップするのは得意だからね」
ナッチは部屋を地中海に面したリゾートホテル風にして見せた。クマのぬいぐるみは水兵の格好になっている。窓からの風も何となく潮の香りな気がする。
「そっかあ。じゃあ、看板とかも全部、好みに合わせられる訳か」
「そ。同じ商品でも人によって魅力を感じる広告は違うからね。人によっては派手なのがいいし、人によっては地味なのがいいし。その人の個別最適な街に、個別最適な景色が広がるんだ♪」
「スゴいっす♪けど、今ある街はどうするの?」
「順番に建て替えていくよ。まあ、建て替えないでも、ARで綺麗にはみえるんだけどね。耐震とか耐火を考えるとね。災害コストを考えて、タダであげちゃうし♪」
「タダ!?家だけじゃなくて?ビルとかもすか!?」
さすがにV6も驚いた。詰め寄られたナッチも目を丸くした。
「う、うん♪企画化された量産タイプだからね。今までの建築コストと比べると何十分の一だし、災害コストを考えれば、安上がりなものよ」
「そっかあ。だったら、東京は真っ白な首都になりそうすね」
「あ、真っ白な首都にはならないよ」
「え?何で?」
「だって、首都はメタバースに遷すの」
「メタバースすか?仮想の世界ってことすか?」
「うん♪首都は一極集中の弊害しか生まないし、戦争になったら集中攻撃を受けるし、占領されたらゲームオーバーになるし、現実に創る必要がないのよね。省庁もほとんどなくなるし、国会も最高裁判所もなくなるし、今、首都機能って言われてるものが全国に散らばってちっちゃく残るだけだよ」
「国会とか最高裁もなくなるんすか?」
V6はさらに驚きを隠さなかった。
「うん。民主主義を追求していくと、要らなくなるのよねえ」
「ふ~ん。じゃあ、天皇陛下は?天皇陛下がいるところが首都じゃないんすか?まさか、メタバースに皇居を移すとかないっすよね?」
「さすがにね。現人神じゃないけど、実在するからこそ存在意義はあるんだもん。でも、陛下はあくまで憲法上は国民統合の象徴だから、お住まいが首都とは限らないのよね。ほら、江戸時代みたいな感じ。天皇は京都御所におられて、幕府は江戸でしょ?政府にあるから首都は江戸ともいえるでしょ?」
「なるほど。じゃあ、今の皇居じゃなくても、どこでもいいわけすね?」
「正確~♪」
ナッチは十二単になって見せた。古風な天然の色合いのテープが舞い飛んだ。V6の部屋も寝殿造りの一室に変わった。
「これは京都ってことすか?」
V6はテーマを頭から取りながら苦笑いした。
「それもありだよって♪それに、歴史で習ったみたいに、時々、遷宮をしてもいいしね♪」
「じゃあ、メタバースに首都があるなら、みんな首都にいつでも行けるってことすよね?」
「うん。首都の住民と地方の住民の区別もなくなるよ。だから、全国民が全国で首都にアクセスして、首都の住民と同じサービスを受けられるのよ。ユニバーサルポリスって呼ぼうって思ってる」
「ユニバーサルポリスすか。カッコイイすね♪あれ?じゃあ、東京は宮古島じゃなくなるってことすよね?」
「いいとこに気づいたねえ♪都はなくなるよ。ちなみに、府もなくなって、県だけにするよ。その県も自治体としてあるわけじゃなくて、地名としてあるだけ。市も同じで、ただの地名になるよ。ネットは国民の意見をダイレクトに伝えるから議会なんて意見集約装置はもう要らないし、税金の無駄遣いと不正と腐敗の温床でしかないからね」
ナッチはスーツ姿になった。ポケットというポケットに札束をあふれさせ、黄金の歯で笑って見せた。目は¥になっている。
「そうっちゃそうかあ。そうそう、国土省なら道路もするっすよね?エアウェイ構想はどうするんすか?」
「ああ、あれ?V6は興味あるの?」
「エアカーが好きやったんすよ!国土大臣の話を聞いた時、これはやりたいって思ったんすよ」
「そうだよね。エアカーが学校に突っ込む事故が立て続けに起きて凍結されたのよね。あの事故がなければ、今頃、日本中でエアカーが走り回ってたはずだもんね。世界中で一般的じゃないのは日本ぐらいだもん。完全に後進国だもん。でも、も、それも一気に挽回するよ!エアカーの事故原因は百パーセント人が原因だからね。運転も整備もぜ~ぶAIと
ロボットにするよ」
「それなら安心すよ!よろしくっす!」
V6がハーフハートをしてきた。ナッチもハーフハートで応えてハートを作った。にんまりと二人の笑顔がシンクロした。
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