第3話

「いや良いんだよ。別に俺も迷惑かかってないしな」


「本当に? それなら良いのだけど……」


「……でも、」


「ん?」


「……でも、もし……もし俺がその子のことを諦められなかったら」


「ん」


「その時は、応援してくれたら……その、嬉しいな」


「ふふ、面白い子だなぁ冬稀は……、そういうところが好きだな」


 小さな声で。


「え? 今なんて?」


「良いよ。応援してあげる」


「おい……まあいっか。ありがとう、紫晞」






 ◇◆◇






 HRを終えたあと、俺は部活に行く準備をする。


 準備と言っても、ただ教科書などの荷物をカバンに入れていくだけなのだが。


 ついでに紫晞に声かけておくか。


「紫晞、テニス頑張れよ」


「ん、冬稀もね」


 いや〜なんとも心地の良い会話だろうか。


 そんな事考えてる場合じゃない。早く部活に行かなければ。



 部室の中には俺と他三人しかいない。


 ギター、ベース、ドラム、キーボード……色々な音色が聴こえる。軽音楽部特有の音だ。


 俺がギターに手を掛けたところでガラリとドアが開いた。


 そこには無駄なものを飾らず、髪はゆるくふわっとし小柄でパッとしない少女がいた。


 俺の心臓がドクンッと大きく脈を打つ。


 この気持ちを隠すように俺は反射的にその子に声をかける。


「おっ、紗香じゃん! 待ってたんだよー。一緒にギターやろ!」


「冬稀先輩……」


 その一つ年下の少女、瀬田紗香は俺の顔を見ると表情を少し曇らせた。


「今日はちょっと一人で練習したいなぁ、なんて」


「ええー! 俺ずっと紗香とギターすんの楽しみにしてたのにー」


「ふふ、冗談ですよ。やりましょ、ギター」


 やっと紗香は何気ない笑顔を浮かべた。俺もその表情を見て一気に気が緩んだ。


「よっしゃー!」

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