第1.5話-先輩妖魔を知る-

 ––––入学式終了後。

思いもよらぬ再会を果たし喜びに浸っていたのも束の間。先輩は不思議そうな顔で俺に尋ねてきた。

「ところで神白先輩……妖魔って何?」

先輩の口から出た言葉に俺は慌てたて周りを確認する。

幸い周りは自分達の事で精一杯なようで、先輩の退魔師としてはあり得ない疑問が聞こえた人は居ないようだった。

「(先輩ちょっと来てください……)」

そっと耳打ちしてから先輩の手を引いて外へと向かった。


「か、神白先輩ってば何処に向かってるの!」

手を引きながら走っていると先輩にそう尋ねられた。

(とりあえず人気のない場所は……)

必死に考えた結果、校舎から離れた場所に小さな古屋があったのを思い出した。

「この先に確か初心者が訓練するための古屋があったはずです。そこに行ってから話しましょう」

「わ、わかった」


 小屋に着いた俺は周りを確認さてから長い事出入りしてないであろう古屋の扉に手をかけた。

錆びた金具のせいで開きにくかったが、力を入れるゆっくりと扉を開ける。

中もやはり埃が溜まっていたが、置いてある椅子や机などは思ったよりも傷みはなく綺麗だった。


「とりあえずここに座ってください」

手頃な椅子をハンカチで軽く拭いてから、先輩に座るように促す。

「ありがとう神白先輩!ちょっと見ない間に紳士になったね」

少し揶揄うように先輩はそう言うと、スカートを整えて椅子に座った。

「そんな事ないですけど……」

少し照れながら、俺は先輩の前に椅子を置いて座った。


「それで先輩はこの学園の事とか退魔師の事、それに妖魔の事どのくらい理解してるんですか?」

俺の質問に先輩は、頬に手を当ていかにも考えているという感じで少し考えてから答えた。

「うーんと、この学園の事は調べたんだけどね。凄く入学するのが難しいエリート学園で、基本は中学からのエスカレーターって事くらいしか……」


「そうですか。正確には退魔師の適性があるものを調べその人に入学試験の案内を送っているんです」

「へーそうなんだ」


「中学くらいが最も適性がわかる時期なので高校入学が少ないのもそれが理由です。それで退魔師や妖魔についてですが、まあ妖魔についてはほぼ無知みたいですね」

「う、うん。おじさまに聞いたけど、妖魔が起こす問題を解決するのが退魔師くらいしか……」


「……わかりました。先輩がそこまで無知だとバレれば流石に入学取り消しの可能性もあります。だから今から説明する事しっかり覚えてくださいね」

先輩の事を考えると、恐らく試験を受けて合格はまず出来ない。

親父は先輩を俺の側に置くのが目的で、無理矢理実力詐称してコネ入学させたのだろう。

(もし、先輩の事がバレたら……あのクソ親父余計な事してくれるよな。……ちょっと嬉しかったけど)


「わ、わかった!しっかり覚えるよ!」

俺の心配をよそに先輩は両手を胸の前で強く握ってガッツポーズしている。


「じゃあなるべくわかりやすく簡単に説明しますね。妖魔っていうのは膨大な霊力を含む希石を中心に形を持った存在の総称です」

「––––うんうん!」


「妖魔は、原理不明ですが媒体となる希石が周囲にある強い霊魂や悪意などに反応し肉体を与えた存在と言われています。そして希石を壊せば消えます。逆にそれがある限り何度でも生き返ります」

「そ、そうなんだ……」


「妖魔は普通の人には殆ど見えないので妖魔絡みの事件はあまり知られませんが、ごく稀に伝承や都市伝説として残るものもありますね」

「え!じゃあ狼男とか八尺様とか!」

先輩が目を輝かせて聞いてくる。

そういえば先輩はそう言った話が昔から好きだったな。


「なんでその二つを例に挙げたのか分かりませんが、でもその認識で間違いないです」


「なるほど。その妖魔の中の希石っていうのはどうやって見つけるの?」


「それは1番簡単なのは式神を使えばわかります」

「……式神?」


「式神っていうのは妖魔を契約で従えた物なんです。契約すると希石は消滅して契約者の霊力によって肉体が保たれる状態になります」

「そうなんだ」

先輩は首を傾げながら尋ねてきた。


「……それと、式神化した妖魔が契約者を失うと残った霊力は体内に再び希石を作るらしいです」

「契約者を失うって?」


「まあ、色々あるって事ですね。それと位の高い妖魔は条件が揃わないと完全な契約は出来ないので、そこも覚えておいてくださいね」

「なるほどね。わかったよ」


「じゃ改めて、妖魔とは?」

「コホン。妖魔とは希石によって作られた物の総称。倒すには式神を使って希石を壊す必要がある。だよね?それから、式神にするには条件があったりする」


「その通りです。流石は先輩ですね」

「えへへ♪ちゃんと覚えたからこれで安心だね」

少し心配だったが、先輩は昔からふわっとした感じがあるけど理解が誰よりも早かった事を思い出した。


「それじゃあ他に必要そうな事は明日以降教えますね。今日は寮に戻った方がいいと思いますし……」

「わかった!じゃあ今日はこのくらいで帰るね!」

そう言うと先輩は扉を開けて飛び出して行った。


一分程して戻ってきた先輩は恥ずかしそうに尋ねてきた。


「あ、あのよく考えたら寮の場所知らない……」

恥ずかしそうにする先輩の可愛さに、改めて明日から先輩とまた過ごせる喜びを感じるのであった。

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