旧 第24話-後輩と2人-

 「……ぱい、…先輩」

 微かな意識の中、聞き覚えのある声が俺を呼んでいるのが聞こえる。

 「先輩!神白先輩起きて!!」

 身体を激しく揺さぶられて朦朧としていた意識がはっきりとしてくる。

 目覚めたばかりの俺の視界には、ぼんやりと夢乃先輩と麗華さんが見えた。

 「あれ…2人ともどうして?」

 「まだ寝ぼけてるみたい…」

 俺の言葉を聞いて、夢乃先輩は麗華さんに困った様子でそう言っている。

 「仕方ないわ。悠紀君きっと疲れてるのよ。2人で降ろしましょう」

 麗華さんがそう言うと、2人は俺の肩に手をまわしてきた。

 

 「え、あ…ちょっと!」

 突然の事に驚いた俺は、思わず立ち上がり、周りを見渡してようやく自分が何をしていたのかを思い出した。

 「神白先輩やっと起きた!」

 「……後ちょっとで、悠紀君に体を預けてもらえたのに…」

 先輩の横で、少し残念そうな顔をしている麗華さんを見て、ギリギリで目が覚めて本当に良かったと思った。

 「もう着いたんですね。すいません寝ちゃってて、すぐ降りましょう」

 俺は、2人を連れて電車から降りた。

 「到着♪意外と早かったね♪」

 そう言っている夢乃先輩は、随分とご機嫌なのがわかった。

 「確かに早かったですね。電車に乗って、次に目を開けたらついてましたよ…」

 まだ少し、気分の悪さが残っていた俺は、力なくそう言った。

 「あはは、だって神白先輩ってば、電車に乗ってすぐにお弁当食べさせてあげたら、食べながら寝ちゃったもんね♪」

 どうしてこの2人は、俺が気絶していることに気がつかないんだろうか…。


 「ま、全く…夢乃はまだまだ子供ね。そんなに浮かれちゃって…」

 先輩にそう言っている麗華さんも、先程からキョロキョロしていて落ち着きがない。

 課外授業とはいえ、3人で遠出するのも夏休み以来だし、目的の集落から少し町の方へ行くと観光名所もある。2人が浮かれるのも無理はないだろう。

 「麗華さん、今は俺達しかいないから、無理しないでいいですよ」

 「そうだよ麗華!本当は燥いでるのバレバレだよ?」

 先輩にからかわれて、麗華さんお顔がみるみる赤くなっていく。

 「そ…そんにゃことないし…」

 「あははは、麗華ってば顔真っ赤で可愛い――」

 「ぐにゅ…夢乃のバカバカバカ!!」

 楽しそうに戯れ合うじゃれあう2人をしばらく眺めてから、俺達はお世話になる民宿に向かった。


 「神白先輩、泊まる民宿ってどんなところなの?」

 「私も気になります!部屋は勿論、私と悠紀君はいっ――」

 「部屋は当たり前に先輩と麗華さんが一緒です」

 麗華さんが言いたいことは、大体わかるようになってきたので言われる前に遮った。

 明らかに落ち込んでる麗華さんをよそに、俺は今日から泊まる民宿の説明をした。

 「去年もお世話になった民宿で、部屋も綺麗だしご飯も美味しいですよ。ただ…女将さんが…」

 最後だけ濁した言い方に、2人は少し引っかかってる様子だったが何と言っていいのかわからなかった俺はそのままはぐらかした。

 それから少し歩いて、民宿が見えてくると、外で掃除をしている女将さんが見えた。

 向こうも俺達に気がついたようで、手を振ってくれている。

 俺は少し小走りして挨拶をしに向かった。

 

 「女将さん、去年に続いて今年もお世話になっ――」

 「あらら、かー君去年より背が伸びたんじゃない?今年もこんな田舎にわざわざ来てくれて嬉しいわ!そういえば、またみんなが来てくれるって言うから、朝一番で新鮮なお魚と野菜をね――」

 女将さんは俺の挨拶を遮って話し始め、一人で延々としゃべっている。

 「そういえば!今年もきー君と来たのかい?みーちゃんは大丈夫だったの?」

 「え…あー…」

 きー君は黄瀬先輩の事だろう。でもみーちゃんって誰だ。去年一緒に来たもう一人の名前か?

 もしかしたら、女将さんに聞けば忘れてることが少しわかるかもしれない。

 「えっと…今年は黄瀬先輩とは別です。それとみー…ちゃん?に関してはその…記憶が曖昧で覚えてなくて…」

 「あら…ごめんなさい私ったら辛いこと聞いちゃって…」

 女将さんは、俺の話を聞いて申し訳なさそうにそう言った。


 「いえ、大丈夫です。それより少しでも思い出したいとは思ってて…みーちゃんって名前は?」

 「え…えっと…。ごめんなさいみーちゃんで覚えてたから…。でも名簿を見たらわかるかも、後で調べてあげるね」

 わざわざ調べてくれるという女将さんにお礼を言うと女将さんが不思議そうに尋ねてきた。

 「あれ、でも今日は3名予約で二部屋だったよね?」

 「あ、それは――」

 俺が2人を紹介しようと振り返ると、何故か二人は民宿のそばの陰に隠れていた。

 「……何してるんですか?」

 「…あ!ごめん…女将さんの勢いが凄いからつい…。ね、麗華?」

 「えぇ…凄い圧だったわ…」

 まあ、それはわからなくもないけど…。と思いつつ、改めて2人を紹介する。

 「今日泊るのは、俺とこのふた――」

 「きゃーー!!何この子達可愛いわね!もしかして…かー君の彼女さん達?最近の子は派手なのね彼女を2人も連れてくるなんて――」

 暴走気味な女将さんの圧に怯え気味な2人を見かねて間に入る。


 「女将さん落ち着いて。この2人は弟子パートナです。後、派手って使い方多分間違ってます」

 「あらそうなの?いやだわ私ったら」

 その後ようやく落ち着いた女将さんに、部屋へ案内してもらった。

 部屋に到着後の予定は、明日からの作戦に備えて各自自由行動とした。

 

 ――――翌日 早朝

 次の日は、朝日が昇ると同時に、山の入り口に様子を見に行くことにした。

 入り口には、去年せめて被害を防ぐためにと最終日に張っておいた結界がまだ残っていた。

 去年数を減らしているし、中も少しは良くなっているかと期待していたが、結果は最悪だった。

 結界内に一歩踏み込むと、四方八方から魔獣が飛び掛かってきた。

 あらかじめ武器を出しておいた為、怪我を負うことなく対処は出来た。

 だが、記憶にある限り去年と同じか、それ以上に増えているようだった。

 「変だな…去年殆ど退治したし、一年でこんなに増えるはずないんだけど…」

 間違いなく数はかなり減らしていて、去年は後は発生源を叩くだけだったはず…。

 そういえば、去年はどうやって発生源を突き止めたのか…。考えたが思い出せない。に案内させたような。

 俺は魔獣を目の前にしながら、そんな事を考えていた。下級の魔物相手だった為、完全に油断していたのだろう。


 「――神白君!!」

 先輩の呼ぶ声と銃声で我に返ると、目の前には、牙をむき出しにして飛び掛かってきていた魔獣が撃ち抜かれていた。

 「悠紀君、大丈夫?…夢乃今のはナイスよ」

 「えへへ…麗華も、神白先輩が襲われないようにちゃんとフォローしてたの見てたよ」

 「ちょっと…余計なこと言わなくていいのよ!」

 そんな2人のやり取りを聞いて、俺は周りを見て気がついた。

 確かに、俺のいた周りより外側で魔獣が多く倒れている。

 きっと2人は、俺がここで去年の事を考えてしまうことを見越していたのだろう。

 だから、集中できていない俺が襲われないように、出来るだけ俺に近づく前に対処していたんだ…。

 「……なにやってんだ…」

 自分の愚かさが嫌になった。2人を守ると決めておきながら、過去の事ばかりで目の前が見えていなかった。

 誰かに助けられてばかりだ…。


 「夢乃先輩、麗華さん、ごめんなさい。それとありがとう」

 「え?」

 「どうしたの悠紀君…急に」

 困惑する2人の背後に移動し、飛び掛かる魔獣を斬りつける。

 「2人を守るって決めたのに過去にばっかり囚われてて…だからごめんなさい」

 「それは――」

 フォローしようとしてくれているのだろう、揃った2人の声を遮り俺は続ける。

 「でも、今の俺には忘れてる過去より、まず守りたい2人がいるから。それに気づかせてくれてありがとう」

 2人は少し照れた様子だったが、俺がもう過去に囚われているだけではないと分かり安心した様子だった。

 「今度は手遅れになる前に気がつけて良かった…」

 もし、もう少し気がつくのが遅れていたら、俺はまた大切なものを失っていたかもしれない…。

 俺はそう思いながら、上着のポケットに手を入れる。

 「汝の主たる神白の名の下に、我に仕えし獣よ、我が呼びかけに答えその姿を現せ」


 「――神白先輩!」「――悠紀君!」

 慌てた様子で2人が叫ぶ声が聞こえる。

 「俺は運が良かったけど、お前は運が悪かったな。あと少し早かったら殺せてたかもな」

 振り返ると巨大な猿のような魔獣が腕を振り上げ今にも俺を叩き潰そうとしている。

 「その爪をもって我の前に立ちはだかりし魔を断ち切れ-白虎-」

 詠唱が終わると同時に、巨大魔獣は左右に倒れた。

 「神白先輩!大丈夫?」

 「悠紀君、怪我してない?」

 「大丈夫ですよ。2人のおかげで、隠れてるアイツの気配が探れていたから」

 辺りの魔獣の気配が減ってきたこともあり、俺は一旦宿に戻ってから残りの日程の変更を伝えることにした。


 


 「あの時の魔獣と強度は大差ないのに真っ二つか…。これは、そろそろかもしれないな」

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紅魔学園の後輩先輩! 猫根っこ @nekoma2sya

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