旧 第23話-後輩と黒の過去-
課外授業当日の朝、俺は校門の前で2人がやって来るのを待っていた。
「2人とも遅いな、そろそろ出発時間なんだけど…」
予定時間が近づいても珍しく2人が現れない。
心配になり様子を見に行こうかと思っていると、校舎の方から何かが飛んでくるのが見えた。
「おーい、神白!」
「ん?…ブルー!?」
慌てた様子で飛んで来ているブルーを見て、先輩に何かあったのかと余計に不安になった。
俺は、近くまで飛んできたブルーに慌てて詰め寄ると大きな声で叫んだ。
「先輩達に何かあったのか‼︎」
「え、あ、いや。2人は何もないから大丈夫だ」
「2人は?」
はぐらかしているようなブルーの態度がどうにも気になった。
「う、うん大丈夫だ。むしろお前のが…」
「え?何よく聞き取れなかったけど」
「あ、何でもないから。それより2人が…そう、支度でもう少し遅れそうだからって」
「そうなのか?」
やはり怪しい態度は気になったが、そもそも主人の先輩に何かあってブルーが隠す必要性もないと自分を納得させる。
「そっか。それで教えに来てくれたのか」
「まあ、そうだな。それとお前の話し相手をしておくようにって」
そういう事なら、先輩達が来るまでブルーと話しをして過ごす事にしよう。
「だったら、ブルー聞きたいことがあるんだけどさ?」
「なんだ?わかる範囲なら答えてやるぞ」
「黒原ってどんな人でどんな式神を使ってたの?」
俺の質問を聞いたブルーは少しだけ険しい表情をしていた。
少し間をおいてから、ブルーは口を開いた。
「念のため聞くけど、何でそんな事を?」
「前に生徒会長の話しただろ。それから生徒会長と黒原って人、共通点がないか探したけど情報が少なくて」
「なるほどな。まあ、教えるのは構わないけど、前にも言ったように2人は式神が違うからな」
そう前置きした後、ブルーは黒原という人物について話してくれた。
黒原家の専門は情報収集と操作、それと被害防止が主だった。
ただ、最後の党首だったアイツだけは他に式神の存在、その性質や特性について念入りに調べていた。
元々、僕の専門に近い事もあって当時の党首とはよく話をしていたっけ。
でも、アイツが調べていたのはもっと根本的に、その存在を上書きするような術だった…。
アイツの式神、玄武は他の式神とは違い高い防御力を誇っていた。
玄武の作り出す水の障壁は、魔獣の進行を決して許さず、いかなる攻撃からも人々を守っていた。
そのおかげで僕達は魔獣討伐に全力を注げたし、周りを心配することなく本気が出せた。
決して派手な活躍ではないが、当時の五行機関のメンバー全員が、黒原に感謝していたのは間違いなかった。
あの事件が起きるまでは…。
ある日、黒原は式神の強さをより強める方法を見つけたと言って僕のところに来た。
でも、その方法はとても容認できるようなものではなかった。
アイツが見つけたその方法は、他の式神を自分たちの式神に食らわせるというものだった。
その方法の素晴らしさを証明すると言ってアイツは、僕の目の前で研究用に契約していたペンギン型の式神を玄武に食わせた。
「ふふふ、見てくれよ蒼井。水で守る事しかできなかった玄武が、あの式神の力を取り込んで強くなったんだ!」
黒原の言う通り、玄武が先程までと違う事はすぐわかった。
驚く僕をよそに、黒原が合図をすると、玄武は自分で作り出した水の障壁を一瞬で凍らせてみせた。
「どう?凄いだろ蒼井!」
「な、何言ってんだよ!こんな・・・こんな事して良いはずないだろ!」
黒原の異常性が怖くなった僕は、震える声でそう叫んだ。
「何を怒ってるの?こうやってあらゆる式神の力を僕達で取り込めば、どんな魔獣にも勝てるし雑魚でも役に立てて良いじゃないか?」
笑顔でそう言っているアイツの顔は今でも覚えてる。
アイツは自分達以外の式神を実験動物のように見ていたんだ。
それだけじゃない、さらにアイツはこう言った。
「雑魚なんて使っても強い魔獣には勝てない。どうせ他の人なんて役に立たないんだから、守ってあげる僕達の力になるのは良い事だろ?」
アイツは、神格以外の式神を使っている人間さえも自分達が守ってあげてる、自分を神か何かと勘違いしているようだった。
「お前…本気でそんな事言ってるのか?」
「…何が?」
「式神は道具じゃないんだぞ…。それに、役に立たないって街の人達の事そんなふうに考えてたのか!」
黒原の言葉に怒りが込み上げた僕は、そうアイツに叫んだ。
「……くだらないな」
そう言ってアイツは僕の部屋から出て行って二度と来る事はなかった。
それからしばらくして、あの事件が起きたんだ。
黒原は人知れず、玄武に式神では無く魔獣を食わせていたんだろうな。
僕達が気がついた時には、すでに玄武は本来の力を大きく上回る力を取り込んでいた。
「それからは残っている情報通りさ。アイツは重傷を負い、僕はアイツと戦って死んだ」
ブルーの話が終わり、俺は改めて黒原という人物がどれ程恐ろしい人間だったのか理解できた。
そう考えると、生徒会長は不思議な人だけど、被害者を考える気持ちを持った優しいところもあるようだしやはり違うのだろうか。
「うーん」
「神白、何そんなに唸ってるんだ?」
「いや、やっぱり違うかなって…」
「だから言ったろ僕の気のせいだと思うって」
確かにここまでの話で生徒会長と黒原が同一人物の可能性は低いのかも知れないと少し安心していた。
(まあ、どっちにしても邪悪な蛇って言ってたのは気になるし生徒会長には気をつけないとだけど)
そう思いながら、話もひと段落したので時計を見ると、すでに時間が20分も過ぎていた。
「もうこんなに経ってる!」
これ以上は待てないと思い探しに行こうとした時誰かが歩いてくるのが見えた。
「先輩!」
そう叫ぶと向こうから男の声で返事が聞こえてきた。
「どうかしたのか悠紀」
そう言って駆けてきたのは黄瀬先輩達だった。
「あ、すいません先輩違いです…」
俺がそう言うと、黄瀬先輩達は笑っていた。
「それにしても、先輩達もまだ出発してなかったんですね」
「あぁ、実は美緒がお弁当を作ってくれていてな」
黄瀬先輩はそう言って照れながらお弁当の包みを見せてくれた。
「それは良かったですね!でも、美緒がって2人で作ったんじゃなくて?」
「私は、一生懸命にお弁当を作る美緒ちゃんの応援係だから」
雪音は笑顔でそう言っていた。
「そ、そうなんだ。でも本当に羨ましいですね」
「何を言っているんだお前もだろ?」
「ちょっと!それ言っちゃダメだって葵達に言われたでしょ!」
美緒に言われて、黄瀬先輩はハッとした顔をしている。
その瞬間嫌な予感がした。
「黄瀬先輩2人がどこにいるか知ってますね?」
「いや、2人がサプライズにしていたなら余計な事は…」
その言葉で予感が確信に変わる。
「ブルーお前知ってたな!なんですぐ言わなかった!」
「いや、僕には一応お前が悟らないよう時間稼ぎを頼まれてたし…」
「裏切り者‼︎今からでも止めに行かないと」
駆け出そうとした俺をブルーが呼び止める。
「神白!」
「なんだよ!」
「……手遅れだ」
ブルーがそう言うと、校舎から2人の人影が重箱を背負ってきているのが見えた。
「神白先輩、遅れてごめんね〜‼︎」
「ごめんなさい悠紀君!お弁当が手間取って!」
「…あ、大丈夫ですよ全然…」
「えへへ、麗華と頑張って作ったから電車で食べようね♪」
「………はい」
「神白も大変だな。そういえば黒原最後に言ってた事伝え損ねたな…魔人がどうのって…。」
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