旧 第22話-後輩の過去と先輩-
あれからしばらく経ったが生徒会長が何かしてくることもなく、ただの杞憂だったのかと安心し始めていたある日。
いつも通り練習場に行くと麗華さんが一人で黙々と作業をしているのが目に入った。
「麗華さん何してるんですか?」
俺が尋ねると、麗華さんは慌てた様子で振り返った。
「悠紀君!!ごめんなさい集中してて気がつかなくて…」
「それは全然いいんですけど。それで何を?」
「もうすぐ実戦形式の課外授業の時期だから生徒会でその準備をしてるの」
麗華さんに言われ、もうそんな時期が近づいていた事に気がついた。
「課外授業?ってなにするの神白先輩?」
後ろで話を聞いていた夢乃先輩が不思議そうに尋ねてきた。
「課外事業は、何日間か魔獣の被害にあっている地域に行くんです。そこで実際に魔獣討伐をするって授業です」
「ふーん…って凄く危なくない!!」
慌てる夢乃先輩に書類に目を通しながら麗華さんが言った。
「大丈夫よ。学園で安全に対処できると判断したところしか行かないから」
「本当よ。それに去年の事もあるし…」
麗華さんは少し暗い表情で俺を見ながらそう言った。
「去年?」
「ごめんなさい。私…生徒会室に書類を届けてくるから」
麗華さんはそう言って慌てて部屋を出ていった。
二人っきりになり、夢乃先輩は俺にさっきの事を聞こうか悩んでいるのがわかった。
麗華さんが暗い表情をしていたから、聞いていいのか迷っているのだろう。
俺としてもあまり話したい話ではなかった。
しばらくの沈黙が続いた後、先輩が意を決して口を開いた。
「神白先輩!さっきの事なんだけど…」
――――ドン!
先輩がそう言いかけると、扉が息を勢いよく開いて慌てた様子の麗華さんが入ってきた。
「悠紀君!大変なの課外授業の行き先が…生徒会長が…」
俺は麗華さんのその言葉に嫌な予感がした。
――――生徒会室
「生徒会長どういう事なんですか?なんで去年俺が行ったのと同じ場所に行くんですか?」
「君の質問の意図がわからないな。課外授業は遊びじゃないんだから、去年と同じところになることだってあるさ」
俺の質問に生徒会長は笑って答える。
「そうじゃない!去年あそこで何があったか知ってるだろ!」
「去年?あぁ…生徒の一人が暴走したって事件ね」
「違う!!アイツは暴走なんかしてない!!」
頭に血が上り、今にも目の前の男を殴りそうな俺を揶揄うように生徒会長は話を続けた。
「君はそう言うけど、現場には危険な魔獣の痕跡は無かったって報告書にもあるよ?」
「だけど――」
「それに、君と黄瀬君は事件の後記憶が一部混乱しているって聞くけど?暴走した生徒の事どのくらい覚えているんだい?」
「……っ」
生徒会長に言われた事は事実だった。
俺は同じグループだった彼女の顔すら覚えていなかった。
小さなため息をつくと、会長は右手に持っていたペンを置き、諭すように語りかけてきた。
「いいかい?去年君たちは魔獣討伐できなかった。そのせいで今も苦しんでる人がいるんだから今年こそ頼むよ」
生徒会長にそう言われ、俺は仕方なく生徒会室を後にした。
「神白先輩!」「悠紀君!」
生徒会室を出ると2人が俺を待っていてくれた。
「どうでした?」
「ダメでした…。悔しいけど生徒会長の言う通りで…」
心配そうに尋ねる麗華さんに俺はそう答えた。
「ね、ねえ…。良かったら私にもわかるように説明して欲しいな…」
気まずそうな夢乃先輩にそう言われ、少し悩んだがあそこに行く以上は伝えておくことにした。
練習場に戻った俺は2人に去年の出来事を話した。
去年の課外授業、俺は黄瀬先輩とアイツと三人で町はずれの集落に向かった。
そこは、下級の魔獣が大量に発生していて重家にお年寄りが多いので死傷者も出ているという話だった。
集落に着いた俺達は、その日は宿に泊まって次の日の朝から山に入った。
話に聞いていた通りかなりの数の魔獣がいたが、いずれも下級だけあってそこまで苦労はしなかった。
ただ、これだけの数がいるという事はどこかに魔獣を呼び寄せている原因があるはず。
そう思った俺達は雑魚を倒しながらその場所を探していた。
3日程かけて恐らく発生地点と思われる場所を突き止め、最後の仕上げとしてそこに向かったところまでは確実に覚えている。
しかし、この後の記憶は曖昧だった。
覚えているのは、突然アイツの式神が魔獣に変わった事。
そして黄瀬先輩が俺を庇って負傷したこと。
そのせいで主の意識が弱くなった麒麟までもが暴走しかけた事。
そして暴走した麒麟の一部を俺が再契約して抑えた事だけだった。
「これが俺の覚えている事件の話です」
「……」「……」
俺の話が終わると2人とも深刻そうな表情で黙っていた。
「すいません。これから向かうのにこんな話…」
俺が謝ると2人ともハッとした表情をして大丈夫だと言ってくれた。
「でもさっきの話で分かったわ。それで悠紀君は麒麟の力を使えたのね」
「まあ、そうですね。黄瀬先輩が呼び出すのよりも優位性が上らしいのでむやみに呼び出したりは出来ませんけど…」
「そうなんだ…でも主が生きているのに再契約…しかも神格クラスをって悠紀君はやっぱりすごいのね」
麗華さんがキラキラした目でこっちを見ている。
「私は難しい事はわかんないけど…でも神白先輩が暴走したんじゃないって言うならきっとそうなんだよ!!」
「夢乃先輩…」
「だから、今度行くときに私たちがその人の無実を証明しよう♪」
夢乃先輩はそう言ってガッツポーズをしている。
「いや、流石にそれは…」
「そうね!悠紀君を馬鹿にした感じの生徒会長の態度も気に入らないし、私たちで証拠を探しましょう!!」
2人から凄くやる気と俺への思いやりも感じた。
だからこそ俺はちゃんと伝えておこうと思った。
「2人ともありがとうございます。でもそれは大丈夫です」
「どうして?」
2人が声を揃えて聞いてくる。
「俺が生徒会長に場所の変更を申し込んだのは、あの事件が辛いとか真実がどうかって事じゃないんです」
一呼吸おいてから、俺は2人の目を見て続けた。
「あの場所に行って、もし2人に何かあったらって不安だったんです…。2人が俺の事を思ってくれてるように俺も2人が大切だから」
我ながら、恥ずかしいことを言っていると思いながら最後まで続ける。
「でも、だからこそ逃げるんじゃなくて何があっても2人を守れるようになろうと思います」
俺がそう言うと黙ったまま2人とも下を向いていた。
「えっと…2人ともどうかしました?」
「れ、麗華…い…今のって…プ…」
「夢乃…や、やっぱり…そうなのかな…」
何かぶつぶつ言っている2人に近づくと、2人は慌ててドアの方に走り部屋を出て行ってしまった。
「……?前に黄瀬先輩に言われたこと、俺にはちょっと恥ずかしいセリフだったかな?でも
少しして、この話を美緒にしていたところ、近くにいた黄瀬先輩から話を聞いた二人の誤解は解けたのでした。
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