旧 第21話-後輩とブルー-

 「神白君、ちょといいかな?」

 集会が終わり生徒たちが教室に戻り始める頃、俺は生徒会長に呼び止められた。

 「え、あ…はい、大丈夫ですけど何ですか?」

 正直、集会中に目が合っているだけに、何か怒られるのではと思って嫌だったが逃げるわけにもいかない。

 

 「君、集会中に――」

 ほら来た。そう思いながらも俺は、生徒会長の言葉を黙って聞く。

 「集会中に変なのと喋ってたけど、アレはなんだい?」

 「え…そっちですか?」

 予想と違う言葉に俺は、思わず聞き返してしまった。

 「うん?あぁ、集会中お喋りしてたから怒られると思ったのかい?」

 生徒会長は笑いながらそう聞いてきた。


 「まぁ…普通はそっちだと思うんですけど…」

 俺がそう答えると、生徒会長は怒るどころか楽しげに答える。

 「馬鹿だな君は。僕はあくまでも生徒会長だよ?教師ならともかく、所詮は今の僕はあくまで生徒の長だ。耳を傾ける気になれなかったとしても怒らないよ」

 思いがけない言葉に驚きつつ訂正する。

 「いや、耳を傾ける気がなかったなんてそんな事は!あの時はその…ブルーが…」

 「ブルー…それがさっきの変なのの名前かい?」

 俺の言い訳には興味ないのか、最後に呟いたブルーの名前を聞き逃さなかった会長に詰め寄られる。


 「え、はい。そうですけど…」

 「ブルーか…中々お似合いの名前だな」

 何か呟いて笑っているようだがよく聞き取れない。

 「生徒会長?」

 「うん?あぁ、悪いね。そうかブルーって言うのか君が捕まえたの?」

 「別に捕まえたわけじゃないです!ブルーは先輩が気に入っただけで」

 「先輩?……あ、なるほど」

 会長はそう言うと、くるりと向きを変えた。

 「知りたいことはそれだけだから、引き留めて悪かったね」

 まるで、飽きたと言わんばかりの態度に若干苛立ちを覚えながらも俺はお辞儀してその場を後にすることにした。


 少しイライラしながら歩いていると、生徒会役員の1人が近づいてきた。

 「あの、すいません…先ほど会長と話してましたよね?」

 「…それがどうかしたの?」

 腹を立ててる相手のことを言われて少し冷たくそう返す。

 「す、すいません…何か副会長の事言ってたかなって…」

 「副会長?…麗華さん!麗華さんがどうかしたの?」

 急に麗華さんのことを言われ、俺は慌てて尋ねた。

 「あ、いえ!!会長が集会の前に書類の山を押し付けてて今も一人で作業してて…」

 「麗華さん一人で?」

 「はい…会長から手伝うなって言われてて…」

 あの会長は一体何を考えているのか。

 俺だけじゃなくて麗華さんにまで嫌な思いをさせてるなんて。

 「もし会長から麗華さんの手伝いを言われたなら私たちもと思ったんですけど…その感じだと関係なかったみたいですね。すいません…」


 そう言って生徒会役員の女の子は頭を下げている。

 「そんな頭下げないで!君が悪いわけじゃないし。――でも、なんで俺が会長と話してて麗華さんの事だと思ったの?」

 そう聞くと、女の子は顔を上げて少し赤くなりながら答えた。

 「だ、だ、だって先輩は…副会長の彼氏さんなんですよね?」

 「……は?」

 「お話はいつも生徒会室で聞いてます!先輩が副会長を颯爽と現れて助けてくれた出会いとかその後のあれやこれや!うぅ…思い出したらこっちが恥ずかしい…」

 「理由はわかったありがとう。でも多分それ、だいぶ違うから」

 「えぇーー!!違うんですか?」

 ショックを受けたのか女の子は少し落ち込んでいるようだったが、間違えた情報で噂が流れる困るので俺はしっかりと訂正した。


 その後、夢乃先輩と一緒に生徒会室に麗華さんを励ましに行こうかと思ったが邪魔になって麗華さんがあの会長に怒られたらと思い立ち寄らずに帰った。


 ――――放課後

 夢乃先輩といつもの練習場に向かっていると、途中でご機嫌の麗華さんがやって来たのでいつも通り3人で向かうことにした。

 (仕事押し付けられてたのに、麗華さんなんでこんなにご機嫌なんだ?)

 2人を連れて練習場に着いた俺は、先輩に頼んでブルーを呼んだ。

 

 「おう、呼ばれて来てみたブルーだぜ!」

 「ブルー…いまいちキャラ定まってないな…」

 「うるさいな!こんな姿になったから模索してんだよ!」

 少し滑り気味なブルーを冷ややかに見つつ集会の時の疑問を聞いてみた。


 「ブルーなんであの時急に出てきたんだ?」

 俺がそう尋ねるとブルーは先輩の方をチラチラと確認しながらはぐらかす。

 「いや、なんて言うか…ほらこの時代の学校ってどんなか気になったって言うか…」

 明らかに先輩を気にしている、そう思った俺は先輩を呼んだ。


 「神白先輩どうかしたの?」

 「あっと…そう!お腹が減ったんで何か買ってきてくれませんか?」

 「うん?いいけど…何が食べたいの?」

 「え、…とにかくおいしいもので!」

 唐突な俺の態度に少し疑問を持っているようで、先輩は中々買い物に行ってくれない。

 すると、視界の隅で俺達の会話を聞いて何か考えていた麗華さんが突然走ってきて先輩の腕をつかむ。

 「ちょっ!どうしたの麗華!!」

 「夢乃いいから、ほら美味しいもの探しに行くわよ!」

 そう言うと麗華さんは強引に先輩を連れだす。

 

 「麗華さん俺が困ってるのに気がついて手伝ってくれたのかな?」

 不可解な行動の気もしながらも、麗華さんのアシストに感謝してブルーとの話を続ける。

 「ブルー、先輩が戻る前に教えて。何を気にしてたの?」

 「はぁ、わかったよ。あの会長似てるんだよ少しだけ」

 「似てる?」

 「あぁ、僕を殺した黒原にな。でも本人にしては質が違うからな…」

 思いがけない名前に驚いたが、質が違うという言葉が気になりさらに尋ねる。

 「質っていったい何?」

 「この体になってわかったんだけどな、契約してる式神には質があるんだよ。例えば――」

 

 試験なんかで使う簡易式神アレは質が殆どない。

 スノーみたいなクラスのならある程度の質があるから誰と契約してるか感知しやすい。

 神格クラスの式神、青龍や白虎なんかだと太陽みたいにどこからでもわかるけどその規模がでかすぎて逆に誰の式神かピンと来ない感じだな。

 

 「で、あの生徒会長の式神はすぐにわかった蛇だ。つまり神格クラスじゃないってことだ。それに…」

 「それに?」

 「かなり邪悪な質の悪い蛇だ」

 「なるほどね…。でも、なんでその話を聞かせたくなかったんだ?」

 確かに少し重い話だけど、今の話は別に先輩には関係ない気がする。

 「そんなの決まってんだろ!あの子にこんな話聞かせて、不安にさせたくなかったんだよ…」

 「ブルーってば過保護だな。先輩はそんなの気にしないって」

 「そうじゃない!あの蛇は魔獣に近いんだ。それでお前ならわか――」

 ブルーはそこで言葉を遮るとキーホルダに戻った。

 すぐに理由はわかった。

 扉が開いて先輩たちが入ってきた。

 (先輩たちが近づいてることに俺は全然気がつかなかった、これがさっき言ってた感知して場所がわかるってやつか)

 

 「おかえりなさい先輩、麗華さん、すいません急にご飯買ってきてなんて言って」

 俺がそう言って振り返ると2人は後ろに手を隠し満面の笑みで立っていた。

 少し疑問に思ったのは2人とも袋を持っている様子もない事だ。

 「あれ、もしかして売ってませんでしたか?」

 俺がそう聞くと2人はお互いの顔を見合わせて、タイミングを合わせると隠していたものを目の前に見せてくれた…。

 

 「…うっ…これ、は?」

 目の前には調理実習で見慣れた学園で使っているお皿に、大量の料理が盛りつけられている。

 「麗華がね、「悠紀君が美味しいものを食べたいって言うなら愛情込めて作る。それが出来る彼女なのよ!」って♪」

 「もう、夢乃だって「そうだね♪麗華2人で最高の料理作ろう♪」ってノリノリだったじゃない!」

 どうやら俺は頼み方を間違えたらしい…。

 何故か上機嫌の麗華さんは、俺を喜ばせようとわざわざ俺のために美味しいものを作る方に発想が向かってしまったようだ。

 

 「さあ悠紀君」「神白先輩♪」

 皿をグイグイ近づけてくる2人は、ご機嫌な様子で声を揃えて言った。

 「召し上がれ♪!」

 

 


集会後――――生徒会室

 「はぁ…すぐにでも仕事終わらせて、1秒でも早く悠紀君の所に行きたいのについてないわ…」

 生徒会室にある自分の席に座りながら、雑務をこなす麗華は廊下を通る生徒に聞こえる可能性も気にせず、一人ぼやいていた。

 麗華の机には、見るだけで嫌になるほどの山積みの書類が積まれている。

 集会が始まる直前、生徒会長から副会長の仕事として渡されたものだ。

 普段なら他の役員も手伝ってくれるのだが、何故か今回は生徒会長の命令で麗華のみで集会にも参加しないでやるように言われてしまった。


 「なんでこんな量を私一人で…うぅ…終わる気がしない…」

 いくらやっても減らない書類の山に麗華がうんざりして項垂うなだれていた、すると廊下を通る生徒の話し声が声が聞こえた。

 「そういえば、麗華いなかったね?」

 「生徒会長に頼まれた仕事で手が離せないんだって。麗華さんっていつも頑張ってるよな…俺ももっと努力しないと」

 「そうなんだ、麗華は偉いね♪でも神白先輩も十分頑張ってるよ♪」

 聞き覚えのある声、それが悠紀と夢乃の声であることはすぐにわかった。


 「悠紀君が頑張ってて偉いって言ってった!!――何を弱音はいてたの麗華!このくらいの書類すぐに片づけて会いに行かなくちゃ!」

 聞こえた会話を、少し脳内変換した麗華はやる気に満ち溢れ次々と書類を片付けていった。

 

 

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