旧 第20話-新学期と先輩-
「先輩…でも…俺が守ります…」
窓の隙間から差し込む朝日で、夢乃は目を覚ました。
目覚める前の一瞬、夢で見た昔の出来事に、少しだけ夢乃は物思いにふける。
「…絶対守ります…か」
そう呟くとベットから出て身支度を始める。
身だしなみを整えて、制服に着替えた夢乃は鏡を見ながら自分に言い聞かせる。
「今日から楽しい新学期だもん!朝から浮かない顔してたら幸せになれないよ♪」
そう言って鏡の自分にウインクをして気持ちを切り替えると、部屋を出て学園に向かって歩き始める。
広い学園の敷地内では、寮から学園までも結構な距離がある。
見慣れた学園への道を歩いていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。
「夢乃先輩!」
そう呼ばれて振り向くと、いつもの優しい笑顔で手を振ってくれている神白先輩の姿があった。
「あ、おはよう神白先輩♪」
私も笑顔で手を振って答えた。
俺が声をかけると、先輩は笑顔で手を振ってくれた。
後姿が、どこか悩んでるような気がしたから心配だったけど気のせいだったのだろうか?
そんな事を考えながら、俺は先輩の横に着くと同じ歩幅で歩き始めた。
「今日から新学期ですね先輩」
「そうだね!夏休みも神白先輩と麗華とは殆ど一緒だったからあんまり変化ないけど、クラスの友達に会えるのは楽しみだな♪」
先輩はそう言って笑って見せた。
「確かにそうですね」
俺がそう答えると同時にもう一人の声が聞こえた。
「確かにその通りですわね!まあわたくしは悠紀君がいるならそれだけで何より幸せで楽しいですけど!」
いつの間に近くに来ていたのか、横に振り向くと麗華さんが立っていた。
(全然気配を感じなかった…)
「あ、麗華おはよう♪」
「えぇ、夢乃もおはようございます」
麗華さんと夢乃は、お互いに笑顔であいさつを交わすと俺の腕にしがみついてきた。
「…え?」
俺が理解できないでいると、2人がいつものように揉め始めた。
「麗華ってば何してるかな?神白先輩が嫌がってるよ?」
「夢乃こそ悠紀君が歩き難そうよ?」
笑顔は崩さないままお互いに牽制しあう2人。
夏休み最後の出来事が気がかりだった俺は、いつも通りの光景に少し安堵しながら2人と学園に向かう。
(他の生徒の視線はめっちゃ痛いけどな…)
学園に着くと入り口に2人の1年生が待っていた。
「あ、葵やっと来た!」
「本当だ!あおちゃんおはよう!」
その声を聴いて先輩は嬉しそうに手を振る。
先輩の一番の友達、美緒と雪音が学園に復帰したことを伝えるために待っていたようだ。
2人は退育祭の時に襲われしばらく学園に来ていなかったが、先生の言う通り新学期から来られたようで良かった。
先輩は、2人のそばまで来ると嬉しそうに話し始めた。
そんな先輩を見て嬉しく思う俺に、麗華さんが話しかけてきた。
「良かったでわね。時々悠紀君がクラスメイトと話す夢乃を凄く嬉しそう見ていた理由が今なら少しだけわかりますわ」
「…そうですね」
俺は少しだけ考えてそう答えた。
「あ、神白先輩!その節はありがとうございました」
「私たちが助かったのは先輩やあおちゃんのおかげです」
近づくと2人はそう言ってお礼を言ってきた。
「気にしないでいいよ。むしろ、あんなことになるまで気がつけなくてごめん…」
「そんな、全然先輩のせいじゃないし気にしないでください!」
「そうですよ!新しいパートナーも優しい方ですし」
2人のその言葉で、俺は少しだけ安心した。
「そういえば2人の後任って誰なの?信頼できる人をつけるとは聞いてたけど…」
俺がそう聞くと2人は顔を見合わせて笑い始めた。
俺が不思議に思っていると2人の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「美緒、雪音そろそろ教室に行かないと遅刻するぞ」
そう言って学園教室の方から歩いてきたのは黄瀬先輩だった。
「黄瀬先輩!え、もしかして二人の後任のパートナーって…」
俺が尋ねると美緒はちょっと残念そうに答える。
「残念!もうちょっと焦らしたかったけどバレちゃったか」
「もう美緒ちゃんてば、私は2人に早く伝えようと思ったのに驚かせたいからって口止めされてて…」
2人の話を聞きながら、確かにこれなら安心だなと俺は思っていた。
「黄瀬先輩、先輩がまたパートナーを作ってくれてよかったです。俺が言うのも変だけど…2人の事お願いしますね」
「あぁ、本当はまた2人も弟子を作るのは避けたかったんだが…」
そう言って少し目線を逸らした先輩の腕を美緒が掴んだ。
「またそんなこと言って!私は黄瀬先輩じゃないと絶対嫌だからね!!」
「う、うむ…それはもうわかったから少し離れないか…」
「えっと…」
2人の距離の近さに俺が困惑していると雪音が補足するように説明をしてくれた。
「あはは…驚きましたよね。実は、美緒ちゃん前にあった時から黄瀬先輩の事凄く気に入ってたらしくて」
「あー!確かに黄瀬君の事、凄く話してたよ!確か…神白先輩と麗華の勝負の後くらいから」
雪音の話を聞いて、夢乃先輩も思い出したらしくそう付け足す。
「そうなんだよね。それで学園の人が来た時に美緒が『後任は黄瀬先輩じゃないと信用出来ません!』って言って」
「それで黄瀬先輩が後任になったんですね」
「うん、最初は自分の選んだ後任でって断られたらしいんだけどね。美緒がお見舞いに来てもらった時に折れるまで猛アプローチしてね…」
少し苦笑いしながら雪音が経緯を説明し終わると俺達はまた2人に目を向けた。
「こ、こら近すぎだ!離れないか美緒!」
「えー、あたしまだ傷が痛むから少しだけ支えててほしいな…」
そんなやり取りをしている2人を見て微笑ましいながらも少し呆れ気味な俺達。
すると横で雪音が俺に耳打ちしてくきた。
「先輩、呆れた顔してますけど自分のことわかってます?」
そう言って笑う雪音。
そして俺は改めて自分の今の状況に気がつく。
夢乃先輩と麗華さんに腕を組まれているこの状況は確かに黄瀬先輩たち以上に目立っているだろうと…。
「ほ、ほら夢乃先輩も2人も早く教室に行かないと!!」
俺は慌てて手をほどくと1年生達にそう促した。
「あ、そうだった!じゃあまたね神白先輩♪」
「仕方ないか…後でね黄瀬先輩!」
「ふふ…それでは失礼しますね先輩方」
そう言って教室に向かう3人を見送る。
「はぁ…悠紀…お疲れ様」
「黄瀬先輩こそ…」
俺達は少し疲れ気味にお互いを労う。
「本当にもう、夢乃のもあの1年生も仕方ないんだから!ねえ悠紀君!」
「……麗華さんも離れてください」
「…えーーー!!!」
騒がしい朝の時間から少し経ち、午後には全校集会が行われた。
学園長の話は、長くてあんまり覚えてないけどなんか良いことを言ってた気がする。
そして最後に生徒会長の挨拶が始めた。
会長は置いてあったマイクを左手に持つと、舞台の上を歩きながら生徒全員に語り掛けるように話し始めた。
その声に反応するように先輩のそばから突然ブルーが現れた。
「この声…あの男誰だ?」
「ブルー?何勝手に出てきてるんだよ!」
俺は周りに迷惑が掛からないように小さな声で怒るがブルーは構わず質問してきた。
「いいから!あの男誰なんだ?」
あまりの気迫と、答えないと戻りそうにないので俺は渋々答える。
「生徒会長の玄野さんだよ」
「玄野…」
そう呟いてブルーは少し真剣な表情を浮かべていた。
俺達が話していたのに気がついたのか生徒会長がこちらに目を向ける。
「――ッ」
会長がこちらを向く寸前、ブルーは突然先輩のキーホルダに戻った。
「何だったんだ?」
ブルーの様子が気になった俺は、後で確認しようと思いながら集会が終わるのを待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます