旧 第19話-お祭りと先輩-

 夏休みが終わる3日前、俺はいつものように先輩や麗華さんと一緒に過ごしていた。

 「もうすぐ夏休みも終わりですね」

 「そうね。今年の夏休みは色々あったけど、一番楽しくてあっという間だったわ」

 「私も私も!去年は一応してた受験勉強で大変だったし…それに比べて!今年は神白先輩と麗華とずっと一緒だったから最高だったよ♪」

 そう言って先輩と麗華さんは笑っていた。

 そんな2人を見ていると自然と自分も笑顔になっていることに気がついた。


 「あ、神白先輩笑ってる!」

 「本当!笑っている悠紀君も素敵」

 「あ、あははは」

 麗華さんのこの感じにもだいぶ慣れてきた…。


 「そういえば夢乃、貴方が夏休みがないほど勉強していたなんて以外ね。勉強は私より出来てるし、あなたの性格なら遊んでそうだけど」

 麗華さんが揶揄ったように言う。

 「え、あ、ほらそれは!去年の勉強の成果ってやつ!」

 慌てて先輩は誤魔化している。

 麗華さんは気にしていないのだろうが、隠している先輩としては余計なことを言ったと気が気ではないようだ。

 

 「先輩、揶揄ってるだけですから落ち着いて」

 俺は先輩の耳元でそう呟く。

 「あ、うん。…もう!麗華ってば酷いなー!!」

 「貴方の反応が可愛いからつい、ごめんね」

 そんなやり取りをやり取りをしている2人を横目に一枚のポスターが目につく。


 (夏祭りか…)

 「どうかしたの悠紀君?」

 「ボーとしてると危ないよ神白先輩?」

 「あ、すいません大丈夫ですよ。そろそろ遅いし帰りましょうか」

 そう言うと俺は2人を送って帰った。


 ――次の日

 朝一番で先輩に呼び出させた俺は、学園の図書館に向かった。

 「先輩いますか?」

 そう言いながら扉を開けると、中には眼鏡をかけた先輩と少し泣きながらペンを握る麗華さんがいた。

 「えっと…これは…」

 状況が読み込めずに立っていると、先輩が気がついて手を振ってきた。

 「あ、神白先輩♪こっちこっち!早く来て」

 「うぅ…悠紀君…助けて…」

 嬉しそうに俺を呼ぶ先輩と対照的に、麗華さんには泣きながら助けを求められた。


 「あの、これって?」

 「実はね、麗華が夏休みの宿題終わってなかったの!しかも殆ど!」

 「え、そうなんですか!?」

 「だから私が勉強見てるって訳。ね、麗華」

 「うぅ…後輩に勉強教わる羽目になるなんて…」

 そう言って麗華さんは泣きながら問題を解く。

 「あ、それ間違ってるよ」

 

 俺は、夏休みの初めと真逆の2人に思わず笑ってしまった。

 「笑うなんて酷いよ悠紀君…」

 「ほら、そんなこと言ってないで次の問題答えないと!神白先輩も笑ってないで教えるの手伝って!」

 「あはは、ごめんなさい。じゃあ、麗華さん一緒にがんばろ」

 それから俺達は、宿題を終わらせるため協力して麗華さんの手伝いをした。


 思いのほか時間がかかったが、何とか麗華さんは最終日の前日に宿題を終わらせた。

 「頑張ったね麗華!お疲れ様♪」

 「うぅ…ありがとう…夏休み最後の思い出がこれなんて…」

 疲れ切った表情の麗華さんは、うなだれながらそう呟く。

 麗華さんのその言葉を聞いて、俺は夏祭りのポスターを思い出した。

 「そうだ!先輩、麗華さん、明日頑張ったご褒美にみんなで夏祭りに行きません?」

 「え、夏祭り!!行きたい行きたい♪」

 「私も行きたい!夏休み最後の思い出が宿題地獄なんて嫌!!」

 「じゃあ明日一緒に行きましょう」

 「うん♪」「わかったわ!」


 ――夏祭り当日

 「2人とも遅いな…」

 いつものように迎えに行くといったが、2人ともここで待っていて欲しいというので仕方なく神社で待ち合わせになった。

 時計を見ながら、待ち合わせ時間を過ぎても来ない2人を心配していると突然声をかけられた。

 「お、お待たせ。悠紀君…」

 「えへへ、着替えに手間取っちゃった♪」

 そう言われて顔を上げると、浴衣に身を包んだ二人が立っていた。

 「……」

 「あ、あの悠紀君?変だった…」

 「神白先輩?なんか言ってよ?」

 俺は、2人にそう言われて我に返る。


 「す、すいません!その…2人とも凄く綺麗で見惚れちゃって…」

 「き、綺麗!!!」

 「嬉しい!ありがとう♪」

 2人の浴衣姿に自然とその言葉が出た。

 言った後少し恥ずかしくなったが、2人の反応を見て照れずに伝えてよかったと改めて思った。


 「は、早く行こうか。先輩、麗華さん」

 「はい!」「うん♪」

 2人を連れてお祭り会場に向かう。

 お祭りが始まると、2人は燥いで色んな屋台を見て回った。

 そんな2人とはぐれないように俺は後ろからついていく。


 「見て見て麗華!凄い大きな綿あめだよ!!」

 「本当ね!食べてみましょう!」

 楽しそうな2人の姿に来てよかったと心から思った。

 時計を見ると、そろそろ花火の時間が近い。

 綿あめをもって嬉しそうに前を歩く2人にその事を伝えようとした時前から先輩の名前を呼ぶ声が聞こえた。


 「もしかして…やっぱり夢乃!!」

 「え…?」

 突然呼ばれた先輩は誰だかわかっていないようだ。

 「もーわかんないの?同じ学校だった鈴だよ!」

 そう言われて先輩は少し俯いて考えてから顔を上げた。

 「鈴!!雰囲気が違うからわかんなかったよ!」

 「えー、それを言うならそっちもでしょ!」

 そう言って話す2人を、俺と麗華さんは後ろから見ていた。


 「うん?後ろの2人は?」

 「あ、麗華と神白先輩だよ!」

 「へーそうなんだ!初めまして、夢乃の同級生で今は〇〇大学に通ってる赤根鈴です!」

 その挨拶を聞いて、俺と先輩は顔を見合わせる。

 「え、大学?同級生?」

 麗華さんは予想してなかった単語に混乱しているのがわかる。

 「あの、麗華さん――」

 「はい!先輩ってことはそっちの人は大学生なんでね!」

 鈴という女性は、麗華さんにフォローを入れようとした俺に話を振ってくる。

 「え、いや、あの…」

 「あれ、でも確か神白って名前…」

 「鈴!!あっちで話そう!」

 そう言って先輩が鈴さんを引き離す。

 俺はその間に、驚いて固まっている麗華さんを人ごみから引き離した。


 麗華さんが落ち着くのを待って尋ねる。

 「あの、麗華さん…さっきの事なんですけど」

 「…大学生ってどういう事?」

 「…すいません。今まで隠してたんですけ先輩は高校卒業してるんです」

 俺は、麗華さんに今までの事を順を追って話した。


 「はぁ…だから私より勉強できたのね、納得」

 「あの…怒ってないんですか?」

 「勿論、本来高校を卒業しているのにうちの学校に来てるなんて学園の決まりに反しているし、退魔師の適性を隠してたことも怒ってるわよ」

 「…すいません。でも――」

 「でもね」

 弁解しようとした俺の言葉を麗華さんが遮る。

 「でもね、今はそれ以上に本当の事が知れてよかったの」

 「…え?」

 「ずっと気にはなってたの、なんで悠紀君は夢乃の事を先輩って呼ぶのかなとか。たまに2人で何か隠してるみたいだなって」

 「……」

 

 「だから今は…怒るよりも嬉しいの。これで2人と同じ秘密を知れた本当の友達になれて!」

 麗華さんは笑顔でそう言うと突然駆け寄ってきた。

 「ちょ、麗華さん!?」

 「…大丈夫、夢乃は私の大切な友達だから秘密は言わないよ」

 麗華さんのその言葉に、俺は安心と共に、今までどれだけ仲良くしていてもどこかで麗華さんに話すことを躊躇っていた自分が申し訳なくなった。


 「…ありがとう麗華さん」

 「…うん」

 小さくつぶやいたお互いの声が聞こえるほど辺りは静まりかえっていた…。


 「ふぅ…全く、鈴てば余計な事…を?あーーーー!!」

 静けさを引き裂いて先輩が駆けよってくる。

 「ちょ、ちょ、ちょっと!!麗華ってば何してるの!神白先輩も!!」

 夢乃先輩の慌てように俺まで恥ずかしくなり、慌てて麗華さんを引き離す。

 「ち、違いますよ先輩!」

 「ふふふ、夢乃がどこか行くから悪いんでしょ?」

 慌てる俺と対照的に、麗華さんはさっきまでと違い、いつものように先輩を揶揄う。

 「だ、だって!!ていうか…麗華聞いてないの…?」

 「聞いたわよ?でも、今のあなたは私の友達でライバルそれに変わりないでしょ?」

 麗華さんのその言葉に、夢乃先輩は少し驚きながらも笑顔で答える。

 「――っ!!うん♪」

 本当の意味で友達になった2人を祝うように花火が打ちあがる。


 「わぁー綺麗!!」

 「本当ね!…こんなに綺麗な花火を大切な人達と見れるなんて…最高の夏休みだったわ」

 「俺もです…夢乃先輩、麗華さん…明日からもよろしくお願いしますね!」

 「うん♪」「勿論よ!」

 こうして夏休みは終わりお迎えた。

 

 

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