旧 第16話-青い龍と先輩-Ⅱ

 セミの鳴き声が響く中、俺達は先輩が見た夢を頼りに、学園から離れたところにある森に来ていた。

 今は亡き、蒼井の家があったこの場所で、一体何が待っているのか…俺には未だに少しだけ不安があった。

 

 「わぁー!凄い森だね♪神白先輩も麗華も早く!」

 「い、今行きますから…先輩、少し待って…」

 「あの子は…こんなに険しい森で…なんで、あんなに元気なのよ!?」

 俺の心配をよそに、学園を出発してからテンションが上がっていた先輩は、森に入ってからも早いペースで進んでいた。

 そんな先輩とは対照的に、予想以上に道が険しかったため、森に入って少し歩いた時点で俺と麗華さんは体力をかなり消耗して疲れ切ってしまった。


 「そういえば先輩、昔…登山部に入るって…言ってたような…」

 中学卒業前に、先輩がそんな事を言っていたのを思い出した。

 「…悠紀君、何か言った…?」

 「え、あ、何でもないですよ!」

 疲れで思わず思ったことがそのまま口に出ていたみたいだ…。

 

 「このままだと、俺も麗華さんも遭難するな…先輩!ちょっと休憩しませんか?」

 俺は、先を行く先輩に呼び掛けた。

 ――――

 「…先輩?」

 「ちょ、ちょっと…夢乃?返事しなさいよー」

 少し待っても、先輩の返事が返ってこない。

 「さっきまで、すぐそこにいたはずだけど…」

 森に入ってから先輩は、後ろを何度も確認していた。

 疲れてきている俺達と、距離が離れないように気を使ったていたのだろう。

 

 そんな先輩が、俺達に気がつかないで先に行くはずがない…。

 「麗華さん、少しここで休みましょう」

 「え、でも、夢乃が――」

 「いいから、ここで休まないと…いざって時に困るから…」

 俺がそう言うと、何かを察したのか、麗華さんは黙って頷き近くの木に寄り掛かった。

 

 先輩が俺達に気がつかないで先に行くはずがない…となれば、先輩は恐らくによって俺達と引き離されたのであろう。

 それが何なのかはわからない…でも、もしそいつを見つけたとしても、今の俺達ではろくに戦えないだろう。

 悔しいが、今は少しでも休んで先輩を探し始めるのが得策だ。

 それに、もしかしたら…本当に先輩が、1人で気がつかないで進んでるかもしれない…俺はそう自分に言い聞かせた。


 「…先輩」


 ――――その頃夢乃葵は、はぐれた2人を探して森を歩いていた。

 「神白先輩!麗華!――ダメか…」

 (後ろは気にしてたのに、いつの間にか2人とはぐれちゃった…)

 夢乃は、2人がついて来ていないことに気がつき、すぐに引き返したが全く合流できずにいた。

 

 「2人ともかなり疲れてたし…そんなに離れてるはずないのにな…」

 見知らぬ森の中で疲れた2人が無事か、夢乃は心配で仕方がなかった。


 ――――2人なら、大丈夫だよ。


 「え、誰!」

 急に聞こえてきた声に、夢乃は思わず驚いて大きな声を出した。

 「あははは、お姉ちゃん驚きすぎだよ」

 夢乃は、笑い声のする方に目を向けた。

 そのままよく見ていると、少し離れた森の木の間から人影が現れた。

 

 「――!君は!」

 再び驚いて、夢乃は大きな声を出す。

 「お姉ちゃん、よく驚くね」

 少し笑いながら、少年は夢乃の前に歩いてきた。

 「君って…蒼井君?」

 夢乃は、恐る恐る聞いてみる。

 目の前にいる少年は、学園で見た資料の写真によく似ていた。

 それに、間違いなく自分の夢に出てきた人物だった。

 

 「うん…蒼井だよ…」

 少年は、少し元気なくそう答える。

 「え、えっと…も、もしかして!お化け!?」

 夢乃は、少しおどけた様子でそう尋ねる。

 少年は、夢乃の様子から気を使っていることを察したのか、少しだけ笑顔を作って答えた。

 「うーん、ちょっと違うかな?今の僕は、が力の一部を使って実体化させてくれてるんだ」

 「…あの子?」

 「うん、僕の大事な家族…」

 「そうなんだ…。そうだ、そこまでして私を呼んだのはどうしてなの!」

 問いかける夢乃に、少年は背を向け歩き始めた。


 「ついて来て、お姉ちゃん」

 「…」

 夢乃は、黙って頷くと少年の後を追いかけた。

 

 しばらく進むと、森を抜け少し開けた場所に出た。

 「…ここって」

 「ここは僕が眠った場所…その時の影響でここは未だに木が育たないんだ」

 少年は少し悲しげな表情でそう語る。

 「さっき、なんで呼んだのか聞いたよね?」

 「え、うん…」

 「僕が呼んだ理由は、もう本当はわかってるんでしょ?」

 少年に言われて、夢乃は少しハッとした。

 そして、少年に改めて質問する。


 「うん…私を呼んだのは…私の式神の事?」

 「…そうだね。お姉ちゃんの式神の事で呼んだのは当たり」

 「やっぱり…」

 「でも半分だけだね、もう一つ理由はあるんだ」

 少年の意外な言葉に、夢乃は驚いた。

 てっきり、自分の変質した式神が呼ばれた理由だと思っていた。

 しかし、面識のない昔の偉い人が他にも自分に用があるとは思っていなかったのだ。


 「え、他の理由って――」

 「ごめん、それより先に式神を出してくれる?」

 まだ、状況は理解できていなかったが、夢乃は言われた通り式神を呼び出す。


 「うーん…-ヘル-か。でも、何か…」

 「――!」

 少年の言葉に、夢乃は慌てた。

 「…?お姉ちゃん、心当たりあるの?」

 「え、い、いや、ないよ?」

 「どう見ても慌ててるけど…まあいいか」

 少年が思いのほか追及してこなかったので、夢乃はホッとしていた。


 「ねえ、お姉ちゃん!」

 「ひゃい!!」

 気が緩んでいたのか、変な声で返事をする夢乃。

 「これ、戻していい?混ざってるものを浄化したら、今より弱くなっちゃうけど?」

 「え、戻せるの?」

 戻せるとは思っていなかった夢乃は、少年の言葉に嬉しそうに聞き返した。


 「うん、これくらいならね。でも弱くなっちゃうよ?」

 「そんなの良いよ!だって…多分、今この子凄く苦しんでるもん…」

 夢乃の言葉に、少年は少し嬉しそうな表情をして答える。

 「わかった。良かった、お姉ちゃんが優しい人で」

 「…え?」

 「もし、弱くなるなら戻さないって言ったら…青龍の力で大変なことになってたよ」

 少年は子供らしい笑顔で、恐ろしい事を伝えてくる。

 「あ、あははは…良かった…間違えなくて」

 夢乃は少し強張りながら笑顔を作り返事をした。


 「それじゃあ、この子の混ざり物は取るから安心して――それで、もう一つの話んだけどね?」

 少年は、真面目な表情で夢乃に語り始めた。

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