旧 第15話-青い龍と先輩-Ⅰ

  ――――ドタンッ

 「――神白先輩!麗華!」

 俺と麗華さんが昨日と同じ図書館で待っていると、物凄い勢いで先輩が飛び込んできた。

 「先輩っ!どうしたんですか!?そんなに慌て――」

 「昨日言ってた蒼井って人の家ってどこにあるの!?」

 俺が聞き終えるよりも先に、先輩は慌てた様子で質問してくる。

 「え…えーと…」

 予想していなかった急な質問に驚き、俺は麗華さんに視線を送った。

 それに気がついたのか、麗華さんが近くにあった地図を取り、机に広げ始める。

 「もう、朝から一体どうしたの夢乃。とりあえず、教えるからこっちに来て」

 

 麗華さんに呼ばれた先輩と一緒に、俺も地図を覗き込む。

 「蒼井の家があった場所はここ。学園からだと電車で1時間くらいかしらね」

 「電車で1時間か…」

 麗華さんの話を聞く先輩の表情は、いつになく真面目だった。

 「…先輩、一体どうしたんですか?」

 先輩の様子が気になった俺は、何があったのか尋ねた。


 「え…。うーん、なんて言ったらいいのかな…」

 答え難そうな先輩の様子を見て、俺達は益々原因が気になった。

 「もしかして…何か、私達には言えないような理由があるの?」

 麗華さんも心配そうに尋ねる。

 「え、えーー!ち、違うよ麗華!――えっと…実はね…」

 

 「夢の中に出てきた男の子が教えてくれた!?」

 先輩の予想していなかった説明に、俺も麗華さんも声を揃えて驚いてしまった。

 「うぅ…だから言いたくなかったのに…」

 俺たち反応が悪かったのを見て、部屋の隅で先輩が落ち込んでしまった。

 「す、すいません先輩!でも、いくら何でも夢で見たなんて…ね、麗華さん!――麗華さん?」

 返事がないので様子を見ると、麗華さんは何かの本を必死に読んでいる。

 「麗華さん?一体、何を読んでるんですか?」

 

 俺が尋ねてから、少し間をおいて麗華さんが突然大きな声を出した。

 「やっぱり!!!――って、何か言った?」

 「え、あー、何でもないので大丈夫です…。それより、何がやっぱり何ですか?」

 どうやら、俺の声は聞こえてなかったようなので質問を変えた。

 「そうだった!夢乃ちょっと見てくれる?」

 麗華さんに呼ばれて、先輩も同じ本に目を通す。

 (な、なんなんだ一体…)

 一人取り残された気分で先輩たちを見つめる。


 「うーん…あ、この子!」

 「やっぱりあなたが夢で見た子?」

 「もう少し大きかった気がするけど…雰囲気は凄く似てる!」

 本とにらみ合っていた先輩たちは、突然顔を上げるとそんなことを言い出した。

 「その本に先輩の夢に出てきた子が載ってるんですか?――ていうか、誰なんですか一体?」

 「私も気になる!麗華この子誰なの?」

 先輩と俺が麗華さんに写真の人物について尋ねると、麗華さんは少し真剣な表情で説明し始めた。


 「この写真の子…いえ、人物はね――最後の蒼井家当主よ」

 麗華さんの言葉に、俺も先輩も驚いていた。

 「蒼井家当主って、先輩はその人を知らないんですよ!」

 知らない人間が、偶々夢に出てきて、しかも青龍のヒントを与えるなんていう事があるのだろうか。

 「私もそう思ったけど…でも、夢乃の夢に出てきたのがこの人なら、さっきの青龍に関するヒントも本物かもしれない」

 「…ただの夢じゃないってことですか?」

 「うん…。ねえ、悠紀君は夢乃とは昔から知り合いなんでしょ?」

 「えっと、小学生くらいからの付き合いですね」

 「夢乃って、その頃から予知夢とか見たりはしたことなかった?」

 麗華さんに言われ、昔の事を思い出してみるが、特にそんな記憶はない。

 

 「多分…無かったと思います…」

 「そっか、じゃあ昔からの体質とかではないのね」

 夢乃先輩の見た不思議な夢、なぜ先輩が見たこともない蒼井家の最後の当主を夢で見たのか。

 もしかしたら、夢乃先輩の変質した式神が関係あるのかもしれない…。

 行けば何かわかるかもしれない、そんな思いが俺の中にはあった。

 でも、もしその夢が青龍と関係があるどころか、俺だけが知っているはずの先輩のを知っている人物の罠だったらという不安もあった。


 「夢で干渉してきてなければここまで悩まないのにな…」

 「悠紀君何か言った?」

 「え、いえ何でもないです!」

 どうやら考えていることが声に出てたみたいだ…。

 「でも、やっぱりこのまま考えていても仕方ないですよね…」

 俺は何があっても先輩を守る、その覚悟を決めて先輩に問いかけた。


 「先輩は、夢で聞いたその場所に行きたいですか?」

 少し考えてから先輩は答えた。

 「…うん。そこに行かなきゃいけない気がするの」

 「危険だったとしても?」

 「それでも…私は行きたい」

 そう答えた先輩の表情は、決意に満ちていた。

 「はぁ…わかりました、行きましょう。先輩がその顔する時は何言っても無駄なの知ってますから」

 「ありがとう神白先輩♪」

 先輩は嬉しそうにそう言うと、支度をすると言って一度寮に戻った。


 「ふぅ…仕方ないですね。麗華さん、そんな感じなんで俺ちょっと行ってきますね?」

 「え?なんでそんな、2人だけで行くみたいな言い方してるの?」

 麗華さんはキョトンとした顔でこちらを見ている。

 「え…だって、もしかしたら時間かかるかもしれないし…麗華さんの夏休み無駄にさせるのは悪いですから」

 「私は、悠紀君と過ごせればそれだけで幸せよ!」

 麗華さんは俺の手を握り、力強くそう答える。

 「それに、夢乃は大切な友達だもん…私も心配だから一緒に行きたい…」

 「麗華さん…」

 「ダメ…?」

 今度は、いつもと違って少し元気のない様子で聞いてくる。

 少し涙ぐんだ瞳で見つめられて、そう言われてはダメとは答え難い。

 「わかりましたよ。じゃあここで待っているので、麗華さんも支度してきてください」


 こうして、俺達は先輩の夢を頼りにして青龍のいる可能性のある場所へ向かった。



 

 

 

 

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