旧 第14話-少年と先輩-

 夏休みになり、いつもの賑やかさが嘘のように静まり返りった学園――広大な敷地にセミの声だけが響くそんな夏の午後。

 旅行から戻った俺達は、人気のない学園の図書館にいた。

 旅行先でのアクシデントにより、変質した先輩の式神について調べるためだ。


 「流石、退魔師育成の名門だな。過去の資料が文字通り山のようにある…」

 少しうんざりする程の資料の山に、気が遠くなりそうになりながらも、俺達は資料を調べた。

 

 そして、数時間かけて資料を調べつくしたが、やはり先輩のような例は過去に見つけられなかった。

 「ごめんね。みんな私のためにこんなに調べてくれたのに…」

 疲れ切っている俺達を見て、先輩が謝る。

 「何言ってるのよ、私たちが調べたいから調べたのよ?夢乃が気にすることないわ」

 俺が声をかけるより先に、麗華さんが先輩にそう伝える。

 「麗華さんの言う通りですよ。だから謝らないでください先輩」

 俺も先輩にそう伝える。

 

 「うぅ…みんな、ありがとう」

 先輩は、そう言いながら少し泣いていた。

 そんな先輩を見かねて、麗華さんがハンカチを差し出している。

 (2人とも、本当に仲良くなったよな。最初は犬猿の仲って感じだったのに)

 俺は、2人の様子を少ししみじみしながら眺め、そんな事を考えていた。


 それから少しして、休憩を取りつつ今後の計画を立て始める。

 「この資料の中に無いとなると、次はどうしよう」

 退魔師に関する資料は、少なくともここより多いところはないだろう。

 となれば、別の方法で先輩の式神を調べるしかない。

 「式神に関しては、蒼井家が詳しかったのですけどね…」

 麗華さんが、ポツリとつぶやく。


 〈蒼井家〉かつての五行機関トップで、専門は式神の相性やさらなる可能性の調査だったらしい。

 専門分野は、式神の相性や、より強くなるための可能性の研究だったらしい。

 確かに、相談できたのならば、きっと力になってくれただろう。

 「だけど…」

 残念ながら蒼井家の血筋は、かつての戦いによりもう存在しない…。

 思わず、弱音を吐きそうになる。


 「蒼井家か。確かに滅びているけど、話をする方法はあるよ?」

 「えっ!――うわぁぁあ」

 またしても、いきなり背後から声をかけられ思わず声を上げる。

 振り向くと、生徒会長の玄野実也が立っていた。

 「図書館では静かにしないとダメだよ?」

 驚いている俺に向かって、人差し指を口に当てながらそう言ってくる。

 (驚かせたのはそっちなんだけど…)

 そう思いつつも、さっきの言葉が気になった俺は話を戻す。


 「すいません。それより、さっきのって――」

 俺がそう言うと、会長は話の続きを始めた。

 「あ、そうだったね。正確には、話せるのは蒼井――ではなく、その知識を共有していたアイツなんだけどね」

 会長の言葉に、俺達は首をかしげる。


 「わからないかい?話せるのは、蒼井が契約していた式神さ」

 そう言われ、やっと俺達は理解した。

 確かに、契約者が死亡しても式神は消えない。

 それに、神格クラスの式神ならば、契約者の思考を記憶していることはあり得ない話ではない。

 「でも、どうやって会えば…」

 確かに相談できればいいが、契約者の死亡した式神がどこにいるのか見当もつかなかった。


 「大丈夫だよ。アイツなら今も、死んだ蒼井のそばにいるから」

 そう言っている生徒会長は、少し笑っているように見えた。

 「後は自分たちで考えてね。神白君、上手くアイツを手懐けられるといいね」

 出口に向かって歩き始めた会長は、すれ違う瞬間、俺にそう言い残して図書館を出ていった。


 「後は自分たちでって…」

 会長の残した「今も、死んだ蒼井のそばにいる」ってどういう意味なのか。

 俺が考えていると、先輩が声をかけてきた。

 「あの、神白先輩!もしかして、それって蒼井って人のお墓にいるんじゃない?」

 「え…。確かにそう言われるとしっくりくるけど…」

 俺が再び悩み始めると、麗華さんが先輩に説明する。

 「残念ながら、蒼井さんがどこで命を落としたのかはわかってないのよ」

 「わかってない?蒼井さんの家のお墓に行けばいいんじゃないの?」

 

 先輩の疑問は当然だ。

 「蒼井さんは、黒原との戦いで死亡した。それは、黒原が私たちの先代に伝えてきた事からも間違いないそうよ」

 麗華さんは、続けて先輩に説明する。

 「でも、死体は見つからなかったんですって…。だから、蒼井さんがどこで眠っているのかはわからないの。勿論、蒼井家のお墓に行って青龍に会える可能性は低いわ」


 「そう、なんだ…」

 麗華さんから聞いた話に、先輩は言葉を失っている。

 俺も、おそらく麗華さんも、この話を初めて聞いた時はあまりのショックに言葉を失った。

 「と、とにかく!今日は遅いし、また明日考えましょう。先輩も麗華さんも寮まで送りますよ」

 重い空気に耐えられなくなり、少し明るい口ぶりで、先輩達にそう伝える。


 「そうね。次にやるべきことが分かっただけでも、良かったしね!夢乃、帰りましょう」

 俺の言葉を聞いて、麗華さんも明るくそう答える。

 「2人とも、ごめんね。私が暗くなったから無理させちゃったね」

 「誰だって、あの話を聞いたら辛くなりますよ。先輩のせいじゃないから謝らないでください」

 (先輩は、人一倍優しい人だから余計に辛かっただろうな)

 それに、退魔師が命がけの仕事だという事を改めて実感したのだろう。


 その後、俺は寮の前まで2人を送り届けて家に帰った。


 ――夢乃の部屋

 部屋に帰宅後、夢乃はいつもより早くベットに入った。

 一日に色々な事があり疲れていたのだ。

 眠りにつくと、誰かが自分に呼び掛けてきている。


 「お姉さん、僕の力が必要なの?」

 「え!えっと、あなたは?」

 夢の中に出てきたのは、見覚えのない少年だった。

 「僕は――――だよ」

 所々聞こえないが、不思議と夢乃には、少年がただの夢ではないこと、そして悪いものではないことが伝わってきた。


 「時間みたいだ…。僕の大切なものが見える場所…そこで待ってるよ」

 「待って!まだ聞きたいことが――」

 夢乃は、そう叫ぶと目を覚ましていた。

 窓からは日が差し込んでいた。

 「あの子が言ってたのって…。それにきっとあれは――」

 ベットから起き上がった夢乃は、急いで支度をして神白や麗華の元へと向かった。

 

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