旧 第13話-バカンスと先輩-Ⅳ

 俺と麗華さんは、姿が変わってしまった先輩の式神を1日かけて2人で調べた。

 結果として分かったのは、予想していた通り、今の先輩の式神は-狛犬-ではなく-ヘル-という事だけだった。

 もっと詳しく調べる為にも、俺は予定より早く学園に帰ろうかとも思ったのだが…。


 「えぇ!あと2日間あるのに、もう帰るの…」

 「し、仕方ないですね。夢乃の事は心配ですし…」

 2人はそんな感じで、帰りたくないのが目に見えてわかった。


 (考えてみたら、2日目も3日目も、ちゃんと遊んでは良いんだよな…)

 先輩や麗華さんがまだ遊びたい気持ちもわかる。

 それに、俺にはなぜ式神の姿が変わったのか、その理由に心当たりもあった。


 確証はないが、もし俺の予想通りなら先輩は大丈夫だろう。

 悩んだが俺は、2人の意思を尊重して、あと1日だけ遊んでから帰ることにした。

 とはいえ――海はひどい目にあったので、最後の1日は観光とショッピングをする事にした。


 近くに水族館があったので、まずはそこに行くことにした。

 「夢乃、凄いわよ!向こうにタギリカクレエビがいるわ!!――行きましょう!!」

 「えぇ!?何それ、ちょっと、麗華ー!」

 (麗華さん…あのテンション、かなり魚好きだったんだな…)

 俺は麗華さんの意外な一面に驚きつつ、嬉しそうに魚の説明をする麗華さんと、手を引かれてどんどん奥に連れていかれる先輩を見ていた。


 水族館を出た後は、併設する遊園地に行くことになった。

 「麗華、ジェットコースター行かない?」

 「え…い、いえ、私はどちらかと言えばもっと穏やかな方が…」

 さっきと違って、どう見ても麗華さんのテンションが下がっている。

 おそらく絶叫マシーンは苦手なのだろう。

 

 「先輩、俺と乗りませんか?」

 「神白先輩と?いいけど…」

 少し不満そうな先輩、麗華さんとそんなに乗りたかったのだろうか?

 「じゃあ行きましょう!麗華さんは、戻ったら別のに一緒に乗ろう」

 俺は麗華さんにそう言うと、不満げな先輩の手を引いてジェットコースターに向かった。


 「ねえ、神白先輩?」

 「なんですか?あ、順番来ましたよ!」

 順番待ちをしていると、先輩が何か言いたそうだったが、空いていたのでそれを聞く前に自分たちの番が来た。

 「しっかりと安全バーを下げて下さいね!」

 係の人の指示に従い、俺達は準備する。


 「あの、神白先輩?」

 「さっきからどうしたんですか先輩?」

 さっきから先輩は何か言いたそうだ。

 「それでは、出発します」

 先輩に問いかけた直後、ジェットコースターが動き出す。


 「動いちゃった。あのね――もしかしたら克服したのかもしれないんだけど…神白先輩って…」

 夢乃先輩の言葉を途中まで聞いて気がついた。

 麗華さんのために変わったけど――俺は…。

 「絶叫マシーン苦手だよね?それに、この遊園地のは凄く怖いって…」


 ――――あ…

 「だれか、止めてくれえぇぇええぇえぇぇ――」

 夢乃先輩が言い終わると同時に、下り始めたジェットコースターから、園内には俺の悲鳴が響き渡っていた。


 「酷い目にあった…」

 「大丈夫?私の代わりにごめんなさい…」

 俺を見た麗華さんが申し訳なさそうに謝ってきた。

 「だ、大丈夫ですよ。俺が好きで乗っただけだから」

 俺は精一杯強がる。

 流石に、格好つけて庇ったのに、逆に申し訳なくさせて謝られていては恥ずかしすぎる。


 「そうだ。麗華さんは何か乗りたいものは?」

 さっきの約束を思い出し、麗華さんに尋ねる。

 「乗りたいというか、行きたいところはあります」

 「どこ?約束だし、一緒に行こう」

 俺がそう言うと、さっきまで落ち込んでいた麗華さんは、少し嬉しそうな顔を見せてくれた。


 ――お化け屋敷前

 「ここって…」

 「お化け屋敷です!ここのは凄く怖いんですって!」

 麗華さんは、俺の手を掴んで嬉しそうに言う。

 「お、お化けか…。私は、遠慮しようかな…」

 「ダメよ!夢乃も一緒に行くの!」

 麗華さんは、この旅行でここに来たら3人でこのお化け屋敷に来たかったらしい。


 先輩は昔からお化けが苦手だった。

 だからお化け屋敷も行きたがらなかったが、麗華さんがどうしても3人で行きたいと言うのでここまで来てくれた。

 (でも確かに、かなり怖そうだな…。これじゃ先輩は無理なんじゃ)

 入り口からすでに、怖い雰囲気が凄い。

 麗華さんの話だと、ここのお化け屋敷もかなり有名らしい。


 「麗華さん、俺たち2人で行くんじゃダメなの?」

 「え、2人でも…いいけど…3人じゃないと――」

 麗華さんはそう言いながら先輩の方を見る。

 麗華さんには、なにか3人で行きたい事情があるようだ。

 それは、俺だけじゃなくて先輩も気がついたらしい。

 「はぁ…。わかったよ、3人で行こう」

 諦めた先輩が、麗華さんとは反対の手をつないできた。

 

 俺達はそのままお化け屋敷に入った。

 中は暗く、評判通りかなり怖かった。

 何とか出口まで着いた頃には先輩も麗華さんも半泣きだった。

 (麗華さんもお化け屋敷苦手だったの!?)

 驚いた俺は、なんでそこまでして3人で入りたかったのかを聞いた。


 「うぅ…あのね、このお化け屋敷、凄く怖いけど、大切な友達と入ってリタイアせず、無事みんなでゴール出来たらずっといられるって噂があって…」

 「――!麗華…それで、3人で入りたかったんだ」

 麗華さんの俺達を思う優しい言葉を聞いて、さっきまで泣いていた先輩も少し笑顔になる。

 「麗華さん…じゃあ、俺たち3人はこれからもずっと一緒にいられますね!」

 「そうだね!麗華のおかげで♪」

 俺達がそう言うと、麗華さんは涙を拭いて笑いかけてくれた。


 一通り遊んだ後、俺達は買い物をして家に帰ることになった。

 その途中で、偶々見つけたアクセサリーショップに寄ることになった。

 「夢乃見て!凄く綺麗な指輪よ!」

 「麗華!こっちのも可愛いよ!」

 (そういえば、先輩とは友達と出かけたけど、この3人で買い物は初めてだな)

 楽しそうにアクセサリーを眺める2人を見て、ふとそんなことに気がついた。


 「お客様、何かお探しですか?」

 2人を見ていた俺に、店員が声をかけてきた。

 「あ、いえ――」

 「付き添いなので大丈夫」と伝えようかと思ったが、2人を見ていたら自然と「あの2人にプレゼントを贈りたい」と言っていた。

 「そうですか!ではこちらなんてどうでしょう――」

 店員の出してきたアクセサリーの説明を聞いて、俺はそれを2つ内緒で購入すると3人で店を出た。


 ――宿泊所

 家に帰って、俺達は明日の帰り支度を始めた。

 予定より早くなってしまったが、今日1日遊んだため、先輩たちも満足してくれたようだ。


 次の日の朝、家を出ようとした時、先輩がぽつりと呟いた。

 「また3人で、今度はずっと住めたらな…」

 それを聞いていた麗華さんも、先輩と同じ気持ちなようだ。

 「私もそう思うわ。でも大丈夫!だって私たちはずっと一緒でしょ?」

 「――!うん♪」

 そんな2人に、俺は昨日のプレゼントを渡すことにした。


 「夢乃先輩、麗華さん」

 「うん?」「なんですか?」

 「これ――2人に」

 手渡した包み紙を開ける2人。

 「これって!」「凄い――綺麗」

 「ダイアモンドのイヤリングです。指輪は高くて…」

 俺がそう言い2人を見ると、泣きそうな顔でこちらを見ている。

 「あ、あれ?気に入りませんでしたか?」

 「ううん…逆だよ♪」

 「えぇ…凄く嬉しいんです」

 そう言ってお互いに顔を見合わせた先輩と麗華さんは、俺の方を向いて笑顔を見せてくれた。


 「良かった…。知ってますか?ダイヤモンドの石言葉は永遠の絆とか永久不変なんだって」

 「それって…」

 「はい。麗華さん、先輩、俺達はこれからも変わらず一緒に頑張りましょう!」

 俺がそう言うと、2人は笑顔で頷いてくれた。

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