旧 第11話-バカンスと先輩-Ⅱ

 ――――ポツン

 ――冷たっ!

 俺は、顔に落ちた水滴に驚いて目を覚ました。

 辺りを見回してみる。

 見覚えのない洞窟みたいだ。

 「どこだ…ここ。俺は確か…」

 少しずつ意識がはっきりしてくる。

 そして、一緒にいた先輩と麗華さんがいないことに気がついた。

 「夢乃先輩!麗華さん!」

 呼んでも返事はない。

 近くにいないのか、それとも俺みたいに意識を失っているのか…最悪の事態を想像するのだけはやめておこう。

 2人ともきっと無事だ。

 それより今は、俺達に何があったのかを思い出す。


 朝、俺達は支度をして海出かけた。

 それから、先輩たちとは一度別れ着替えてから合流した。

 「ゆ、悠紀君、どうかしら私の水着?」

 「神白先輩!私の水着似合ってる?麗華が選んでくれたんだよ♪」

 先輩はピンクのワンピースタイプの水着、麗華さんは赤いビキニだった。

 「2人とも凄く似合ってます。可愛いですよ」

 2人はそう言うと凄く喜んでいたのを覚えている。

 

 「えっと…その後は確か…」

 俺は、先輩たちが海に入って遊んでいるのを砂浜で見ていた。

 水遊びをしたり、競争をしたり、子供のようにはしゃぐ2人が怪我をしたりしないか少し心配だった。

 「それで…そうだ!その後――」


 お昼になり、先輩と麗華さんが海から上がろうとした時、2人の後ろから大きな島のような物が現れた。

 そして、それが現れると同時に、海に渦が出来て先輩たちが飲まれそうになったのだ。

 それを助けようと俺は飛び込んだ。

 「そうだ、それでこんなことに。まずいな2人を探さないと!」


 ようやく何があったのかを思い出した俺は、急いで2人を探した。

 洞窟は思ったより広く、2人の姿は中々見つからない。

 「まさか、2人は別の場所に…」

 渦に飲まれたタイミングには少しズレがある。

 だが別の場所に流れているとしたら見つけるのは困難。

 俺が諦めそうになったその時――近くから声がした。


 「悠紀君!」「かーみしろせーんぱーい!」

 間違いなく2人の声だ!

 「2人とも無事かー?」

 俺も急いで叫ぶ。

 「――っ!はい、無事です!」

 「神白先輩も大丈夫ー?」

 2人とも怪我はしてないようだ。

 「俺も大丈夫だ」

 返事をして、辺りを見回す。

 声は聞こえるが、姿は見えない。

 

 「2人ともどこなんだ!」

 俺が尋ねると麗華さんが答えてくれた。

 「多分、悠紀君の前の壁の裏です!こっちから見ると崩れているみたいなんです」

 そう言われ目の前の壁を調べる。

 確かに、暗闇で壁に見えたものは雪崩れてできた土砂の山だった。

 「これじゃ危なくて崩せませんね。2人は一緒なんですよね?」

 「えぇ!一緒にいます!」

 「俺はこっち側から出口を探します!2人もそっち側で出口を探してみてください!」

 本当は少し心配だが、崩れかけているのであればここで長い時間を過ごすのは危険だ。

 「わかりました!悠紀君も気をつけてください!」

 心配してくれている麗華さんたちに返事をして、俺は来た道を戻りながら出口を探す。

 

 ――洞窟内、2人側

 「ふぅ、悠紀君も無事でよかったわね!」

 「そうだね!じゃあ麗華私たちも出口探そうか?」

 2人は立ち上がると、奥に続く道を歩いて行く。

 「そういえば、アレ一体何だったんでしょう?」

 「あー、あの大きなの?わかんないけど渦はアレが原因かな?」

 2人は歩きながら、あの時見た大きなものについて話す。


 「恐らくそうでしょうね…」

 「生き物なのかな?」

 そう聞かれた麗華は、恐らく普通の生き物ではないだろうと思った。

 アレは魔獣、もしくは式神のような存在。

 しかし、あれほどの影響力を持つものが今まで発見されずにいたとも思えない。

 海に出る魔獣と言えばクラーケンやレヴィアタンが想像できるが、アレはどちらとも違っていた。


 アレの正体を考えながら歩く麗華は、ふともう1つの疑問を夢乃に問う。

 「夢乃、聞きたいのだけど貴方海でもそのカチューシャ付けてたわね?」

 「え?あー、うん!付けてたよ?」

 前に「これは昔、神白先輩にもらったの!」とは聞いていたが、海に入る時までつけていたのには麗華も少し驚いていた。

 「いくら大切なものでも、海に入る時くらい外せばいいのに」

 「うーん、これは神白先輩が私と“約束”してくれた時に貰ったものだから…」

 “約束”その言葉に麗華は少しやきもちを妬いたが、夢乃の少しだけ真剣な表情にそれが何なのかを聞くのはやめた。

 

 その後も2人は話しながら進んで行き、壁の隙間から光が差し込み風が吹く場所を見つけた。

 「ここなら外に出られそうね」

 「でも壁だよ?」

 夢乃がそう言うと、麗華は首に下げていたネックレスの石を手に取り扇に変える。

 「この向こうは外。なら――」

 麗華はそう言うと扇を扇ぐ。

 現れた火球は壁にぶつかり爆発する。

 「ケホッ…ケホッ」

 「麗華凄すぎるよ…ケホッ」

 咳き込みながら、爆発で空いた穴を使い外に出る2人。


 「なんにしても出られてよかったわね。それにしても…」

 「ここどこだろ?ジャングル?」

 洞窟を出た2人の目の前には、木が生い茂った密林にのようなものが広がっている。

 町の近くにも、海から見える場所にもこんなところは無かったはず。

 「ここがどこかは残念だけど…わからないわ。――でも、今はそれより悠紀君を探しましょう!」

 「そうだね!3人揃えば私たちに出来ないことはないもんね♪」

 2人は自分たちが作った出口以外の出口を探し、歩き始めた。


 ――洞窟内、悠紀側

 「クソ…ここも行き止まりか」

 俺は来た道を戻りながら、枝分かれするいくつもの道を確認し、出口をしらみつぶしに探した。

 先輩たちと合流するためにも急がなければならない。

 だが、暗闇の中で出口を探すのは簡単ではない。

 少しずつ体力も尽きていく。

 ――――グウゥ~~~

 「そういえば、昼ごはん食べてなかった…」

 おなかも減ってきて立っていることすらきつくなる。


 「先輩…麗華さん…」

 1人で行動するデメリット、それは心細さで挫けやすくなることだ。

 全く見つからない出口に諦めを感じ始める。

 せめて先輩と麗華さんが無事に出てくれれば。

 もしかしたら、こっちをいくら探しても出口がないのは先輩たちの方にあるからでは?

 そうやって、見つからないことすらも良い事として考えようとし始めていた。


 動けなくなった俺は、目をつぶり横になる。

 「先輩…麗華さん…すいません」

 聞こえないとわかっていても、2人に謝る。

 ――――ドン!!

 何か凄い音と共に揺れが起こる。

 何だろう?


 ――――チョロチョロチョロ

 また何か聞こえる。

 俺は目を開けて、音のした方に行く。

 ――水だ。

 水が流れている。

 もしかしたら、水が流れてきている方へ辿れば出られるかもしれない。

 諦めかけていた俺は、一筋の希望に賭けて再び立ち上がる。

 

 しばらく辿っていくと、水の流れはどんどん大きくなっている。

 そしてさらに歩いた俺は、ついに出口を見つけた。

 外に出ると、海岸に出た。

 しかし俺達がいた場所とは違う。

 やはり流されたのだろうか?

 だが近くにもこんなところは無く、遠くまで来たにしてはまだ日が沈んでいない。


 「勿論1日以上経ってる可能性もあるけど…」

 俺は、そんな事を1人で言いながら少し歩く。

 人のいた痕跡は見当たらない。

 無人島の様だ。

 ならば、尚更あのあたりにそんな島はないはず。

 「2人を見つけて早く脱出しないとな――無事に出れたかな?」

 俺は急いで脱出するため、2人を探しに森に入っていった。

 式神があればよかったが、残念ながら置いて来ていたので歩いて探すしかないのだ。


 しばらく歩くと、壁に大きな穴が開いているのが見えた。

 どう見ても人工的に開けられている。

 この島でそんなことがあるとすれば、それは間違いなく先輩たちだ。

 俺は足元を見て足跡を探した。

 穴から2人分のサンダルの跡がある。

 「これを追いかければ!」

 足跡を追って走る。


 少しして、人影が見えた。

 「――!先輩!麗華さん!」

 俺が呼ぶと2人が振り向く。

 「神白先輩!」「悠紀君!」

 俺は2人に駆け寄る。

 「2人ともやっと無事な姿が見られてよかった…」

 「私たちもです」

 「うん♪」

 合流した俺達は、島を出るため必要な情報を集めることにした。



 「さてさて、この状況君たちはどんな成長を見せてくれるのか…ふふ、ふははは――」

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