旧 第9.5話-期末試験と先輩-
想定外の事件を乗り越え、無事退育祭を終えたある日。
「麗華さん、夢乃先輩を連れて図書館に行くって言ってたけど…」
廊下を歩いていたら、夢乃先輩を凄い勢いで麗華さんが連れて行ってしまった。
いつも以上の勢いが少し気になった俺は、様子を見に2人のいる図書館に向かうことにした。
「うぅ…麗華…許して…」
学園の敷地内にある、大きな図書館に近づくと先輩の声が聞こえてくる。
「ダメです!許しを請う暇があるなら言う通りにしなさい」
「やめて…もう、無理だよ…」
――なっ!
よくわからないが、麗華さんが先輩にひどいことをしている!
俺は、慌てて図書館に駆け込む。
「麗華さん!先輩にひどい事しな…い…で?」
見ると、山積みの資料に囲まれ、半泣きで勉強させられている先輩と眼鏡をかけた麗華さんがいた。
「悠紀君!」
「うぅ…神白先輩、助けて…」
「えっと、これは?」
俺は事態が呑み込めず、こちらを見て驚いている麗華さんに尋ねる。
「先輩の、期末テストに備えた勉強!?」
「えぇ、そうですわ。夢乃はここ最近、退育祭の練習で勉強時間が取れていなかったから」
「うぅ…」
どうやら麗華さんは、先輩が補習にならないために教えてくれていたらしい。
「でも、どうして俺は呼んでくれなかったんですか?」
「それは…悠紀君がいると夢乃が甘えるから…」
「麗華は厳しくて怖いよ…」
先輩が助けを求める視線を向けてくる。
「ま、まあ最悪補習になっても夏休みに少し学校に来ればいいだけですし――」
「それはダメよ!!」
麗華さんが、珍しく大きな声を出す。
「え、えっと…」
「――っ!ご、ごめんなさい…」
「あ、いえ!こっちこそすいません。補習でもいいんじゃなんて…」
学園長の娘である麗華さんの前で、補習でもなんて言ったら怒るに決まっている。
「いえ、違いますの!そうではなくて…補習になったら3人で――だから――為に…」
「え、3人で何ですか?」
麗華さんの声が、所々小さくて上手く聞き取れなかった。
「な、何でもありません!とにかく、補習はダメですから…こうなったら悠紀君も協力してくれるわね?」
「わかりました。それで今は何を?」
「退魔師の歴史です。夢乃は何故か、普通の科目は出来ているので。だから、退魔師関係の科目に絞って教えていたの」
「なるほど…」
(そりゃ、一般科目は先輩は高校生活を終えてるんだしわかるよな…)
「神白先輩も教えてくれるの?…なら少し頑張る♪」
「なんて現金な人かしら…」
麗華さんは、呆れながらも笑っていた。
「それじゃ先輩、まずは絶対に試験に出るところを勉強しましょう」
「わかった!」
「夢乃…わたくしが教えていた時よりだいぶ元気ですわね」
「あはは、それで先輩は五行機関を知ってますか?」
「ごぎょう…何、それ?」
「やっぱり知らないか。五行機関っていうのは――」
〈五行機関〉とは五行に沿った神獣、「青龍」「白虎」「朱雀」「玄武」「麒麟」これらを式神として使える家系のものが中心となった退魔師を束ねる組織である。
1000年前、四神を司る者たちが中心となり発足され、200年ほど前に「麒麟」を加えた五行機関としての形が完成した。
メンバーは、「蒼井」「神白」「紅魔」「黒原」「黄瀬」の家系によって構成されていた。
「ここまでは良いですか先輩?」
「うん!でも、されていたってどうして過去形なの?」
「いい質問ですね。それは――」
かつては、5人のメンバーで構成された五行機関であったが、そのバランスは黒原家の裏切りによって突如崩れる。
黒原は、魔獣の力を取り込み五行機関を壊滅させようとしたのだ。
原因はわかっていないが、直接的な戦闘ではなく、情報取集や被害防止を主な仕事としていた黒原家の他に対する憎しみではないかと言われている。
そして、その黒原家を抑えるため、当時の組織のトップだった蒼井家の者が戦いを挑んだ。
結果は、黒原家の者は深手を負いその後の消息は不明。
蒼井家は…死亡し青龍の力を受け継ぐ家系は途絶えた。
「そして現在では、拮抗した力を持つ神白と紅魔家が指揮を執り、黄瀬家は黒原に代わり情報収集等の任務に就いているんです」
「そうなんだ!じゃあ、黄瀬君って――」
「はい、俺や麗華さんと同じ次期黄瀬家当主ですよ。ね、麗華さん?」
「うふふふ、勉強を教える悠紀君…凛々しくてカッコいいですわ…」
「あの…麗華さん…」
うっとりした顔でこちらを見ている麗華さんは、完全に自分の世界に浸っていた。
「この人は本当に…夢乃先輩、とりあえず五行機関についてはこんなところですけど…わからないことありますか?」
「大丈夫!神白先輩ありがとう♪」
「なら良かったです。それじゃ次は――」
その後も俺たちの勉強は、何日にも亘って行われた。
そして――
――試験当日
(大丈夫、神白先輩と麗華があんなに教えてくれたんだから!)
「それではテスト始め!」
――――カリカリカリ
「先輩大丈夫かな…」
――――カリカリ、ケシケシ
「夢乃…」
――数日後、初級練習場
「夢乃!試験の結果はどうだった?」
「神白先輩、麗華…」
「夢乃先輩…まさか…」
――――バッ!
先輩の広げたテストは、一般科目は全て90点以上、退魔師用の歴史や武器の使い方の筆記テストも85点以上だった。
「やりましたね、夢乃先輩!」
「うん♪」
「夢乃、頑張ったわね…」
「あれ、麗華もしかして泣いてる?」
「そ、そんな事はありません!」
テストを無事終え、2人とも笑いあっている。
これで、無事夏休みを迎えられそうだ――
「これで行けますわね!」
麗華さんが突然大きな声を出す。
「びっくりした!」
「俺もです、麗華さん?突然どうしたんですか?行くってどこに?」
「ふっふっふ、これを見なさい!!」
――――バッ!
今度は、麗華さんが広げた紙を見る
「バカンス…リゾート?」
「1週間…ご招待…だって。麗華これは?」
「うふふ、これこそ!今回私が狙っていた退育祭の賞品よ!」
「あー!それで麗華さん張り切ってたんですね!」
「えぇ!この賞品をお父様に認めさせるのにどれだけかかったことか…」
こぶしを握り、感慨深そうにそう呟く麗華さん。
「あははは…」
「いいな…麗華」
「確かに楽しそうですね。麗華さんいっぱい遊んできてくださいね」
「2人とも、何を言ってるの?」
「はい?」「え?」
「これ、パートナーとの宿泊券なのよ?それに…」
麗華さんは、先輩をチラチラ見ている。
「と、特別に、テストを頑張った夢乃も連れて行ってあげる!」
「本当に!!!」
麗華さんの言葉を聞いて、眩しい笑顔で先輩が抱き着く
「ちょ、ちょっと!抱き着くな!」
「えへへ…麗華ちゃん大好き♪」
「べ、別に貴方が赤点さえとれば私は悠紀君と2人旅行だったのに邪魔なんだから!」
「麗華ちゃん、嘘ばっかり!」
「嘘なんて、私は本当に!」
今ではすっかり日常になった、戯れあう2人を見ているとなんだか癒される。
(麗華さん、この為に補習だけはしたくなかったんだな)
改めて麗華さんの優しさを実感しつつ、俺達は旅行に向けて準備を始めた。
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