旧 第8話-退育祭と先輩-Ⅱ〈暗躍編・表〉

 ――退育祭当日

 俺たち3人は、あれから毎日猛特訓を重ね完璧な連携で本番に臨んだ。

 退育祭は2日間開催され、それぞれの日程での合計点が1番高いチームが優勝となる。

 「…ついに本番ですね」

 「そうですわね…2人とも、絶対勝ちますわよ!」

 「うん♪」

 正直俺は、たかが学園の催し物だと少し冷めていた。

 しかし、あれから毎日本気で優勝したいと、弱音も吐かずに頑張る2人を見てきた今は、俺もこの3人で優勝したいと思っている。

 

 2日間のうち、初日である今日は一般的な体育祭と同じような内容を行う。

 武器の使用もなし、己の運動能力だけで競い合う。

 そして競技だけでなく、出店なども出ていてお祭りとしても盛り上がりを見せていた。

 

 「今日は、あらかじめ学園で分けた何組かで競って、勝った組全員にポイントが入るんでしたね」

 「えぇ、わたくしたちは赤組ね」

 「そうなんだ!赤ってことは――」

 

 「おーい、夢乃」「あおちゃん!」

 「あ、美緒、雪音!確か2人も赤だよね?」

 「そうよ、初日は仲間としてよろしくね!」

 夢乃先輩は、同じ組に友達がいて嬉しそうに話している。

 

 「お2人のパートナーが見当たりませんね…」

 麗華さんが不思議そうに声をかけてくる。

 「あ、確かにそうですね。でも競技前だし用事があって離れてるのかも」

 俺は、特に気にせず麗華さんの疑問に答える。

 俺達がそんな話をしていると、花火の合図とともに開会式が始まった。


 開会式も終わり、最初の競技が始まる。

 「最初は玉入れか。まあ、2人とも優勝もだけどまずは楽しんで――」

 「いいですか夢乃、わたくしが玉をかき集めますから貴方が投げ入れなさい」

 「うん、任せて!2人でこの為に特訓したもんね」

 声をかけても、優勝を目指し燃えている2人には聞こえていない様子だった…。


 玉入れが始まると、麗華さんが持ち前の運動神経で素早く玉をかき集め、それを夢乃先輩が的確にかごに入れていった。

 2人の連携(と凄い圧)に周りの生徒は圧倒され、競技は赤組の大差で勝った。

 (俺も、圧倒されてしまった…)


 いくつかの競技を終え、午前の部が終了し休憩時間に入った。

 「いやー、赤組独走だねー」

 「あおちゃんと麗華さんが、どの競技でも殆ど1位、2位だもんね!」

 「えへへ、麗華と猛特訓したからね♪」

 友達に褒められた先輩は嬉しそうに答えていた。

 

 「葵、雪音、お腹減ったし出店見に行こうよ!」

 「そうね、あおちゃんは特に頑張ってたから、沢山食べて午後も頑張ってね!」

 「ちょっと、それじゃ私食いしん坊みたいじゃん!――もう、神白先輩と麗華も行こう?」

 先輩にそう言われ、俺が返事をしようとすると、麗華さんが答えた。

 「ありがとうございます――では、私たち少しお話してから行くので夢乃と先に行ってて下さるかしら?」

 麗華さんの言葉に、先輩だけは少し不満そうな顔をしながらも、2人に引っ張られ出店へと向かった。


 「麗華さん、なんで3人を先に行かかせたんですか?それに話って…」

 「…競技中ずっと、2人のパートナーが見当たらなかったの。実行委員に聞いたら参加はしているそうだけど…」

 麗華さんの真剣な表情に少し不安がよぎる。

 確かに、あの2人は先輩とずっと一緒にいた。

 「まさか…、2人のパートナーに何かあったとか…」

 「それは、わからないでも…」

 麗華さんは下を向き、少しの沈黙の後、今度は真剣な表情でこちらを見つめて口を開いた。

 

 「でも…確実に参加してるはずなのにいないなんて!そのせいで赤組が点数で負けたらどうするのよ!」

 「…は?」

 「だから!2人のパートナーがさぼってるせいで負けたらどうしようって不安で…」

 麗華さんの真剣さに、不安を感じたのが馬鹿らしくなりながら麗華さんを落ち着かせる。

 「だ、大丈夫ですよ。麗華さんと先輩の活躍で単独首位だから…」

 「でも、最後の競技はポイント100倍だし…」

 なんだそのバラエティー的なノリ…。

 「大丈夫ですって!俺、麗華さんと先輩を信じてるから!」

 我ながら、他人頼みなこと言ってるな…。

 「悠紀君が、私を…。絶対負けないから安心して!!」

 「え、いや、麗華さんをって言うか…」

 少し勘違いをして燃えている麗華さんと俺の下に先輩たちが帰ってきた。

 

 「神白先輩!先輩の好きな魚料理イカ焼きが売ってたから、買ってきたよ♪――麗華、何でそんな燃えてるの?」

 「いや、俺別にそんな魚は…。麗華さんは、さっき不安そうだったので俺は麗華さんと先輩を信じてるって言ったら――」

 「神白先輩が私を!!――大丈夫、午後も誰にも負けないから!」

 この2人本当に似てるな…。

 「女の子2人も焚きつけるなんて…先輩、やりますね」

 「俺は焚きつけてねえよ!!」

 「うふふ、でもあおちゃん達嬉しそう」

 こうして、後輩にまで揶揄われながら俺の昼休憩は過ぎていった。


 その後も、2人は各競技で目覚ましい活躍を見せ、初日は赤組の勝利で終わった。

 閉会式で別れる寸前まで、先輩は友達に褒められまくり少し照れていた姿が可愛かった。

 

 閉会式の後、俺は大活躍で疲れている2人を寮まで送って帰ることにした。

 「本当に2人とも凄かったですね」

 「そうかなー♪」

 「まあ、私達3人の連携の前に敵はなしです!」

 (3人って、俺は何にもしてないけど…)

 そんな話をしながら、寮に向かっていた。


 「誰か…た、たす…け…」

 寮に着く直前、どこからか声が聞こえた。

 「今の声!あっちから聞こえたよ!」

 夢乃先輩が走り出す。

 「先輩!麗華さん俺達も――」

 俺は、麗華さんに声をかけると先輩を追いかけて走った。


 「う…そ…、なんで…」

 「夢乃先輩!」

 俺が先輩に追いつくと、先輩は口元を手で覆い震えていた。

 「どうしたんですか、せんぱ――!」

 先輩の視線の先には、誰かに切りつけられ、血を流している美緒と雪音がいた。

 「――なっ!誰がこんな」

 「なにがあったの?――…これって!」

 走ってきた麗華さんも2人を見て言葉を失う。

 

 俺は、2人に近づいて容態を確認する。

 傷口は2人とも同じ刃物で深く切られていた。

 しかし、息はあるこれならまだ助けられる。

 応急処置をして、俺は急いで学園の救護班に連絡をした。


 救護班を待つ間俺は考えた。

 (2人とも刃物で切られている。という事は襲ったのは魔獣じゃないのか…)

 「悠紀君、ちょっといい?」

 俺が考えていると、麗華さんが声をかけてきた。

 「はい?」

 麗華さんは、2人に寄り添っている夢乃先輩から少し離れたところに移動し話し始めた。

 「あの傷は間違いなく人がつけたものよ。それと、駆け付けた時2人のパートナーはいた?」

 

 麗華さんに言われ、思い返してみる。

 たしか、駆け付けた時は夢乃先輩以外はいなかった。

 ずっと姿は見ていないが、競技が終わってもパートナーが一緒にいなければ先生に怪しまれていたはず。

 「夢乃先輩だけでした。でも――」

 ――――カサカサ

 その時、草が揺れた音と共に誰かが走り去っていった。

 「今のは!」

 俺が走り出そうとすると、麗華さんが腕をつかむ。

 「待って!一人で行ったら危ない」

 「麗華さん…大丈夫です、俺を信じて。それに、2人のパートナーもきっと襲った奴を追いかけていったんですよ」

 「でも仮にそうだとしても…それに、もし悠紀君に何かあったら…」

 「必ず帰るって約束しますから。でも…もし明日までに戻れなかったら――」

 俺は、万一戻れなかった時の事を麗華さんに伝え、走り去った影を追いかけた。


 ――退育祭2日目

 「なるほど、パートナーが体調不良なのか」

 「はい、ですからわたくしが今日1日、この子のパートナーになってもよろしいでしょうか?」

 生徒会長と話す麗華を見つめる夢乃。

 「…いいよ、特別に認めてあげる」

 「本当ですか!ありがとうございます」

 「2人とも大変だろうけど、頑張ってね」

 生徒会長の玄野は2人にそう言うと席を立った。


 ――昨日の夜

 「もし明日までに戻れなかったら、麗華さんが夢乃先輩をパートナーとして出てください」

 「――そんな!」

 「2人の連携なら大丈夫です。先輩は、2人の事もあるし心配だけど…でも優勝したいんですよね2人とも」


 ――2日目、競技直前

 (悠紀君…私たちも頑張るから必ず帰ってきてね…)

 「夢乃、今日だけ私がパートナーよ。昨日の事はショックでしょうけど…、2人とも一命は取り止めた。だから――」

 「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう麗華」

 「夢乃…」

 「2人には今朝お見舞いに行ったの。応急処置とすぐ治療したおかげで少し話もできた。私たちの分も頑張ってって言われた…」

 「そう…」

 「私優勝するよ。2人の分まで頑張って絶対…」

 「えぇ、そうね。絶対優勝しましょう」


 気持ちを新たに優勝を誓い合う2人。

 

 「ふふふ…いいね、あの目。本番ショータイムが楽しみだ」


 そして2日目の競技が始まる。

 ルールは、それぞれのチームが3個の風船を付け、それをすべて割るか奪い取り自分の残機として最後まで残ったチームの勝ち。

 一見遠距離が有利に思えるが、実際は動く対象を割ることは難しく、離れているため奪うことで残機を増やすこともできない。

 本来、3人での連携を磨いたこの競技で、遠距離の2人だけになったのはかなりの痛手でだった。

 

 しかし、友の分まで頑張ると誓った夢乃。

 そして、自分を信じてくれた人に報いたい麗華。

 2人にとってそんな事は関係なかった。


 「夢乃、競技中は安全装置が働いてるから遠慮なく撃ちなさい」

 「うん!――麗華は?」

 「わたくしは…あの人の分までやってやりますわ!」


 合図とともに競技が始まる。

 麗華が扇を扇ぐと火球が現れた。

 それを風船に目掛けて発射する。

 そして、扇を閉じ麗華も走り出す。

 

 他の生徒は、目の前を覆いつくす無数の火球をそれぞれの武器で払う。

 その瞬間、火球を払い無防備になったところに麗華は扇で風船をたたき割る。

 「本来なら、最初から最後までわたくしの火球で目隠しするはずでしたけど――!」

 飛び上がり回し蹴りで、背後から風船を狙っていた生徒の風船を割る麗華

 「仕方ありません、わたくしが前衛をしますわ」

 そう言い着地した麗華の隙を狙い、他の生徒が飛び掛かる。

 

 ――――パン。パン。パン。

 しかし、皆麗華の風船に触れることなく、気がつけば風船は夢乃に撃ち抜かれている。

 互いを補い合う完璧な連携を見せる2人。

 そして、次々と風船は割られ、気がつけば自分たち以外には最後の1人となっていた。

 

 「これで最後ね、夢乃油断しないで」

 「麗華もね」

 2人は攻めるタイミングを探る。

 

 ――――今!

 麗華は一瞬の隙をついて火球を出すと駆けだした。

 (これで終わり!)

 「麗華――ダメ!」

 そう思った麗華は、火球を超え飛び出した瞬間驚いた。

 円形に相手を囲み、どこからも出たはずのない相手がいないのだ。


 「嘘、どこに…」

 「麗華、上!」

 夢乃の声に上を向くと、さっきまでそこにいたはずの男が空にいたのだ。

 (ありえない…ジャンプしたのは見てないし!)

 動揺する麗華に男は上空から剣を投げる。

 咄嗟に避けるが間に合わない。

 剣で風船が割られ、直後に着地した男にもう一つの風船も叩き割られる。

 その衝撃で周りの火球も消える。

 

 「まずい…わね」

 本来、遠距離戦が得意な麗華はもう動くだけの体力がなかった。

 ――――パン。

 夢乃が、男の風船を狙い撃つが当たる直前男は銃弾を掴んでみせた。

 「うそ!」

 「なんなんですの…」


 あまりの事に動揺する2人。

 「さっきは当たったのに…」

 ぽつりと呟く夢乃の声に麗華は確認する。

 確かに最初3つあった男の風船は2つ割られている。

 思い出す、夢乃には上にいる事がわかっていた。

 ジャンプした瞬間も見えていたのだ。

 夢乃は火球から飛び出した瞬間と着地する瞬間を狙い撃っていたのだ。


 では、なぜ今は当たらなかったのか。

 可能性は2つ、飛び出す瞬間も着地の時も火球で撃つ瞬間が見なかった。

 もしくは、ジャンプや攻撃1つのモーション中は咄嗟に切り替えられないか。

 あるいは、その両方か。


 (もし、そうなら…悩んでても私が倒れれば遠距離の夢乃はやられる。なら――)

 麗華は、最後の力でもう一度火球を出す。

 「早くしないと…あなたの最後の風船焼き払うわよ…」

 そして、精いっぱいの挑発で相手に攻撃をさせる。

 撃たれたことで、夢乃を狙っていた男は麗華の方に向きを変える。


 (やった…これなら)

 麗華は作戦が成功し安堵する。

 しかし、一向に夢乃が撃たないのだ。

 (なんで……あ…!)

 そして麗華は気がついた、飛び出さなければ風船の正確な位置がわからない。

 いくら精密な夢乃の腕でも、場所がわからなければ撃てないのだ。


 「麗華が折角チャンスをくれたのに…」

 銃を構え、夢乃もまた焦っていた。

 男は、麗華に向かって腕を振り上げる。

 「――っ!」

 ――――タン

 麗華は咄嗟に扇を男の風船がある位置の足元に投げる。


 その様子に、敗退した選手たちは麗華が諦めたのだと思った。

 「あ!」

 しかし、夢乃は麗華の意図を組みその位置の火球を撃ち抜く。

 風船を焼き払うための高さに作られた火球を。

 

 直後、競技終了の合図である花火が鳴った。

 夢乃と麗華は、見事な連携で無事2日目を勝ち無事優勝した。

 「夢乃ありがとう、貴方のおかげよ」

 「ううん、麗華のおかげだよ!扇で位置教えてくれてありがとう♪」

 より仲を深め、お互いを称えあう2人に学園長から賞品が贈られる。


 「お父様、武器は夢乃にあげてください」

 「…うむ、分かった。では、夢乃葵前へ」

 名前を呼ばれ前に出た夢乃に、武器が渡される。

 「それは、心武というらしい。使用者に合わせて変わる武器だそうだ」

 「…心武――ありがとうございます!」

 「そして、紅魔麗華」

 「はい」

 「お前には、これを」

 「――っ!嬉しいですわ!これの為に頑張ったんですから…」

 賞品を受け取り喜ぶ2人を称える花火と共に退育祭は終了した。



 「ふぅ、やっぱりあの毒だと、筋力の代わりに知能が下がって攻撃か防御どっちかしか優先できないゴミか…まあ楽しめたからいいか」

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