旧 第5.5話-副会長と先輩-

 ――――いつもの練習場

 麗華さんとの勝負から少し経ち、俺達は変わらずこの場所で先輩の特訓をしている。

 (結局、引き分けだったけど…麗華さん、何も言ってこないし大丈夫なのかな?)

 「おーい神白先輩、何考えてるの?」

 「あ、夢乃先輩!いや、取り壊しとか色々どうなったかなって」

 「あー、2人とも凄くて勝負つかなかったもんね♪」

 「まあ…」

 「麗華ちゃんに聞いてみたら?」

 「いや、その、もし余計な事聞いて取り壊しになるくらいなら、有耶無耶にしたいなってちょっと思ってて…」

 「そうなんだ?あれから、麗華ちゃんと話してないの?」

 「え、そういえば見かけないんですよね」

 「そうなんだ?」


 そんな話をしていると、扉をノックする音が聞こえた。

 (こんなとこに、誰だ?)

 視線を向けると麗華さんが立っていた。

 (あー、ここに来たってことは、やっぱり取り壊すのか…)

 元々、彼女が勝負した本当の理由は、俺に勝つためだった。

 それが、助けられたとなれば、彼女は相当怒っていることだろう…。

 「麗華さん、あの…」

 俺が声をかけようとすると、麗華さんは勢いよく抱き着いてきた。


 「――なっ!!!!!!」

 いきなりの事に、先輩が目を見開いて驚いている。

 というか、俺も驚いている。

 「あ、あの、麗華さん?」

 麗華さんを引き剥がすと、少し俯き気味の麗華さんが上目使いで話し始めた。

 「なんですか?…悠紀君」

 「へ…いや、あの」

 明らかに、前と別人の様な麗華さんに動揺して言葉が出ない。

 「ちょ、ちょ、ちょっと!何してるのかな麗華ちゃん!」

 先輩が動揺しながら麗華さんに詰め寄る。

 

 「何って、悠紀君に甘えてるの」

 再び抱き着き、笑顔でそう答える。

 「だ、だ、だから!なんでそんなことしてるのか聞いてるの!」

 「それはね――」


 その後の麗華さんの話だと、勝負に負けた後父親と会った際に。

 「麗華、神白の者に負けた意味わかっているな」

 「お父様、わたくしは――」

 「子が同じ学年であるならば、勝負し負けた方が勝った方の弟子として過ごす」

 「…え?」

 「若い時に、あいつとした約束。お前が負けぬように育ててきたのに…私の可愛い娘があのバカの息子の下に就くなんて…って麗華?」

 「私が…悠紀君の弟子――」

 「おぉ、ショックが大きすぎたか可哀想に!そんなに嫌なら父さんが――」

 「余計なことしないで!!!」

 「え…はい…」

 ということがあったらしい。


 「だから、今日から私もここで練習するね悠紀君!」

 「え、いや、麗華さんとは同じ学年だし…」

 「知らないの?最優秀生徒は、同学年の弟子入りも認められてるんだよ!」

 「先輩もいるし…」

 「先輩?…あー夢乃ちゃんね。そういえばここで2人でいる時、いつもそう呼んでたね」

 「あ…ていうかなんでそれを!」

 「あの勝負の後、悠紀君がここにいる間何してたか、全部確認したから!200回くらい!」

 (――――怖い!!)


 「とにかく、弟子の複数持ちも問題はないし、問題があったら生徒会でクリアにするから大丈夫!」

 「で、でも親が勝手に決めただけだし、麗華さんが無理することは――」

 「親はもう関係ないの。私は、私を見ててくれる悠紀君の為に頑張るって決めたから!!」

 (えーー!!)


 「ていうか、麗華ちゃん!さっきから話し方とか変わりすぎじゃない猫かぶってるの!!」

 「うん?あ、話し方ね。パパに言われて、お嬢様らしくしようと色々勉強してたんだけど…悠紀君は泣いてた、ありのままの私を受け入れてくれたからいいかなって」

 「いや、それは――!」

 「ありのまま…受け入れた。神白先輩どういうことかな??」

 ――――先輩、笑顔が怖い!!

 「違いますよ先輩!!ていうか麗華さんもいい加減離れて!」

 「私の事は麗華って呼んで、あの時みたいに…」

 「――ちょっ麗華さん!先輩もスノーを呼ぼうとしないで!」

 

 その後、学園内に1人の男の悲鳴が轟いた…。


 

 「うむ、偶々通りかかってみれば修羅場だな。悠紀には悪いが助けに入るのはやめておこう…」

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