Who am I
――――――――ヒュー……
強めの風が僕の湿った眼球を乾かす。
僕は学校の屋上で、一人立ちすくんでいた。
先日の夢を見てから、ずっと気分が悪い。
常時、吐き気と頭痛、めまいが僕を襲っている。
そしてそれは真紀さんと会うとひどくなる。
だが、真紀さんには隠しながら接している。
あの人はとても優しいから。
僕が気分が悪ければ、迷わず僕の心配をするだろう。
それが逆に僕を追い詰める。
だから、彼女といつも通り話し、トイレで吐く。
最近はこんな感じだ。
僕の中には一つの仮説がある。
僕は真紀さんなのかもしれない。
とても現実味のない話だ。
だがそうすると今まで僕が節々に感じた違和感の正体がわかる。
まず、僕は真瀬光太郎という名前にしっくりきていなかった。
とても感覚的な話だが、昔からその名前を名乗っていた感じがせず、なんとなく役を演じている気分があった。
時折、吐き気を催すこともあった。
次に、僕が昔に会ったことのある少女。これは真紀さんで間違いない。
いくら年月が経ったとはいえ面影は彼女しかいない。
だが、彼女は僕のことを覚えていないという。
これは単に真紀さんが昔の僕のことを忘れているだけの可能性もある。
しかし、僕が見た明晰夢。この状況と合わせて考えると、おかしな点が出てくる。
僕はあの家を知っていた。記憶の中に、あの家が、あの部屋があった。
そしてあの部屋にあった、小さい頃の真紀さんの日記。
そうなると、夢で見たい家は真紀さんの家だ。つまり僕は昔真紀さんの家に行ったことがあるということになる。
そして一番の違和感。真紀さんの日記が入っていた引き出しの鍵。
僕は迷うことなくオルゴールの中から鍵を取り出し、鍵を開けた。
なぜ僕は鍵の居場所を知っていたのだろう。
これらのことから考えられるケースは2つ。
1つは、僕と真紀さんは昔、家に遊びに行き、大事な日記が入っている引き出しの鍵の居場所を教えてもらうほどの仲だったが、真紀さんが完全に僕のことを忘れているというケース。
もう1つは…、僕が真紀さんだというケース。
僕が昔事故に遭い、それ以来真瀬光太郎という役を演じている気分になっていたことも、真紀さんの家を知っていたのも、鍵の在処を知っていたのも、これなら解決できる。
信じられないことだ。馬鹿げた考えだと自分でも思う。
しかし、それにしては異常なほどの説得力を持っている。
そして一番気味が悪いのが、僕が真紀さんに恋をしていることだ。
あの夢を見る前は、真紀さんと会うと気分が落ち着いていた。
異様な安心感と心が通じ合っている感覚で、すぐに彼女の虜になった。
だがこれも仮説通りなら当たり前だ。だって僕は彼女なんだから。
心が通じ合うのも、同じ心なだけ。水と水を混ぜているだけだ。
この恋心の虚無感に絶望した僕はその場に座り込む。
真瀬光太郎って誰だ。新田真紀って誰だ。どっちが僕で私なのか。
僕は自分に恋をしたのか。
もうよくわからない。
「僕は…。私は…。あれ……?あぁ………。よかった。」
意識が遠のく。ぼんやりとした意識の中、私はひどく安心した。
真瀬光太郎の役は、終わったんだ。
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