知っているを知らない

――――

まただ。僕はあの家に来ている。

以前はあの子ども部屋を見ることが出来ずに、夢が醒めてしまった。

今日は是非探索したい。


……しかし、それにしても今日は心が晴れたものだ。

真紀さんとのわだかまりをなくすことができた。それに今後も気軽に話し合える関係になれそうなほど、ファミレスでの会話は楽しいものだった。


それに…、多分僕は真紀さんのことが好きだ。彼女を前にすると、心が安心して、なんでも話せる気がする。でも少し見栄を張りたくて、頑張ってみたくなったりもする。

だからこそ、葛藤もある。この感情は、今の先輩と後輩の関係だからこそ生まれる物なのではないのだろうか。告白し、付き合ったとして今まで通り行くとも限らない。


………考えるのは後にしよう。

早くしなければまた夢が醒めてしまうかもしれない。


僕は歩を進め、以前探索し損ねた部屋に向かう。

扉を開け、僕は安心する。

うん、以前と変わらない。ピンクのベットにピンクのランドセル、多くのぬいぐるみと棚には可愛らしい小物類。

それでは探索するとしよう…――




――ざっと部屋の中を物色してみたが、あまり面白いものは見つからなかった。

二度も夢に出てくる家だ。僕の人生で一度は入ったことがある家だと思ったのだが、手がかりとなる物は何も見つからなかった。

最後の手がかりはあそこか…。

勉強机についている鍵付きの引き出し。あそこに何も入っていなければ、僕のこの部屋を探索することに対する熱意がすべて無為にされそうで恐怖すら感じる。

そんなことをもやもやと考えながら、オルゴールの奥に入っている鍵を取り出し、鍵穴に差し込み、まわす。

カチッという音が響き、鍵が開いた。

引き出しを引っ張ると、中には日記が入っていた。

ピンク色で、デコレーションされたいかにも女の子な日記。

いくら夢とは他人のプライベートをのぞき見ることに罪悪感を覚える自分と、すでにこれほど部屋を物色しておいて罪悪感もクソもないと考える自分がせめぎ合いながらも、僅差で後者が勝り、僕は日記を開く。


4がつ21にち

きょうからにっきをつける!

きょうはおかあさんとおとうさんとゆうえんちにあそびにいった!

ジェットコースターはとてもこわかったけど、おとうさんがてをにぎってくれたからのれた!かえりにみんなでステーキをたべておいしかった!


4がつ28にち…


そこから他愛のない日々が記されている。

平仮名しか使われていないし、文もあまり綺麗ではないため、幼稚園か、小学校低学年かだろうか。

はあ…。これだけか。一応引き出しの奥ももう一度見てみるが、何も入っていない。

先ほど考えた無為にされる恐怖が顔を出し始める。

がっかりしながら日記の背表紙を見て、僕は固まった。


にったまき


え…?僕の頭はショートした。

これは真紀さんの幼少期の日記?ということはこれは真紀さんの部屋?

ということは真紀さんの家?なぜ僕の夢…に……?――――――――――




――――――――――――ああぁ!

はあ…はあ…。こ、こは、僕の部屋だ。

僕は、真紀さんの家の夢を見たということか…。

ということは僕は真紀さんの家に行ったことがあるのだろうか。


もうわからない。忘れたい。


時刻は5時39分。起きるには早すぎる。しかし二度寝の気分にもされない。

憂鬱な気分で、僕は布団をかぶった。

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