信じられる記憶

僕は両親の顔を知らない。


僕が物心ついてすぐに両親は事故に遭い亡くなった。

その後、僕は祖父母に引き取られた。

両親を失ったショックで引き取った当初は元気がなかったが、祖父母が愛情を込めて僕を育ててくれたこともあり、なんとか立ちなりかけていた。

しかし僕は事故に遭った。幸い身体機能には後遺症の残る者はなかったが、頭を強打したことによりほとんどの記憶が失われてしまった。

両親の記憶も。

これが僕が両親の顔を知らない理由である――


この話は祖母が7歳の僕に話したエピソードである。

だが僕はこの話のすべてを信じていない。

もちろん大筋は合っているだろうが、僕の中には残された記憶がある。


僕は女の子を知っている。すこし年上の女の子。

そして確信しているのは、その子が僕にとって重要な存在であるということだ。


顔も声もあやふや。名前も知らない。ただ絶対に見つけなきゃならない。

そんな気がしていた。

だから手がかりが欲しかった。だが2年前、見つけたのである。


一人の女性が制服を着て歩いているところを。

その顔を見た瞬間、僕の記憶はとてつもない速さで復元されていった。


――間違いない、あの子だ。


確信を得た僕は彼女の後を追うため、学校を調べ、その学校を受験することに決めた。



それから2年、今、僕、真瀬光太郎は「私立清徳高校」に入学する。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る