第22話
二人一組で攻め、受けを交互やらせる。手順を確認しながら、ゆっくりと動作を反復している様をリュウは眺めていた。
これが彼らの始まりなのだ。型を理解し、技を練る。ここからもまた、地道で苦しい道のりだ。意味をひとつずつ考え、実践し、身体に刷り込まねばならない。実践においては考えている暇などないのだ。考えるよりも先に動いているようでなければ、技など使いようがない。願わくば、たゆまぬ努力を続けて欲しい。
なかなかどうして、誰かに教えるというのも良いものだ。そう思い、リュウはかすかに笑みを浮かべた。
「諸君らには伝えておこう。儂はそろそろ旅に出ようと思う」
ざわ、と空気が揺れた。想像をしていなかったわけではないが、唐突な話だった。大半は動揺しているが、ウルやイリーナは仕方なさそうに笑っている。
「なに、基本は身に付いているのだ。後は各々で磨くだけだとも。それに、二度と戻らぬとも限らん。また会う時は、また別の何かを教えよう。いや、諸君らが儂に何かを教えるかもしれん」
ないない、と笑う者。
気合を入れ直す者。
残念そうに項垂れる者。
この中から、未来の達人が現れる可能性がないではない。そうなってくれれば、リュウも教えた甲斐があるというものだ。
「励めよ、若人たちよ。……さて、置き土産といこう。儂は肘を良く使っていたが、打ち方を教えておこう。身をもって体験したいものはいるか」
全員が手を上げていた。もっと少数かと思っていたが、なかなかに貪欲だ。流石のリュウも苦笑しながらひとりを手招く。
「良く見、良く感じよ。肘で打つのではない。これは一種の体当たりだ」
ここに打つぞ、と軽く胸の中央を肘でつつく。ゆるい踏み込み、腕を畳むと同時に腰が落ちた。
「オッ………!」
ちょこんと小突いたようにしか見えないそれは、簡単に人ひとりを吹き飛ばしていた。肺から絞り出された空気が変な声と共に吐き出された。打たれた生徒は五歩分ほど飛んで膝をつく。ごほ、と咳き込みながら信じられないと目を見張っていた。
「踏み込み、重心、脱力」
軽い当たり。また吹き飛ぶ。
「重心を移動して打つ方法は散々にやっている」
飛ぶ。転がる。倒れ伏す。
「一歩一歩、着実に進め」
イリーナもウルも、残らず食らった。痛みに顔をしかめるも、どこか満足げな表情を生徒らは浮かべている。
彼らは直接体験したことはなかったのだ。ウルやイリーナは時折受けていたが、受けがまだまだ下手な者では軽く当てられることすらできなかった。まさに置き土産だった。身を持って体験することで改めて理解する。自分達の師は本当に凄かった。
「これで教練を終える。仁・義・礼・智・信。五常に忠・孝・悌を加えて八徳。常に心がけよ」
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