第12話
「しかし、まだ疑問は残りますな」
「そう、ですね」
「誰が、何のために」
「偶然ということもあるのでは?」
「然り。しかし、何かの意思が介在していたと考えたくもなりましょう」
「誰がしかに都合が良いと」
「儂にとっても好都合と言えなくもないのがまた、底意地が悪い。身体が若返っているということは、長く生きられるということとほぼ同意ですからな」
世界を飛び越えた、ということはわかった。リュウにとっては死後の世界であることには変わりがないが、確かに彼にとっては都合が良い。
前世では既に肉体のピークはとうに過ぎていた。その代わりに理が煮詰まったが、まだまだ研究することがあったのだ。しかし、身体の衰えでその時間が捻出できなかった。これは悔いだった。
思えば悔いばかりだった。もっと若い頃に術理が補強できていれば。広い見識が持てていれば。意固地になっていなければ。自身の行いが頂から自分を遠ざけていたのだと悟ったのはそれこそ死ぬ直前である。
結論として、これは好都合と考えるべきである。偶然であれ、企みの産物であれ、己がやることは変わらないのだ。リュウが生きた世とは勝手が随分違うが、何やら楽しみになってきたのを感じていた。
「お顔が前向きになられました」
「ええ。こと此に至っては思い悩む必要なし」
「それは重畳。さて、それではあなた様はどうなさるのです?」
「さて」
やることなど決まっている。修練に励むのだ。今度こそ、頂へと登り詰める。あと四十年で成すのだ。
最終目標は決まりきっている。ならば、それまでの道程をどうするのか。
旅をするべきだろう。
前世のリュウはそこまで動きはしなかった。己の身体、技を重要視していたからだ。多数の流派に師事はしたが、その程度の見聞では足らない。
世界を知らねばならない。あのアレハンドロも、精霊術だけでなく剣術にも精通しているように感じた。つまり、この世界にも体系的な技術が存在するということだ。
流派に貴賤はなく、どんな技にも理合いが存在する。それらを見聞きするのだ。己の力量のみで完成する武などたかが知れている。味わい、咀嚼し、取り入れ、昇華させる。若い身体のうちにこそ、やるべきことだ。
「一所に留まりはしないでしょう」
「はい。そんな目をしていらっしゃいます」
「だが、儂は無知。しばらくは常識を教えて頂きたい。その間に成せることを成しましょう」
「結構。妥当でしょう」
「感謝を。御首の一つも挙げるべきかもしれぬが」
「それではまた貰いすぎでしょう。適当に、お願い致します」
「相承った」
両ひざの前で拳を地につけ、深々と頭を下げた。欲張らず、清廉に、対等に。久々に出会った面白い御仁である。イリーナが何か言っているのだろうが、絶妙な懐を見せてくれた。
「遠き国の友人よ、あなたに精霊の加護があらんことを」
友人ならば仕方がない。強かなものよ、とリュウは快也とばかりに笑った。
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