第11話 バイトNo.6 ADROOM② えべっさん(戎神社のテキヤ)

冬場に外の仕事なんてしたく無かったが、皆、休みで帰ってしまい、今、大阪にいるメンバーだけ呼び出された。


行くのは戎神社のテキヤのバイト。


いやあ、やったことないんですけど〜。

まあ、毎回始めてみたいな仕事ばかりなんですが、テキヤってヤクザみたいなもんでしょ?


いやいや◯◯君はなんか勘違いしてるね。

ヤクザとテキヤは全然違うよ。

テキヤは真っ当な仕事。

ヤクザは裏家業。

な?違うやろ?


リーダー、この後どっかでパーティと違うの?


結局、リーダーは、関西各大学の広告宣伝サークルの交流会と言うパーティにお出かけ。


残されたM先輩とタカヤマ先輩と私の3人が、テキヤさんの集まる喫茶店へと向かった。


朝早くからやってる喫茶店はそう多くはない。


中に入ると、いきなりメンチ切られてます。


あの、すみません。

ADROOMから手伝いで来ました。Mです。

タカヤマです。

◯◯です。


ああ、手伝いのバイト君かぁ。

今日は頼むで。

朝から夜までの長丁場や。

その代わり1日で一万円!

予定を超えて売り上げたチームはボーナスあるで。


こいつは飴屋。◯◯君、ここ頼むで。

こいつはお好み焼き屋。M君頼むで。

こいつはイカ焼き屋。タカヤマ君頼むで。


基本的に、うちの下っ端がやるからちゃんと見といてえな。品物が減ったら補充や。あと、下っ端がトイレ行きたくなったら交代でトイレ行かせるから、代わりに品物売ってな。はい、質問!


特になし!

それじゃ解散!


飴屋さんと2人で、参道のとある屋台でお仕事スタート!


大阪のえべっさんってテレビでもやってるし、有名なんだけど、実際に行くのは初めて。


しかも、テキヤも初めて。



飴屋さんは、本業ではなくテキヤの関西なんとか会のナニナニ組だとか。なんか言葉がハッキリして無いので聞き取りにくい。


で、飴屋さんには飴屋の兄さんと呼ぶ様言われる。


で、私にはバイト君だ。まあ、だいたいバイトに行くとバイト君が多いな。それか◯◯君。


横で手伝いをしてるけど、これかなり忙しい。

戎神社はかなり大きい神社で、参拝客が縁起物だとかで買って帰る人が多く、飴屋と言えど馬鹿にはならない程、売れに売れる。


飴は全て一斗缶に入った物がやってくる。今はもうどんな種類の飴だったか覚えてないけど、ねじりんぼう。丸く捻ったやつ。大きいのはピンクとか青、緑の綺麗な色の糸みたいに編んで縁起物の絵の様な飴で、これひとつで3000円とかする。まあほとんど買わないだろうと思ってると、ひとり買うと周りの人が釣られて次々と買い出す。


すごいなと、思って見てると、さっき買ってくれた兄ちゃんが、裏からそっと回って返却に来た。

サクラでした〜。


でもサクラでも、それ見て周りの客が買えば立派な商売。詐欺でもなんでも無い。また客がこの値段でも買いたいと思えば需要と供給が合うのだ。


ずっとやってて、途中トイレ休憩を何度か交代で済まして、売り方のコツというか、声をかけるタイミングが分かりだした。


誰も見てない時に声かけてしても。周りの喧騒で聞こえないし、飴なんて買いたいと思わないよね。


参拝した後だったら買いたいと思うけど、その時には既に他の商品があり迷ってしまう。


顔を見てると、何回に一回くらいこちらの商品を見る客がいる。その瞬間に声がけすると、半分くらいは見てくれる。しかももし買ってくれれば、周りの客も見てくれて、それが雪崩れ始めた様に5人くらいが列を作って買ってくれる。


このタイミングでないと、誰に声掛けても聞いてないから時間の無駄。


飴屋の兄ちゃんが、


バイト君、うちに就職せえへんか?


と、ジョークを言ってくるくらい仲良くなった。


何度目かの交代で、私ひとりが店番してる時に、ただの客じゃ無い、いかにものヤクザ者っぽい人が飴屋の屋台を見つつ、私に向かって言った。


真っ白なトレンチコートに、真っ白な帽子、真っ黒なシャツとサングラス。夜の戎神社の屋台が並んでるところにこんな感じの人が普通は無いよね。


××組の屋台で間違いないですね?


は、はいそうです。(本当は組の名前は良く聞こえなかったんだけど)


姉さんはお元気ですか?


あ、すみません。ただのバイトなんで、よく知らないんです。


失礼しました。ではその飴をひとつください。


と、一袋を渡すと一万円札を渡した。


あ。いまお釣りを渡しますね。


お釣りはバイトの兄さんに。それと。もし姉さんに会ったら、、。いや、何も言わなくてもいいです。

変な奴が居たと伝えてください。


では!



シュタッという音が聞こえた様な気がして、なんだか昔の博徒ものの映画の様な人だったな、と思った。




◇◇◇




結局、夜まで何度かの休憩と、飯にありつき、バイト代は一万円。

ボーナスも一万円。

あの時代がかった博徒みたいなお兄さんから一万円もらって、合計3万円稼ぎました。


あ、博徒みたいなお兄さんの話は、飴屋の兄さんには言ってません。もし込み合ったら怖いでしょ。。。

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