第24話 怪盗夜鷹の挑戦状
悠里が呼び出された所長室で聞かされた内容は意外なものだった。
「『怪盗夜鷹』ですか?」
「そうだ。聞いたことはあるかい?」
「いえ、全くありません」
いつものように飄々とした糸目の所長の言葉に首を傾げる悠里。
「いくら何でも宇宙先進国で怪盗ってのは前時代的のような……何というか非現実手的な感じがします」
彼の言う通りで様々な事を電子的に監視している宇宙先進国では変装で警察を煙に巻いて逃げるという怪盗は色々と無理がある。
普通に考えれば不可能だが、それには大きな理由があり、シジフォス所長が説明する。
「『英雄』のような特殊能力はハッキリ言って法則性が一切無いからね。それを悪用する連中はどこにでも居るんだよ。軍にも警察にも属さなければ能力も知られないからね」
『英雄』と呼ばれる異能力者はその能力は多岐にわたる。
そして、誰にその能力が手に入るかまでは完全にランダムなのだ。
そうなると必ずしも真っ当な相手に渡るとは限らない。
英雄と言うのは陰に陽に様々な分野に存在しているのだ。
「そもそも能力の手に入れ方は多岐にわたる。『神器』を手に入れる。異界の物に触れて『召喚』出来る。前世の記憶を取り戻して『前世』の能力を得る。神の啓示を受け『使徒』になる。色んなやり方がある」
「本当に多彩ですよね……」
自身が虚人になった時を思い出して顔を顰める悠里。
「今だ未知の異能力があってもおかしくはない。怪盗夜鷹はその一人でもあるんだよ」
「はた迷惑な……」
そう言ってぼやく悠里に、向かいに座ってた小太りの優しそうな眼鏡おじさんが笑う。
「ゴメンね悠里君。さすがに英雄相手になると日本警察も難しい」
「まあ、そうなりますよね……」
日本警察が宇宙に比べて遅れているのは何も捜査能力だけではない。
英雄の数でも遅れており、開国して5年経っているのに未だに英雄の数はゼロである。
ちなみに悠里は日本人だが、ニューガン皇国の英雄にカウントされている。
「日本でも早く英雄が見つかって欲しいんだけど……」
「こればっかりは流石に運ですから。居るとは限らないですし、居ても見つかるとは限らないです。丹太郎さんのせいでは無いですよ」
心なしか糸目を垂らして小太りのおじさんを慰める糸目の所長。
このおじさんは門脇丹太郎と言って、伊岳市の日本警察署の署長である。
伊岳市はニューガン皇国の交換租界地という特殊な構造ゆえに、警察署も二つある。
すなわちニューガン警察と日本警察である。
どちらも伊岳市の法律を守らせるのが仕事で、やることも変わらない。
だが、『どっちの国の土地でもある』という特殊な環境ゆえに、こういった仕組みが必要になってくるのだ。
門脇署長が説明した。
「怪盗夜鷹は宇宙で様々な盗難事件を行う怪盗として割と有名らしいよ。そして何よりも厄介なのは予告状が暗号めいている点なんだ」
「……暗号ですか?」
「そうなんだ」
そう言って門脇検事はファイルの一つを見せる。
「ある金持ちに『愛する人の宝物』を奪うって予告状が来たことがあるんだけど、その時は奥さんが大事にしている価値のある彫刻品を守っていたんだよ」
「……まあ、普通に考えればそうなりますよね……」
少しだけ嫌な予感がしつつも続きが気になる悠里。
門脇検事は少しだけ苦笑する。
「結局盗まれたのはその金持ちの愛人がちょろまかしていた多額の宝石だったんだ。お金を溶かしていたのと愛人の存在がバレて、その後が酷かったらしい」
「……それはまた……」
思わず笑ってしまう悠里。
いかにも怪盗らしい仕事である。
「こんな感じで事件が終わった後も何かと物議を醸す怪盗でね。彼が日本の地主に予告状を送りつけてきたから、何とか守って欲しいんだ」
「それはわかりましたけど……守り切れますかね?」
にこやかな門脇署長に対して渋い顔の悠里。
当り前だが、悠里はまだ高校生で経験も浅く、立場も見習い探偵である。
悠里は冷静で慎重なタイプでリスクを冒さないタイプだ。
出来もしない分不相応な案件を引き受けるほどではない。
すると、シジフォス所長がカラカラと笑った。
「今回は君だけじゃないよ。僕たちも行くし、他の探偵事務所にもお願いしてる。伊岳市の管轄外だから探偵しか出てこれないし、君はあくまでも手伝いに来るだけだよ」
「まあ、そういった事なら……」
悠里も少しだけほっとして受ける。
だが、それを見て不思議そうに門脇署長が尋ねる。
「いくら何でも君に責任負わせて全部やらせたりはしないでしょうに」
不思議そうな門脇署長だが、悠里は渋い顔で答える。
「だって、シジフォス所長は割と危険な案件でも俺にやらせるんすよ? そりゃ、気になりますよ」
それを聞いてキョトンとする門脇署長だが、シジフォス所長はカラカラ笑う。
「甘やかすだけが指導では無いからね。実際の事件や契約とかの怖さも教えないと」
「そ、それはまた……」
あっけらかんとしたシジフォス所長の言葉に苦笑いするしかない門脇署長だった。
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