第23話 麻薬の原料
「……実は出回っている麻薬がお菓子に偽装されてるって話しがあるんだ」
「……お菓子っすか?」
「ああ」
そう言って白板の前に立ってペンを取る悠里。
「宇宙で出回っている麻薬の種類の数はいくつか知ってるか?」
「……さあ?」
「おおまかな括りでも7000種だ」
「……そんなにっすか!」
「そうだ」
そう言って顔を顰める悠里はボードの前でタッチペンをくるくる回して何やら書き始める。
「麻薬の密輸のやり方自体はそんなに地球のやり方と変わらない。既存のルートに偽装して運ぶか、独自のルートを構築するか、放り投げるかのいずれかだ」
「……最後だけよくわからないんすけど?」
既存のルートを使うのは荷物の中に隠し持つのでわかる。
独自のルートというのはトンネル掘ったり、海から密輸するやり方である。
すると、悠里はホワイトボードに図を描いて説明する。
「こんな感じで国境に壁があったとしたら、その壁を越えて荷物を放り投げるだけのやり方だ。後は向こう側にいる仲間がそれを受け取るってやり方だ。後はこれらの複合であったり、進化系だな」
「なるほど」
言われて納得する純。
「だがこれだけ麻薬の種類が多いと、税関自体も気付かない事が多い。知らない麻薬だと目の前にあっても気付かないからな……特にお菓子に偽装されやすいからそっちの可能性が気になってな……」
「そうなんっすか……でも何でお菓子に偽装するんすか?」
不思議そうな純だが、悠里も困り顔で答える。
「わかりやすい事例としてチョコレートはお前も知ってるな?」
「はい」
「実はそのチョコレートに偽装するタイプの麻薬もあるんだ」
「はあ……けどそれぐらいなら昔の地球でもあったような……」
納得しない純に困り顔になる悠里。
「チョコレートは何で出来てる?」
「カカオっす」
「宇宙にはそのカカオ系の植物から生まれる麻薬もあるんだよ」
「……ええええええ!!!!」
それを聞いて驚く純だが、悠里は渋い顔で答える。
「本当だ。麻薬は合成して生み出す科学系と生物から生み出す自然系に分かれるが、自然系麻薬にこういうのがある」
「へぇ!」
芥子の花が麻薬の元祖みたいなものである。
そのせいか天然由来の麻薬と言うのは意外に多く、様々な効果がある。
と言ってもそれには大きな理由がある。
「そもそも薬なんてもんは自然の植物から調合で作るもんだろ? だからその星々で独自に発展した植物を使った麻薬があってな。そういうのを全部合わせるとおよそ7000種と言われてるんだ」
「なるほど!」
納得する純。
そもそも洋の東西で植物も大きく変わってくるのだ。
同じ分類でもこっちでは無害だが、あっちでは猛毒というのはざらにある。
まして、星を超えて独自に進化したならば、こういったことも往々にしてある。
だが、一つだけ疑問が生まれる純。
「あれ? でもカカオって宇宙にもあるんすか?」
「あるぞ」
「…………何でです? 宇宙と地球とじゃ、違う進化してる生態系のはずなのに?」
本来なら星が違えば生態系が完全に変わるものだ。
同じ姿でも全く別の進化をしているのだから当然である。
だが、そうなるのも訳がある。
「……あーまだ習ってないんだな。実は宇宙には超古代文明ってのがあってな。現生人類も元をただすと超古代文明が一度崩壊してから出来たってことがわかってんだ。そのお陰で遺伝子的には元祖が同じ植物はざらにあるんだ」
「えっ? そんなオカルト的な話があるんですか?」
「あるぞ。そのせいで地球では絶滅している動物が他の星では生きていたりすることもある。その辺は後で調べとくと面白いぞ?」
「わかりました!」
「……そこだけ妙に嬉しそうだな?」
妙なことに興味を持つ純に少しだけイラッとする悠里。
「それはさておいて、押収した麻薬から天然由来なのは間違いなくわかってるんだが、どの生物からなのかはわかってないんだ。それがわかると税関で未然に防げるから知りたいんだよ」
「なるほど……」
「という訳で、何か心当たりあるか? 変わったお菓子持ってたとか?」
「う~ん……」
そう言って腕組みして考え込む純。
「そうは言っても普通にお菓子を食べていましたし、周りの友達も普通に食べてましたからねぇ……変わったお菓子なんて食べてたかな?」
そうやって純が考え込んでいると、声が掛かった。
「悠里くーん。仕事だよー。日本警察からの依頼だ」
「わかりました……ま、とりあえず自習してろよ」
そう言って悠里は部屋から出て行った。
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