第22話 麻薬組織
「そう言えば兄貴は麻薬組織と戦っているんですよね?」
最近はニュースでその辺の話が色々と出ているので、それを思い出す純だが、悠里はため息を吐く。
「正確には日本警察だ。この探偵事務所は日本警察の依頼で麻薬組織取り締まりに協力してんだよ」
「そうなんすか?」
不思議そうに首を傾げる純。
「あれ? でも探偵って警察とは別の捜査権があるんですよね?」
この世界では……と言うよりも宇宙では探偵は警察とは別の捜査権を持つ組織で言わば民間警察のような位置づけである。
警察の汚職を捜査して良い立場なので、基本は警察とは馴れ合わないものである。
だが、悠里は自分のアホ毛を引っ張りながら答える。
「何事も例外はあるんだよ。警察って言っても常時組織犯罪に対抗できるほどの戦力を持ってるわけでも無し、大きな組織の場合は探偵も警察に協力する。特に警察の場合は縄張り意識もあって、隣の警察と協力できない場合もあるからな」
この辺が探偵制度の利点で、必要な時に全国から戦力を集めることも可能なのだ。
そして、このシジフォス探偵事務所が日本警察に協力する理由が他にもある。
「ついでに言えば、宇宙に開国してまだ五年の日本では、宇宙の技術や犯罪情報に弱い。特に電脳犯罪については全く技術者が居ないからな。うちのようなスールがメインの探偵事務所が協力しないと何も出来んのよ」
「なるほど」
悠里の説明に納得する純。
そもそもネット犯罪に弱かった日本警察ゆえに、ハッキングには疎い。
それに対して宇宙の犯罪はスールして痕跡を消すのが主流である。
と言うのも様々な形で身分証やカメラでチェックされるのが宇宙の施設である。
商店、駅、トイレ、ビル……様々な場所で出入りをチェックされるので、犯罪が起きると真っ先に調べられるのは移動履歴である。
突発的な素人犯罪は証拠が残りまくるのだが、プロ犯罪になると真っ先にスールして履歴を消去する前提で行動する。
その足跡をたどる為にも……と言うよりも足跡が電子情報の海にしか残らないのでスール技能が必須なのだ。
「だから、麻薬組織の動向を探ってはいるんだが……まあ、お前にはまだ早いな」
「えー! そっちの方が興味あるっす!」
「やらんといかんことに集中しろよ……」
くにくにと頭に手を当てて、自分のアホ毛を弄る悠里。
考えると頭のアホ毛を弄る癖があるのだ。
「まあいい。ちょうどお前にも聞いておきたいことがあったからな」
「何すか?」
「お前、在原さんから何かお菓子貰わなかったか?」
「……お菓子っすか?」
それを言われてキョトンとする純。
在原さんは麻薬組織の犯罪に巻き込まれて自殺した彼の友人である。
それを思い返して頭を回す純だが…………
「ポテチとかチョコレートとか、そういうのは一緒に食べたりしましたけど?」
「宇宙製か?」
「??? そうっすよ? 在原さんは普通にコンビニで買ってましたから。最近は宇宙製品の方が出回っていますからね」
純が不思議そうにするのも仕この世界では宇宙からの食料品の輸入は多い。
もはや日本が生産している食料品の方が無いぐらいだ。
これには悲しい理由があり、宇宙では日本の食物が珍しく、高値で買い取られてしまうのだ。
やはり、星が変わると生態系も変わるので、地球にある食品の大半が宇宙には無い食品である。
元々安値で買いたたかれていた農家にしても、百倍近い値段で買ってくれる宇宙人の求めに応じない理由はなく、そうなると今まで卸していた会社に売る理由も無くなる。
まあ、流石に仁義云々があるので、全く売らないわけでは無いが、当然ながら高い値段で少ない量しか売らない。
結果的に、日本の食べ物が買えなくなっていて、代わりに宇宙で生まれた食品が買いやすくなっているのだ。
一応、生産性を上げる為に農場を増やすなどの対処をしているのだが、いかんせん人手が足りない。
この世界の日本は何かと普通とは違うのだ。
そう言った事を思案しながら悠里は考え込んだ。
「……ふむ」
「どうしたんっすか?」
不思議そうな純に悠里は静かに答える。
「……実は出回っている麻薬がお菓子に偽装されてるって話しがあるんだ」
「……お菓子っすか?」
「ああ」
悠里は渋い顔でうなづいた。
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