第21話 お勉強は長いと辛い

パコン!


 丸めた紙束で頭を叩かれる悠里。

 叩いたのは先輩探偵である青いモヒカンの青年だった。

 そんな彼が苦笑しつつ、悠里に向かってぼやく。


「良く言うよ。あれだって侵入は俺達に任せればよかっただろうに。お前が直接向かうよりも、俺達に任せた方が良いだろう?」

「……まあ、そうなんですけど」


 先輩探偵に怒られて仏頂面になる悠里。

 モヒカンさんはにこやかに笑った。


「英雄の心得で一番大事なのは『焦らない』事だ。下手に自分が強いから、迂闊な行動を取りやすい。だが、犯罪組織にも英雄は居る。その辺を考えずに突っ込むとコイツみたいに痛い目に遭うから気を付けるんだぞ?」

「はい」


 微妙な顔の悠里と同じように微妙な顔で答える純。

 モヒカンさんはニコニコと言った。


「先を続けて」

「はい……では第四問……」

「の前にもう一個言い忘れていることがあるだろ?」

「言い忘れていること?」

「現実世界から色んな物を電脳世界に持ち込むことが出来ることも虚人の長所だ」

「……すんません」


 モヒカンさんの言葉に悠里は謝る。

 実はこういった事が簡単に出来るのも長所である。

 そのお陰で必要な物を端末の中に入れておくなどの便利な機能がある。

 ただし……


「現実世界の物は容量を相当食うのと、?」


 こういった制限もあるのだ。

 先輩所員がうんうんうなづきながら語る。


「電脳世界に端末を入れようとすると、容量が何故か『無限大』になる。入れるだけでぶっ壊れるか、弾かれるから注意な」

「了解です」

「じゃ、四問目に行って」


 微妙な顔になった悠里は試験を続ける。


「第四問 英雄の助手をやる上でもっとも大切なことは?」

「常に英雄の個人情報を悟られないことです」

「そうだ。具体的に何に注意しなきゃいけない?」

「世間話です。例え親兄弟であっても英雄のことは何も話しちゃダメです」

「それも半分正解だ」

「どうしてですか?」

「それ自体は間違っちゃいないが一個忘れている」

「何をです?」

「英雄として活動している時は赤の他人であるってことだ」

「……赤の他人ですか?」


 不思議そうな純に悠里は説明する。


「お前が英雄と知り合いだってバレると、お前から逆算されるんだよ。だから赤の他人ってことにしとかねぇと、お前から芋づる式に全員の素性がバレる」

「なるほど」


 こういったことは良くあるのだ。

 だから個人の隠蔽にはこの辺が慎重になる。


「英雄として仮面を被って活動している時は絶対に声を掛けない。これは鉄則だからな」

「了解っす!」


 バシッと敬礼をきめる純だが、微妙な態度に不安になる悠里。


「ったく。今は麻薬組織と色々揉めてるから大変だと言うに……」


 頭のアホ毛をいじりながら悠里はぼやく。

 それを聞いて不思議そうに尋ねる純。


「そう言えば兄貴は麻薬組織と戦っているんですよね?」

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