桃から生まれた金太郎
第20話 探偵はお勉強から
この世界における探偵は現実世界の探偵と少々意味合いは違う。
現実世界ではただの興信所である探偵だが、この世界の探偵は警察と肩を並べるれっきとした捜査権を持つ司法組織である。
すなわち、有料で捜査してくれる民間警察のようなものだ。
そして、伊岳市には「シジフォス探偵団」がある。
小さな探偵団だが、電脳捜査であるスールを専門としており、日本警察の専属探偵団でもある。
小さいながらも優良な探偵団なのだが、その事務所の中で何が行われているのかと言われると……見習い達が勉強をしていた。
「……もう無理っす……」
「まだ全然足りてないぞ? もっと勉強しろ」
「無理っす……これ以上頭に入らないっす……」
頭からアホ毛がぴょこんと出た悠里の言葉に、純が泣きながら机に突っ伏していた。
机に置いてあるノート端末に覆いかぶさるように突っ伏しながらぼやく。
「無理っすよ。オイラの頭には厳しいっす……」
「……まだ、最初の心構えしかやってないんだぞ?」
純の泣き言に悠里が呆れ顔で答える。
「俺の助手になりたいんだろ? だったら頑張れ」
「はい……………………………………」
しくしくと泣く純にため息を吐く悠里。
「じゃあ、ちょっと試験をやるぞ」
「うぇ~……………………………………」
苦しそうに呻く純だが、悠里は構わず続ける。
「仕方ないだろう? 『英雄』の助手をやるんだ。軽い気持ちじゃ務まらんぞ?」
「はーい……」
「簡単な問題にしてやるから。ちゃんと頑張るんだぞ?」
「はい……」
悠里の言葉に渋々うなずく純。
「まずは第一問 『英雄』とは何か?」
「普通の人間では持つことが出来ない異能力の持ち主です」
「正解。まあ、超能力とかだな。色んな形の能力がある」
純の言葉に静かに答える悠里。
「第二問 俺の能力は何か?」
「『虚人』と言って、電脳世界に出入りして、電脳世界で出来ることを現実世界でやれます」
「半分正解だ。一応、電脳世界でも凄いことが出来る」
「……そうなんすか?」
「……ちゃんと説明したぞ?」
不思議そうな純の言葉に呆れ顔の悠里。
「普通のスーラーよりは高い能力を持てる。現実世界に引っ張られるのか、攻撃が必ず通るようにはなるし、防御も強くなる」
「へぇ~! やっぱ兄貴って凄いんすね!」
「おだててもダメだぞ?」
「……ちぇっ」
少しだけ舌打ちをする純。
ちなみにスールとはこの世界の用語でハッキングのことである。
「では第三問 虚人の弱点は何か?」
「ベースになる端末から離れられないことと、その端末がネットと繋がらなくなると能力が消えることです」
「……またしても半分正解だ」
「……またっすか?」
「そうだ」
微妙な顔の緑丸に困り顔になる。
「スール関連の知識がすっぽ抜けてるな。能力が無くなると言うよりは、能力が限定されるようになる。ベース端末は無限アイテム倉庫みたいなもんで、色んな予備があるから、ここと繋がっている間はほぼ死ぬことはないってだけだ」
「十分凄いと思いますが?」
悠里の言葉に不思議そうに呟く純。
「ただ、このベース端末というのは親機と子機があってな。親機と子機が繋がっている時は無限アイテム倉庫が使えるが、繋がっていない場合は子機に入っている分のアイテムしか使えない」
そう言って白板にわかりやすく図に書いて説明する悠里。
「前に部室で見せたように普通にスールする場合は、この辺は当たり前に使える。だが、英雄のお仕事は大半がネットから離れるからな。これは確かに有利だが、使える条件は大分限定されるから結局無いのと一緒だ。ネットの接続が切れると、持っている武器とアイテムだけで戦うから最初からそのつもりで戦う」
「う~…………」
何となくわかったようなわからないような純。
「さらに言えば、子機からも離れてしまうと、完全に手持ちの武器以外は使えなくなる。子機の分のアイテムすら出せなくなるから極めて危険になる。それから、さっきも言ったがスールに対して強くなるって言ったろ?」
「はい」
「それは体ごと電脳世界に入れるからだ。普通よりもスールに強くなる一方で、その代償が無いとおかしいだろ?」
「それはそうですけど……まさか!」
「そのまさかだ。自分の体を電脳世界にある状態で死ぬとそのまま電子情報の海に消える」
さらっと言う悠里の言葉に純の顔が青くなる。
「実際に前の事件であっさりスール出来たのはこの能力のお陰だ。端末が近くにあると入力端子から入ることできる。だが、便利だからと言って多用は出来ないってことだ」
「そうなんっすね。ひょっとしてスールの腕を磨いているのも?」
「そうだ。なるべく頼らずに済むように腕を磨く必要がある。ああいった緊急時は仕方ないけどな」
そう言って話を進めようとする悠里だが……
パコン!
丸めた紙束で頭を叩かれる。
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